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honey×coffee  作者: 黒宮涼
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第二十八話 仲の悪さ

 翌日、顧問の蔵元先生も合流して、皆で金閣寺見学へ。


「あれが金閣寺。向こうへ行くと銀閣寺があります」


 水ノ橋さんの丁寧な解説の元、カメラマンはもちろん瀬戸先輩。集合写真やら、風景やらを自慢の一眼レフカメラで撮る。


「蔵元先生は別荘で休んでいたらよろしかったのに。あまりご無理はなさらないで下さいね」


 気を使って水ノ橋さんがそう言う。


「ありがとう」


 蔵元先生はそう言って、優しく微笑んだ。蔵元先生は昨日どうしても一緒には来られない理由があり、一人だけ夜行列車に乗って来たのだ。


「でも一応顧問だからの。引率しないと」

「そうですか」


 水ノ橋さんが納得したように頷く。


「あ! 見てよ。鯉がいる」


 池の中の鯉を見て、急にはしゃぎだす三河。


「ほんとですー」


 そう言いながら、三河を撮る瀬戸先輩。


 鯉を撮るんじゃないのか。


 と思いつつ、俺も池の中を覗く。なるほどでかい鯉がうようよいる。


 祐樹も柵から身を乗り出すようにして、池の中の鯉を見ている。


「ネエ、ここからしかミレナイノ? キンカクジ」


 マルクの言葉に、「残念ながら」と答える水ノ橋さん。


 この間から思っていたのだが、この二人に漂うこの緊迫感は何だろう。


「ふーん。ツマンナイノ」

「銀閣寺はもっと近くで見られますよ」


 フォローするみたいに、水ノ橋さんが言う。


「ねぇ、鯉の餌とか売ってないの?」


 池の中の鯉を見ながら突然、三河が言い出した。


「さっき向こうで見たぞ」


 それに祐樹が答える。


「じゃあ買ってきて」

「は? 自分で買ってこいよ」


 本当に嫌そうに、祐樹は言う。


「買ってきなさいよ。あたし場所知らないもん」

「さっき通っただろ」

「知らないし」


 俺は何か嫌な予感がした。


「はぁ? 何でだよ」

「知らないものは知らないの。いいから買ってきて。お金払うから」

「お前いい加減にっ」

「まぁまぁ。二人とも」


 祐樹が切れかけているのに気づいた俺は、二人の間に割って入る。


 折角の合宿だ。ケンカなど始められては困る。


「悪い」


 察してくれたのか、祐樹が俺に謝る。


「三河、俺が買ってくる」


 俺はそう言って、三河に向かって右手を出した。お金をくれということだった。


「え、いいの? ありがと」


 三河がそう言って、俺に千円札を渡してきた。いあ、鯉の餌代に千円も掛からないだろうと思いながら、俺はそれを受け取った。俺も鯉の餌を売っている場所に心当たりがあったので、そこへ向かった。


「君島くん、待って」


 ふと後ろから声がしたので、俺は立ち止まって振り向いた。


「水ノ橋さん。どうしたんです?」


 小走りで追いかけてきたのか、声の主の息は少し荒かった。


「あの……。ごめんなさい」

「え?」


 水ノ橋さんに謝られて、俺は首を傾げた。そんなふうに謝られるようなことを、彼女にされた覚えがないのだが。


「その、三河さんと朽木くんのことです。空気悪くしてごめんなさい。元はと言えば私が朽木くんを合宿によんだので」


 何だ、そのことか。気にする必要はないのに。


「水ノ橋さん、どうして祐樹をよんだんですか。大勢いると楽しいからという理由だけじゃないんでしょう」


 俺は尋ねた。何か他に理由があるのだと思ったからだ。


「それは、何かきっかけがあれば、二人の仲が良くなると思ったのです」

「三河と祐樹がケンカしているの、楽しくない?」

「やっぱり、仲が悪いのはよくないですから。楽しく、ないです」


 水ノ橋さんが、少し寂しそうな顔をしてそう言った。


 まぁ、ケンカを見て楽しいと思える人間などそうはいないだろう。


 けれど、俺が水ノ橋さんのそんな顔を見たのは初めてだった。


 昨日、使用人の言っていたことを思い出す。


「水ノ橋さんは、その……俺達といて楽しい?」


 俺が聞くと、水ノ橋さんは優しく微笑んだ。


「楽しいです。こんなに楽しいのは、久しぶりです。これも、三河さんのおかげなんです。三河さんに出会わなければ、私はこんなに楽しい空間にいられることもありませんでした。ずっと一人でした。それはきっと、君島くんも同じなのでしょう?」


 水ノ橋さんに聞かれて、俺はぎこちなく頷いた。


 否定できなかった。今まで散々三河に振り回されて嫌な思いはしたが、何だかんだで楽しい。


 でも、三河は三河のしたいままにしてるだけなんだよな。


 不思議だった。そして同時に、三河椿という人間の偉大さに、俺は気づいた。


「仲良くしてほしいのは、実はうちの父と母も仲が悪くて。たまにしか顔を合わせないのに、その時にはいつもケンカしかしなくて」


 水ノ橋さんの言葉に、俺は重みを感じた。


「……っそろそろ戻ります。変に思われるといけないので」

「あ、うん。水ノ橋さん」

「はい?」


 俺は皆の所に戻ろうとする水ノ橋さんを呼び止めた。


「その、俺でよければですけど。いや、誰でもいいんですけど。えと。何か悩みとか、そういうのがあったら、何でも言ってください。一人で抱え込むのは、苦しいですから」


 俺が言うと、水ノ橋さんはしばらくその場に立ち尽くしていた。


 それから、「ありがとうございます」と、言い残して去って行った。 


 鯉の餌を買って戻ってくると俺は三河に餌とお釣りを渡し、後は三河が鯉に餌をやっている光景を見ているだけだった。


 その後は、京都の街を歩き回り、昼食をとり土産物を買って、別荘に帰った。今晩また一晩ここに泊まり、明日の昼ごろ発つ予定である。

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