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出口

 襲撃を受けた場所を通過し、二択の別れ道を左へと進む。


 あんなことがあったので、当然ティナと探索中はくっつかないことを約束したのだが、お互いに落ち着かずソワソワしているのを隠せない。

 出会って数日間、ほとんどの時間をぴったり寄り添って過ごしてきたのだ。その間ずっと腕に触れていた感触がなくなるだけで、すごく物足りなさを感じる。

 本音を言えばイチャイチャしまくりたいのだ、俺もティナも。

 おのれ、赦さんぞグリム・リーパー!


 やっぱり魔石も落ちていないし。

 まあ、魔弾によって本体ごと超圧縮されたので、もしかしたら目に見えないレベルで存在しているのかもしれないが。



 この魔石とやらについてなのだが、実はちゃんとした用途があるらしい。

 ひとつは魔力タンクとしての役割で、石を砕くと内包された魔力が空間に解放され、それを自由に使えるようになる。

 もっとも、俺が持つゴブリン、小木、オークの三種の魔石は魔力をほとんど保有していないのであまり意味はない。


 となると用途はもうひとつに限られる。

 それが魔物の使役だ。

 術者自身が保有する魔力を規定量注ぎ込むと、再び魔物が具現化する。

 魔物の肉体は生き物っぽく見えるだけで、あくまで魔石に一定量貯蔵された魔力によって形作られている。

 そこへ術者本人の制御下にある魔力を注ぎ込むことで、意のままに動いてくれる魔物を生成できるということらしい。


 これを使えば触手プレ…………魔物の特性を利用し戦術の幅を広げることができるかもしれない。

 すごいな!

 ドキドキが止まらないぞ!


 ただ、こんな便利なものがあるのに、ハイネ村の戦いでエルフ達が使用していなかったのには理由がある。

 必要な魔力量、使役するために行動を制御する集中力、扱う魔物自体の能力、これらをひっくるめて考えるとエルフが自分で戦うほうが圧倒的に強い。

 そこらの弱い魔物を使役するのでは、コストパフォーマンスが悪すぎるというわけだ。

 魔物使いへの道は険しいのである。


 だが、方法は習得しておいても損はないだろう。

 将来的に役立つのは間違いないしな、うむ。





「渉様、何かえっちなことを考えていませんか?」



「ソ、ソンナコトナイヨ?」




 歩きながらティナの講義を受けていただけなのだが、何故突然疑われているのだろうか?

 おかしいよね……有益な可能性について思索していただけだというのに。



「別に誤魔化さなくてもいいんですよ?あなた様のそういうことを考えている時の表情も、いっぱい教え込まれちゃいましたから…………すぐに分かっちゃいます」



 恥じらいながらも、悪戯っぽくクスクスと笑うティナに俺が赤面させられることになった。

 なんなの、俺ってそんなに分かりやすいの?

 見透かした上ですべて受け入れてくれている様子のティナに、言葉にできない照れ臭さやこそばゆさを感じて、思わず叫び出したくなる。

 これはあかん……悶え死にしそう。

 くそう、悔しいが昼の部では愛人さんにしてやられるばかりだ。

 夜の部では負けていないので、引き分けということにしておくしかないな。




 それにしても魔物の使役か……頑張って習得しよ。

 さしあたっては今夜くらいに。





 えっちな意味じゃないよ?










 現在時刻:15:02





 曲がりくねった通路を歩き続けると、やがて前方に広大な空間が広がっている様子が視界に入ってきた。


 慎重に通路から身をのり出して様子を窺うと、見渡すかぎり東京ドームに匹敵するような不自然な広場に、ここと同じような連絡通路と思われる洞穴が、放射状にあちこちへぽっかりと穴を開けているのが確認できる。

 事前にwebカメラから見たこのダンジョンの外観には、当然こんな広大な空間の余地など無かった。

 相変わらず物理法則を完全に無視した場所である。


 中央にはこれ見よがしに、これまた巨大な魔方陣が鎮座しており、描かれた複雑な幾何学模様から淡い燐光を放っている。


 とりあえず今はあれに関わっている場合ではない。

 幻想的な光景で大変好奇心を刺激されるのだが、触らぬ神になんとやらだ。

 しかし、あの魔方陣かっこいいな。

 中二病時代の俺でも、こんな見事な魔方陣は描けなかっただろう。

 ちょっと悔しい。




「あれがダンジョンの入り口です」



 ティナの一言で我に帰り指差す方向へ目を向けると、緩やかな上り坂の先に、外から差し込む光があった。

 懸念していた魔物の群れであるが、やはりすべて街中へ出ているようで、この空間に姿は見当たらない。

 まあこの時点で魔物が残っているようなら、外へ出るという選択肢を前回の俺がとるわけもないので、当然といえば当然なのだが。



「それじゃ行こうか。準備はいい?」



「はい、大丈夫です。もう不覚はとりません」



 真剣な表情をしたティナが左手を振ると、瞬く間に白銀に輝く弓がその手に握られていた。

 彼女の戦闘スタイルは魔法を使用する弓兵だ。

 弓も矢も魔力で構築され、状況に応じて属性を付与した矢を放ち、時には直接攻撃魔法を発動することもできる。

 ティナの話によれば、多くの魔法を使用したり、詠唱なしに発動できる存在は、大魔法使いや大賢者(俺のことじゃないよ?)と呼ばれるような存在しかいないらしい。

 これは魔法を発動するに足る、明確なイメージを思い描ける者がほとんどいないためだ。

 また、強力な魔法や複雑な魔法ほど必要とされるイメージも増大する傾向にあるのだが、やはり例外はある。

 例えばエルフにとって慣れ親しんだ武器である弓を魔法で生成するといったように、個々人や種族でイメージを明確にしやすいものであるならば、想像力豊かな者は無詠唱での発動すら可能なのである。


 詠唱とは、イメージを補強し言の葉とともに紡ぐことで、魔法を比較的容易に発動するために産み出されたものである。

 結局のところ、魔法の発動には、使用する魔法についてどれほど強い想像力を持てるかが重要なのだ。




 俺もティナの真似をして腕を振り、イメージを思い描く。

 一息の間に、俺の手の中には漆黒に輝く禍々しい弓が握られていた。

 デザインは中二病の極みとも言える、我が暗黒時代の集大成だ。



「できてしまった……」



「やっぱり渉様は出鱈目です!わたくしがこの弓を初めて産み出せるようになるまで、修練を始めて五年の月日が必要だったのですよ?これでも村で唯一人の使い手として評判だったのに、自信なくしちゃいます……」



 どうにも俺のイメージする力という奴は、ふざけたレベルであるらしい。

 あらためて人に言われてみれば、確かにそうなのかもしれない。

 例えばこうしてる今も、ティナの裸を頭の中に容易かつ明確に、細部までキッチリと思い浮かべることができる。

 なめらかでスベスベした肌の質感から、その温かさ、柔らかさ、味や香りに至るまで。

 触手拘束写真にしても、映像として頭の中に思い浮かべることは造作もなかったりする。

 ならなんで盗撮したんだ?と言われれば、想像するのと実際に目で見るのとでは感動が全然違うからに決まっている。



 ってやだ!これじゃまるで変態みたいやんけ!





「なんで今の一言でえっちなことを考えているんですかっ!?もう!あなた様は本当にもう!」



 大変ごもっともである。

 拗ねたティナさんが正面からくっついてきて、右手でぽかぽかと胸板を軽く叩いてくる。

 もちろん彼女が本気で怒っているわけもない。

 こうして触れあう名目が欲しかったのだろう。

 その証拠に、ティナが浮かべてる表情はとても嬉しそうなものなのだから。


 しばらくして満足したのか、ぎゅうと抱きついて胸元に顔を埋めたままティナが呟く。



「今度こそ、わたくしもあなた様をお守りします。やり直しなんてもう嫌です。他の皆さんも無事に救いだして、それから……」



「もちろん俺もそのつもりだ。ティナを幸せにしたい!全部乗り越えて、その後は……」




 お互い、その先は口に出さない。

 けれど考えていることはたぶん一緒だろう。

 頬を染め潤んだ瞳で見上げるティナを抱き締め返し、甘いキスを交わす。





 出口は遠い。

 魔物のいないこの空間で、俺達はしばし寄り添いながら歩き始めた。












読んで下さっている皆様、いつもありがとうございます!


かなり間が空いてしまって申し訳ありません。

極端に投稿が遅いときは、だいたいリアルジョブの影響です。

そんなこんなでやきもきしてる間にPVが一万を越えていて、評価ブクマもいただき、感無量でございます。

今後も不定期ではありますが、コツコツ投稿していきますので、少しでも楽しんでいただければ嬉しいです。

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