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愛人

読んでくださっている皆様、いつもありがとうございます!

書きたいことは沢山あれど、自分で書くのがこれ程難しいとは……。

特に会話運びが上手な作者様方は、非常に尊敬しております!

自分も成長できるよう、精進しながら執筆していきますので、生暖かい目で見守っていただければ幸いです。


 気がつくと、周囲におびただしい数の魔石が散らばっていた。

 いったい何匹のオークを仕留めたのだろうか……我ながら自身の行った凶行に愕然とする。


 魔法を使ったことまでは覚えている。

 詠唱までしちゃったりなんかして、膨大な魔力を自身に注ぎ込んだ。

 しかし、その後のことはあまり記憶に残っていない。

 沸き上がる怒りに身を任せて、大暴れしたのは確実なのだが……。

 あれがいわゆるキレる、という奴なのだろうか?

 人生の中でここまで激しい怒りを覚えたことが無いために、それがどんな感覚なのか分からないのだ。


 未だに超然とした高揚感と、全能感が身体に満ち溢れている。

 今の俺ならドラゴンとかでも一撃で粉砕できるんではなかろうか?

 戦ったことがないから分からんけども、そういう感覚だ。



 試しに右手にある魔剣ジェイソンを水平に軽く振ってみた。








 ズドオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!






「のわっ!?」




 半径数十メートルの範囲が、生じた魔力の爆風で激しく吹き飛んだ。







 あわわわわわわわ、大変だ!





再生(リバイバル)!』




 急速に元の姿を取り戻す木々。



 また、やらかした。



 エルフさんの!


 大切な!


 森を!


 木っ端微塵にっ!



 だがもう治ったので、見なかったことにしよう。




 気を取り直し、身体能力テストのため軽くジャンプしてみる。

 するとあら不思議。

 ダンジョンの天井付近まで余裕で届くのだが、高さは200メートルくらいあるかもしれない。


 めっちゃくちゃ楽しい。


 落下しながら下を見ると、あちこちに俺が起こしたであろう森中の大惨事が散見された。


 それは楽しくない。


 その後、無駄に強化された身体能力をもってして、修復に奔走する羽目になったのは言うまでもない。




 うん、あれだな。

 英霊憑依はヤバイ。

 精神状態とか能力も思い浮かべたものに引き摺られるようだ。

 魔法の名前とは裏腹に、俺がイメージとして思い浮かべたのは魔王様とか、悪魔とか呼ばれる類いのキャラクターだ。

 名前は出さない……著作権に引っ掛かると大変だからな!


 気のせいかエルフの加護……膨大な魔力の渦から感じとれるその容量も、最初に比べてごっそりと減っている気がする。

 これ絶対、俺が魔法を使いまくったせいだと思う。

 どうしよう、バレたら怒られるかもしれない。

 だが土下座は得意だ。

 任せてくれ!

 誠心誠意謝って、許してくれることに期待するしかないな。



 ただ、やはり魔法を使う快感は格別だったのである。






 現在時刻23:56




 ジークリンデやビルといった戦士団の面々と合流した。

 最初の乱戦で負傷者こそ出たものの、魔法兵による治療のおかげで皆ピンピンしているようだ。

 それもそのはず。

 俺がオークの殆どをこの手で殺戮したからだ。



 戦士団が俺を見る眼差しは今や尊敬や畏怖に染まっていた。



「渉の魔剣、やっぱりスゲエな!剣すら振らずにオークがバラバラになりやがった……あのうるさい音に何か仕掛けがあんのか?」



 とは、英霊憑依した俺の暴れっぷりを見たビルの談である。

 たぶん超スピードで繰り出した打撃とか、発生した衝撃波のせいだと思うよ。

 もうね、チェーンソーがどうとかいう次元の話じゃなくなってるんじゃないかな?



 なんにせよ戦いは終わった。

 思い返すと、オークはどうにも最初から村に向けて進行していた節がある。

 囲まれていると感じたのも、こちらより数が多く、しかも広範囲に展開していたオークと戦士団の進行ルートがかち合ったためだ。

 撤退のためなのか、予定通りの攻撃か……何にせよギリギリのタイミングで阻止できたのでこれでよしとしよう。


 あとはティナを迎えに行き、一度ホームセンターに戻るのだ。

 この騒動のせいで、親父やお袋に連絡も取ってないし、ネット上の情報も確認したい。



 森の被害については怒られなかった。

 諦められてるのかもしれない。

 土下座はしておいたので完璧だ!






 現在時刻01:24




 戦士団とともに村へ帰還すると、ティナやエルフの美女たちが入り口で出迎えてくれた。

 皆一様に安堵と喜びに満ち溢れ、口々に賛辞や礼を述べる。

 見目麗しいエルフの女性集団に囲まれ、思わずシドロモドロになってしまうのだがそれも仕方あるまい。

 今までそんな経験なかったんだから。

 こんな素敵な女の子たちがオークに襲われなくて本当によかった。

 間に合わなかったら、大変なことになっていたぞ。




「おかえりなさいませ、渉様!」



 そんな美しい女性達の中でも、やはりティナは飛び抜けて可愛かった。

 俺に勢いよく抱きついて、本当に嬉しそうに胸元に頬をすりよせるティナが愛しい。

 離れて数時間しかたっていないのに、この柔らかな感触が身体に染み付いてしまっている。

 完全に骨抜きにされていた。

 俺も彼女をしっかり抱き締め返し、心ゆくまで堪能する。

 人目など気にしている場合ではないのだ!




「オイ、貴様…………そろそろいいか?」



 だが、さすがにお父様は無視できなかった。

 怒りを堪えるためか、はたまた寂寥感のためか、いやそれどころかもの凄い複雑な感情を覚えているのだろう……その顔をピクピクさせながら必死に耐えていらっしゃった。

 すごく、気持ちは分かります。

 大切な娘がこんな男に、彼らで言う愛人にされようというのだから。

 けれどこちらとしても、もう譲ることはできない。

 見せつけるように抱きしめたのは、その覚悟を示すためでもあった。



「オークの討伐、貴様には真に感謝している。その報酬として、甚だ不本意ではあるが、約束通り娘は貴様に任せる。…………はぁ、まったく…………娘にそんな幸せそうな顔をされては、反対などできようはずもない」



「ありがとうございます。必ずやティナを幸せにします。お任せください、お義父様」



 姿勢を正し、心の底から真剣に告げた。

 その場のノリで調子に乗ってしまう俺ではあるが、大切なことを誤魔化すほど屑になるつもりはない。



「誰がお義父様だ!フン、どうせこのまま旅を続けるのであろう?貴様はどうでもいいが、ティナを連れて村に立ち寄る機会があれば、もてなすことくらいはしてやる」



 それだけ告げると、ジークリンデは野次馬をかき分け背を向けて歩き去った。



「ありがとうございます、お父様」



 俺の手を握り、ティナもまた小さく呟いた。




「よかったですね、ティナ」


「お母様……」



 入れ替わるように傍に来たソフィアさんは優しい微笑みを浮かべていた。



「これでようやく、あなたの夢が叶いますね」


「そ、それは内緒にしてくださいと!」


「うふふふふ、秘密でしたものね?渉様、今夜はもう遅いですから、是非もう一泊していってください。ね?ティナ?」


「は、はぁそれは有難いですが?」


「お母様……イジワルです」



 何のことかは分からないが、イジけて頬を膨らますティナが微笑ましい。

 手をひかれるまま、今夜も彼女の家に泊まることになった。






 現在時刻01:45




 ティナとひとつ屋根の下で二人きりになった。

 ご両親は戦勝の宴とやらで朝まで戻らないと言い残し、出掛けていったのだ。

 どう考えても、気を使われている。

 いや、見透かされているというべきか。


 俺たちは腕を組んだままティナの部屋のベッドに腰かけ、ぴったりと寄り添っていた。

 傍らのティナと目を合わせると、真っ赤な顔で恥ずかしそうに顔を逸らされる。

 もどかしい。

 出撃する前にカッコつけて俺のモノにするなどど言ってしまったが、実際にその手の経験などあるはずもなし。

 俺も緊張でどうにかなりそうだった。



「あの……渉様、聞いていただけますか?」


 ポツリと、沈黙を避けるかのようにティナが語る。


「も、もちろんだとも」


「どこからお話したらよいのか…………えっと、わたくしも魔法によって、あなた様と同じように未来から受け取っているものがあります」



 それは予想していたことだ。



「変えなければならない悲惨な未来の記憶、あなた様への強い想いや感情です。それを数えきれないほどに……」


「想いや、感情も?」


「はい。未来の渉様の魔法と、わたくしに情報を受け渡すために使った魔法は、似ているようで全く別のものなのです」



 タイムパラドックスで受け取ったものには、未来の俺の感情といった類いが含まれていなかった。

 魔法はイメージによって発現するもの。

 ならば使い手が違えば同じ魔法も別のものになる……そういうことだろうか?



 ティナはそっと目を伏せると、自身の豊かな胸の上に両手を重ね合わせる。



「あなた様が初めて綺麗だと言ってくれたとき……本当に幸せな気持ちになりました。何度過去をやり直しても、あなたがくれる大切な言葉はいつも変わりません」


「それはその、何と言っていいのやら」



 人間の本質はそう簡単に変わらないが、毎回口説いているのか俺は?

 なんて奴だろうか。

 けれど、ティナが綺麗なのは事実だから、これは仕方ないことなのだ。



「未来の記憶から流れる感情と、今感じる想いが混ざり溶け合い、心から溢れ出して……うまく言えないのですけれど、あなた様のことが………………どうしようもなく愛しいのです」



 それは紛れもない告白だった。

 熱情に潤んだ瞳が真っ直ぐに俺を見詰めたかと思うと、すぐ逸らされる。



「ね、念のため申し上げますが…………男女の行為といった記憶は受け取っていませんし、実際の経験もありません。キスもあの時が初めてで…………」



 どこか慌てたように早口で話すその顔は、みるみるうちに真っ赤に染まっていく。

 エルフの特徴たる長い耳までが可愛らしく色づいていた。



「な、何が言いたいのかと申し上げますと、たとえ未来の記憶があっても、わたくしは今ここにいる…………あなた様だけのティナです!で、ですからどうぞ……おお、お好きなように可愛がってくださいませ…………」



 最後は消え入りそうな声音で、それでもはっきり告げられた。

 恥じらいながらも俺を見詰める瞳が、今度は逸らされなかった。


 反則だ。

 こんな可愛い女の子に真っ直ぐ想いを向けられて、この俺が惚れないはずがなかった。

 認めよう。

 このエルフの美少女に、心惹かれていることを。

 純愛ではないし、真っ当な恋愛関係でもない。

 けれど、誤魔化すことのできない愛情が、確かに俺の中に息づいているのを感じた。



「俺も……どうしようもなく、ティナが愛しい」



 そのままベッドに荒々しく押し倒し、彼女のしっとりとした唇を奪った。

 熱情の赴くままに舌を絡め、全力でその口内を味わう。

 始めは戸惑っていた彼女もすぐに受け入れ、艶かしく溶け合うようなキスに溺れた。

 やがて俺の手は彼女の全身を探り、豊かな胸の膨らみを蹂躙する。

 もう止めることなんて、できそうにない。










 この夜、ティナは俺の愛人になった。




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