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空論ブランコ

作者:

一月十三日深夜零時前。成人式の二次会を抜け出し小学校に忍び込んだ女二人(以下、利佳と香子)。二人は校庭のブランコに座り談笑をしている。香子、地面に無造作に置かれたコンビニの袋の中から、缶ビールを取り出し飲んでみる。


香子 うっえ、まずい。


利佳、その様子を横目で見やり袋の中から女性ウケの良さそうなパッケージの缶チューハイを取り出し飲む。


利佳 あ、これそんな強くない。これならいける。

香子 ……ちょーだい。

利佳 ん。(缶を渡す)

香子 (恐る恐る飲む)……ほんとだ。ほぼジュース。

利佳 ジュースって、飲めないやつがよく言うよ。

香子 利佳だって飲めないじゃん。

利佳 まあね。

香子 でも意外。

利佳 ……何が?

香子 利佳ってさ、子供の頃酒強そうってよく言われてなかった?

利佳 ああ、言われてたかも。将来酒豪になりそうとか。

香子 パッチテストだってほぼ変化なしだったのにね。

利佳 小五くらいの時にやったあれね。

香子 私はあれでさえすぐ真っ赤になっちゃったけどさ。

利佳 あれ、当てにならなかったな。私もあの結果で自分は酒強いんだろうなって思い込んでた。

香子 ところがどっこい。

利佳 期待ハズレでごめんなさいって感じ。

香子 あはは。

利佳 ほんともっと飲めると思ってたんだけどなぁ。

香子 いいじゃんいいじゃん。ジュースだって美味しいよ。

利佳 それはそうだけど、(返して、と手を差し出し合図)そういえばマナは強いんだよね……。

香子 (缶チューハイを返し、手に持っていたビールを流し捨てる)うちも。こういうのって遺伝関係ないのかな。

利佳 あ、ママじゃなくてマナね。愛美。うちのママも強いけど。

香子 そっちか。愛美かぁ……全然会ってない。

利佳 そうなの?まあ、接点ないと会うこともないか。

香子 うん。懐かしい。

利佳 一時期二人仲良かったよね。中学の頃?

香子 あー……、うん。でもそれっきりかな。

利佳 よく二人が帰りにうちのマンションのブランコに座ってこうやって駄弁ってるの見かけてた。(軽くブランコを漕ぐ)

香子 そっか、利佳と愛美ってマンション同じか。

利佳 そう。あいつたまにうち来るんだよね。

香子 そうなんだ?

利佳 そうなの。去年辺りから。(地面の袋を見ながら)大量のビールとかサワーとか買ってきてさ。度数高いのから低いのまで、あんまり飲めないって言ってるのに。まあ、向こう持ちだから良いけど。

香子 愛美、よく買えたね。童顔なのに。

利佳 あー、なんか年確されない場所選んでるらしいよ。

香子 なるほど。

利佳 適当な食べ物と寝床はこっち持ちなんだけどね。

香子 ああ、なるほど。


香子、中身を流し終わった缶ビールを地面に置き、ブランコを漕いだ拍子に缶を蹴り飛ばす。


香子 うわっ、結構飛んだ。

利佳 あーあ。後で探さなきゃ。

香子 小学校に缶ビールは教育上宜しくないものね。

利佳 ていうか侵入してるのバレたらまずいでしょ。

香子 (ブランコを漕いでいる)私らいい子ちゃん学年って言われてたんだから、きっちり証拠隠蔽しないとね。

利佳 でたそれ。模範学年だっけ。

香子 それそれ。高校入ってからはそんなこと全く言われなくなったけど。

利佳 同じく。寧ろ問題児学年だったかもしれない。

香子 まじか。私のとこは問題児とまではいかなかったと思う……。

利佳 まあ、上下が酷すぎただけで私らだって模範と言われたら微妙だったけど。……普通にサボってるやつとかいたし。愛美とか、愛美とか。

香子 (苦笑い)筆頭だったよね。

利佳 案の定今日も来なかったしね。

香子 うん。


香子、一旦地面に足をつき袋から缶を取り出す。今度はしっかりと吟味し、飲みやすそうなものを選ぶ。


香子 (飲む)……あ、これ美味しい。

利佳 青林檎は確かに美味しそう。

香子 (どんどん飲む)

利佳 ちょっと、酔っても知らないよ。

香子 でも折角名実ともに合法なんだからさ。チャレンジしてみようよ。

利佳 (一口飲む)私はまだ違法。

香子 明日だもんね。

利佳 成人式迎えてもまだ十九とか有り得ない。早生まれの人たちのために成人式四月一日にすれば良いのに。

香子 まあいいじゃん。皆より若いってことで。

利佳 ……まあ。それならいっそのこと三月生まれとかが良かった。十代がもう終わるっていうのはちょっと、いやかなり嫌だ。

香子 私はあんまり感じなかったけどね。二十一になる時は嫌かも。

利佳 ……それはそんなに変わらなくない?

香子 変わるよ。ハタチにはなりたかったけど、二十一にはなりたくない。十七の時も十八にはなりたくなかった。十九の時は……永遠の十七歳は諦めてたから早くハタチになりたかったのかな。ハタチになったからには今度は永遠にハタチでいたい。

利佳 ふぅん、わかんない。とりあえず彼氏いない歴二十年目突入は何かつらい。だからハタチになりたくない。

香子 ああ。それはまあ仕方ない。今更足掻いてもどうにもならない。

利佳 同窓会で運命の再会する予定だったんだけどなぁ。

香子 まず運命の相手は絞っていたんですか?

利佳 いいえ、全く。


利佳、ブランコに座ったまま体をぐるりとよじる。


香子 私も未だに出来ないな、彼氏。

利佳 うっそ意外。

香子 嘘じゃない。

利佳 あれ以来?


香子も体をよじる。一周回って向かい合わせになる二人。


香子 あれ以来……だね。ていうか、最早あれは数に入ってないよ。

利佳 すぐ別れたんだっけ?

香子 そう。お互いクリスマスに彼氏彼女って紹介出来る相手が欲しかっただけ。

利佳 バレンタイン作ってなかった?

香子 作ったよ。ホワイトデー貰ってから別れた。

利佳 おお。


体制を戻した香子、再びブランコを漕ぐ。


利佳 まあ、例えそうだとしてもいたって事実があるのは私からすれば羨ましい限りですよ。

香子 ……そうかなぁ。

利佳 うん。なんかここまで来ると想像も何も出来ないんだよね、自分が誰かと付き合ってる姿っていうの?

香子 ……利佳は普通に、程良い距離感の相手が見つかりそうだけど。

利佳 それよく言われるんだけど……。

香子 (漕ぐのを止める)けど?

利佳 そこに到達するまでの距離の詰め方が最近わからなくなってる。

香子 ……どういうこと?

利佳 なんか、線引きしてるんだよね。無意識のうちに。いや、意識はしてるんだろうけど自然と。

香子 ……ああ、それはわかるかもしれない。

利佳 えっ、ほんと!?


香子、一旦地面に足をつき、思いっきり蹴る。


香子 私さ、自分にどうして彼氏が出来ないんだろうって思うことはあるんだけど、自分が仮に男になったとして考えると私みたいな女とは絶対付き合いたくないなって納得するんだよね。

利佳 (怪訝そうに)そうなの?


利佳、飲み終わった缶を地面に置き、香子に続くようブランコを漕ぎ始める。どんどん振り幅が大きくなっていく。


香子 (頷く)好きになって欲しいけど、自分のこと好きなやつは気持ち悪いなって思う。

利佳 ……。

香子 相手が男だからとか、好意を抱かれてるとかそういうのじゃなくても。一定の距離感が掴めるまでは、なんか、他人が私の領域に入って来ようとするのが気持ち悪いなって。

利佳 うーん……何か、わかるような?

香子 好みのタイプを聞かれた時は「私のことを好きになってくれる人」って答えるの。でも、いざ好意の種類はどうであれ私のこと好きなんだろうなって人が現れると引くんだよね。


二人、交互にスイングしている。やがて、香子が漕ぐのをやめ、振り幅がどんどん小さくなっていく。それに気づいた利佳も漕ぐのを止める。ブランコが微妙に揺れているだけの状態。


利佳 香子、私もさ、聞かれた時いつもそう答えてたわ。「私のこと好きになってくれる人が良いかな」って。でもなんか今、もし仮に誰かと付き合うなら、私に興味も関心もない人が良いなって、ぱっと思った。

香子 ……。(考える素振り)

利佳 香子?

香子 ……私は、そのくせしてデートの時は一眼で私のこと黙って撮ってくれる彼氏が欲しいかも。

利佳 ……何それ?

香子 ずっと夢なんだって。普段興味ない素振りをするくせに、デートの時は私のことを撮ってくれるの。

利佳 ……一眼で?

香子 一眼で。

利佳 それ、究極に矛盾してる。

香子 自分の都合しか考えてないからね。だから私みたいな女とは絶対付き合いたくないわ。

利佳 理想が高いっていうの?

香子 そうとも言える。


香子、先程蹴り飛ばした缶を拾いに行く。迷わず拾って戻ってくれば、袋から新しいビールとチューハイ缶を一つずつ取り出す。


香子 (ブランコに座る)そんな王子様がいればいいのに。

利佳 それはさすがに難しいんじゃないかな……。

香子 (不貞腐れてみせる)わかるとか言ったくせに。利佳の裏切り者。

利佳 人聞きが悪い。

香子 まあ、それまで私は都合の良い夢を見続けていますよ。これでも案外楽しいんだから。

利佳 確かに。困ることは特にはないんだよね。

香子 ……あ。(ふと、腕時計を見る)

利佳 何?

香子 零時、回った。

利佳 (スマホを確認)本当だ。あ、マナからLINEきてる。

香子 おめでとうLINE?あの子こういうのマメだよね。

利佳 そうそう。零時ぴったりに。まあいいや、後で返しとこ。

香子 はい。(ビールの缶を差し出す)

利佳 はい?(と、首を傾けながらも受け取る)

香子 合法、おめでとう。

利佳 ああ、そういう。

香子 ついでに彼氏いない歴二十年目おめでとう。

利佳 不名誉過ぎた。(恐る恐る一口飲む)

香子 どう?

利佳 どう、とは?

香子 十代が終わった感想?

利佳 ああ、でも何か思ってたより呆気ない。呆気ないというか、何も変わらない。


一拍の間。


利佳 とりあえず、二十歳の目標は私に興味がなさそうな男を探すことですかね。

香子 それ、発展しないフラグね。

利佳 いない歴二十一年目は絶対迎えたくない!

香子 やっぱハタチで時を止めるしか。(缶を開け一口飲む)


利佳、思いのほかぐいぐいとビールを飲んでいる。香子は甘そうなチューハイを飲むにも比較的スピードはゆっくり。夜はまだこれから深くなっていく。

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