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異世界からの来訪者①

エルフさんの場合

 戦闘が終わり身支度を整えると、とりあえず小木の魔物が落とした三つの魔石を回収する。

 ゴブリンが落としたものよりも更に濃い緑の小さな魔石だ。

 その間、エルフさんと俺は無言だ。

 気まずい。

 どうやって意志疎通をしたものか……。


 と思っていたのは俺だけのようで、エルフさんはなにやらチェーンソーに興味津々のようだ。

 地面に置いたままになっていた相棒の傍にしゃがみ込み、指を指しながら、これ何ですか?と言わんばかりにキラキラした瞳でこちらを見詰めてくる。

 謎の言語もセットでだ。


「日本語でOK」


 解読とか翻訳とか無理!

 思わず反射的に答えてしまったが、当然通じていないだろう。

 エルフさんは小首を傾げながらも、なんだかニコニコしている。

 いちいち仕草が可愛らしい。


「それはチェーンソーだ」


「ちぇーんそ? 」


「そうそう、よくできました」


 笑顔で褒めてあげると、尖った長い耳がピクンと跳ねて、パアッと花が咲いたかのように表情が綻んだ。

 そのままシュタッと立ち上がると、俺の目の前へ弾んだ足取りでやってきた。

 彼女の背丈は176センチの俺よりも10センチ低いくらいか。

 下からこちらを覗き込むようにしながら、片手を胸に当て一言。


「ティナ」


 弾みで柔らかそうな胸が揺れた。

 前屈みな姿勢のせいで、強調するかのようにつき出されている。

 なんという豊穣なる恵みだ。

 というか、顔近いのですが。


「渉だ」


 思わずドギマギしながら答えた。

 凶器だ。

 俺は凶器を突きつけられている。

 今なら何でも答えてやるぞ。


 ティナ。

 それが彼女の名前であろう。

 違ったらいろんな意味でビビる。



「わたる……わたる!」


 覚えました!って感じで、名前を繰り返すと突然真面目な表情に一転、その場にこうべを垂れた。

 まるで騎士が忠誠を誓うかのような姿勢。

 何、どうしたの?



 おめでとう、ティナは仲間になった。

 たぶん。







 現在時刻05:17

 階層:2F 森林地帯




 いつのまにか、かなりの時間が経過していた。

 というか、魔物騒動のせいで徹夜だ。

 夜が明けてしまった。

 通りで眠いわけだ。


 ティナは俺が歩きだすと、少し後ろをぴったりと付いてきていた。

 ちょこちょこと歩幅を合わせるその姿は、親鳥にどこまでもついていく雛鳥のようだ。

 時折振り返って目を合わせると、何が嬉しいのか満面の笑みを返してくれる。

 なんなの、この可愛い生き物!


 いろんな意味で意識がノックアウトされそうになる。


 体力も限界だ。

 ここいらで休むべきだろう。

 木々の合間に、少しばかりのスペースを発見した。

 こんなこともあろうかと、小型の簡易テントもちゃんと持ってきている。

 重い荷物に詰め込んた甲斐があったな。


 設置している間、興味深そうに近くで観察しているティナ。

 彼女が傍で身動ぎするたび、ふわりと花のような心地よい香りがした。



 テントを張り終わると、俺は速攻でその中に倒れ伏す。

 もう動けん。

 意味は通じないかもしれないが、ティナに小さくおやすみと声をかけると、あっという間に意識が飛んだ。







 現在時刻不明

 階層:2F 森林地帯 テント内にて



 さわさわと髪を撫でる優しい感触。

 柔らかく暖かいものが俺の頭を支えている。

 ゆっくりと閉じていた瞼を開くと、頭上でティナがふんわりと微笑んでいた。



 最高の目覚めだ。

 エルフの美少女に膝枕されている。


 なんで?

 どうして?

 これはおいくらのサービスですか?

 お金は足りますか?

 頭の中には疑問しかない。


 俺の思い上がりでなければ、彼女の好感度が高すぎやしないだろうか。

 確かに助けはしたが、ヘマもやらかしたしその後も上手くコミュニケーションをとれていた気はしない。


 寝転がったまま彼女をじっと見つめていると、やがてその頬がうっすらと赤く染まった。

 どこか慌てたようにティナが立ち上がると、当然俺の頭は床にドンだ。

 そのまま両手で顔を覆いながら、テントの外へパタパタと駆け出していった。


 大胆なことをしていた割に、照れ屋さんなのだろうか?

 と思ったら俺の下半身がテントだった。

 申し訳ない。





 支度を整えたら情報収集の時間だ。

 ティナは遠くから恥ずかしそうにこちらを窺っている。

 意外と初心なようだ。


 時刻は既に昼の12時を過ぎている。

 食事はとったのだろうか?

 異世界から来たであろう彼女に時差があるのかどうか分からないが、さすがに俺が起きるまでずっと膝枕をしていたということもあるまい。


 スマホを開くとアンテナは立っていなかった。

 最後に確認したのは2Fの連絡通路までだ。

 もっとも、こんな森の中で中継局もなしに繋がらないだろう。

 予想通りである。




 なんにせよ今後のことは昼飯を食べて考えよう。

 腹が減っては戦はできぬってことで。




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