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異世界からの来訪者②

 食事の準備は簡単だ。

 そこらに落ちてる枯れ木をチェーンソーでほどよい大きさにカットし、ホームセンターから持ってきたバーベキュー用の着火剤で雑草とともに火をつける。

 後は石で囲って簡易の釜戸の完成だ。


 無駄に持ってきていた鍋にペットボトルの水を入れ、カレーのレトルトパックを湯煎にかける。

 温たまったカレーはパックの米にかけ、鍋で沸騰させた水はカップ麺に使う。


 野外で食べる飯は何故か無性に美味く感じる。

 といってもダンジョンを野外と言っていいのか分からんが。


 ちょっとしたハイキング気分を味わっていると、俺をじっと見詰める熱い視線。

 いつのまにか傍にいたティナが、物欲しそうな顔で俺の上着の袖をチョイチョイと引っ張っている。


「う~、わたる!んっんっ」


 どこか必死な様子で、あれっ!あれをくださいとカレーを指し示すティナ。

 スパイシーな香りに魅了されたかな。


 彼女は荷物をほとんど持っていなかった。

 失くしたのか最初から軽装だったのかは分からないが、旅をするような装いでないことは確かだ。

 目に見えるのは腰に差した美麗な短剣と、植物を編んで作られた小さな鞄のような物だけ。

 この様子だと食料も持っていないのだろう。



 ふむ、分かりましたとも。



「これか、これが欲しいのか?」


「ほ、ほし、い?」



 片言で可愛らしくおねだりしてくるので、少し意地悪してやるつもりでカレーをスプーンで掬って差し出した。


 すると、あむっと躊躇なく食べるティナ。

 どうやらあ~んに恥ずかしがる文化はないようだ。

 そのまま美味しそうに咀嚼し終わると、唇についたカレーを舌で舐めとる。

 その姿は妙に艶かしい。

 しかもその頬は赤く染まり、恍惚とした表情になっている。

 ほぅっと熱い吐息をこぼすと、もっとくださいと催促してくるので、そのたびに口へ突っ込んでやった。

 なんだかイケナイことをしている気分だ。


 よほど美味しかったのか?

 さすがはカレー。

 異世界にも通用する味だったらしい。





 現在時刻13:36



 食事が済んだので森を進む。

 それにしても、このダンジョンの構造はおかしい。

 既にホームセンター本来の直径の何倍もの距離を歩いているというのに、未だ終わりが見えない。

 第二層でだ。

 地下ならばWebカメラで外観が確認できないから一応納得できるのだが、この変貌したホームセンターの外観はせいぜい五階建てビルくらいの高さしかなかった。

 もはや疑うべくもない。

 空間に通常の物理法則が作用していないのは確実だ。

 召喚時の魔法の作用によるものか、はたまた別の理由によるものか。


 この森にしても不自然極まりない。

 ティナとの出会い以降、魔物と遭遇することはなかった。

 魔物がダンジョンを介して大量に出現したのはこの目で見ているし、いやだからこそダンジョン内にほとんどいないのか?


 しかも時折進路を横切る小動物や、茂みから飛び立つ鳥。

 まるでフィールドをそのままダンジョン内部に配置したかのような…………。


 思考に没頭していると、不意にティナが俺の袖をひく。

 前方を指差し、なにやら笑顔で語りかけてくる。



「アルフヘイム!ハイネ!」



 何かの名前か?

 アルフヘイムと言えば妖精の国の名だったか。

 異世界に適用される名前かどうかは分からないが。

 戸惑っていると、ティナはもう待ちきれないといった様子で俺の左腕を両手で抱き込んで先導し始めた。

 柔らかい胸の感触が心地よいのだが、お願いもう少しゆっくりで頼みます。

 チェーンソーと背中の荷物がめちゃくちゃ重いのでございますよ。



 なすがままついていくと、やがて集落らしきものが見えた。

 どう見てもエルフの村だ。

 村の囲いの外に物見櫓のような物が立っており、ティナが大きく声をあげて手を振ると、こちらに気がついた弓兵らしきエルフが慌てたように村に向けて声を上げる。


 門の前に到着すると、にわかに騒がしくなった村の中から二人の男女が飛び出して来た。

 口々にティナの名を呼び両手を広げると、それに答えるようにティナも彼らの手の中に飛び込む。

 感動の再会的なあれだ。

 二人は両親であろうか?


 しばし抱き合い落ち着いたのか、抱擁を解いた後、エルフ男女がこいつ何だという目で俺を見ている。


 こういう場面では最初が肝心だ。

 礼儀正しく挨拶をするべきであろう



「お父様、お母様、お初にお目にかかります。突然ではありますが、どうかわたくしに娘さんを下さい。絶対幸せにしてみせます!」


 これぞ日本式の挨拶。

 言葉が通じないのだから礼儀正しさと真剣な雰囲気だけ伝わればいい。

 多分に本音も含まれているが問題はないだろう。



「それは本気で言っているのか?」

「えっ」



 がっつり通じていた。

 日本語喋ってるやんけ!

 お父様の目がとても危険な色に染まっている。



 傍らのティナに目をやると、頬をこれ以上ないくらい真っ赤に染め、潤んだ瞳で俺を見詰めてくる。


 ヤバい、ヤバい!

 背筋を冷や汗が伝う。




 親父、お袋。

 俺、エルフ村のティナさんにプロポーズしたかもしれん。

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