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honey×coffee  作者: 黒宮涼
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第二十話 追う者と追われる者

 球技大会終了後。俺はグラウンドの片づけを手伝っていた。


「ふう。結構落ちているもんだな」


 うちわやらティッシュのごみが落ちている。


 何故かお菓子のごみまで。いや、こっそり食べたならこっそり捨てるなり持って帰るなりしろよ。とは思ったが、仕方ないのでごみ袋に入れた。これも美化委員の仕事である。


「君島……?」


 不意に声をかけられて、俺は驚いて顔を向ける。


「あ」


 そこに立っていたのは、坂本だった。


「悪い。邪魔して。でも、一言お前にいっておきたくて」

「な、何?」


 俺は、彼の顔をまともに見られなかった。何を言いに来たのだろう。


「今日、お前が楽しそうにサッカーしているの見て安心した。……そ、それだけ」


 坂本は言うと、逃げるように走っていった。


 俺はその場で立ち尽くしていた。


 ああ、そうか。と、俺は彼の一言で理解した。


 あのころ、俺は自分のことでいっぱいだったけれど、仲間たちはみんな俺のことを心配してくれていたのだ。俺が見ようとしなかっただけで。みんなは俺を見ていてくれたのだ。


「なんか、申し訳ないことしたなぁ」


 俺は呟きながら、空を仰いだ。


「何、一人でたそがれちゃってんの」


 突然、後ろから背中を叩かれて俺はよろける。


 見ると、三河が立っていた。


「あ。三河。お前」

「おっと。部活の件は後にしてね。今あたし、追われてるの。いやぁ、つい本気出しちゃったのが駄目だったわ」

「は?」


 俺が首をかしげていると、先輩と思われる生徒が、こっちに向かって走ってきた。


「三河さーん」

「おい、呼ばれているぞ」


 俺が三河のほうに視線を投げると、もうすでにそこに彼女の姿はなく。


「あ、そこの君。今、三河椿さんそこにいなかった?」


 先輩に尋ねられても「え、あ。さ、さぁ」とあいまいに答えるしかなかった。


 逃げ足の速いやつめ。


「おかしいなぁ」 


 先輩方は首をひねっている。


「み、三河に何か用があったんですか」

「ソフト部に入部してほしくて。あんな逸材がいたなんて、文化部じゃもったいないと君も思わない?」

「まぁ、確かに」


 言われてみれば、今日の三河のプレーを見ていれば、ソフトボール部が彼女を欲しがるのも無理はない。けれど、三河はいつも自分の好きなことをやっている。


「君からも声かけといて」

「いえ。あの。彼女もやりたいことが他にあったから運動部に入らなかったと思うので、その。無理強いはよくないと思います、よ」


 差し出がましいとは思ったが、俺は三河の気持ちを汲み取った。


 和道部が彼女のやりたいことだ。ならそれでいいと思う。振り回されるのは勘弁してほしいけれど。


「そっか。それもそうよね。君、優しいね」


 ソフトボール部の先輩はそう言って、去っていった。


 慌ただしい一日が終わる。


 祐樹の和道部入部の条件は優勝だったから、おそらく絶望的だろう。三河の気が変わらない限りは、何も変わらない。ただそれだけが残念だった。

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