表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/19

8 魔族リージョン

 私達を乗せたエレベーターは、足立区ギルドの最上階である20階を越え、その上の屋上へと辿り着いた。

 エレベーターの扉が開くと、強い風が吹き込んだ。


「さ、こちらです」


 屋上に出ると、そこには空が広がっていた。曇ってはいたが、一帯に薄っすらとした白い光が満ちている。

 家の玄関からずっとダンジョンの中だったので、空があること自体が珍しく感じてしまう。


「ここはダンジョンの中じゃないんだね。良かった、ちゃんと外側があったんだ」と私。


 西島もヨシコも、久しぶりの空を満喫するように、両手を広げて深呼吸をしている。


「さあこちらに来ると見えますよ」と、エルフの女性はそう言いながら、屋上の端っこの柵の方へと私達を導いた。


 端まで来ると、柵の向こう側には、東京全体が広がっていた。ここから都心の方を一望できる。


「あちらです」


 と、エルフの女性は、都心の方とは異なる方角を指差した。

 えーと、確かそっちの方には……。


「ええええええっ」と、ヨシコが声を上げた。

 西島も口をあんぐりと開ける。

 私も自分の目を疑った。


 そっちの方角には、スカイツリーが見えた。


 だが、そのスカイツリーに、とてつもなく巨大な生物が巻き付いていた。

 その生物は、映画とかゲームとかで見たことのある、ドラゴンの姿をしていた。


 そのドラゴンは、スカイツリーのてっぺんと同じくらいの高さまで、その巨大な顔をあげ、そして欠伸をするみたいに口を大きく開けたかと思うと、その口から真っ赤に燃え盛る炎の帯を吐いた。


 赤い光が見えてから1秒遅れで、空気が震えるような低い轟音が響く。

 それがドラゴンの鳴き声だった。

 ここから結構な距離があるため、音の方が送れて聞こえてきたのだ。


 ドラゴンの吐いた炎は、スカイツリーのふもとに広がっている押上や浅草辺りの街に届き、その一帯を一瞬にして火の海に変えた。

 幻でも見ているような凄まじい光景だった。


「ちょ、ちょっと!!! そ、その辺、アタシのうちが!!!」

 と、ヨシコが柵に乗り出すように前のめりになって叫び声を上げた。

 柵から飛び出しそうな勢いだったので、慌てて背中のシャツを掴む。


「危ないよヨシコっ」


「アタシのうちあそこなの!! お父ちゃんやお母ちゃんが!!!」

 ヨシコは目を腫らしながら言った。


「大丈夫です。ほとんどの民家や建物は、ダンジョンの下に埋まっていて、あの炎には晒されていません。きっと家もご両親も大丈夫です」

 と、エルフの女性はヨシコを落ち着かせるように言った。


「本当!? それ本当!?」


「はい。きっと大丈夫です。でも、ご覧の通り、あのドラゴンがあそこにいる限り、墨田区の人々は地上には出られません」


「もしかして、LV99クエストの敵っていうのは……」と私。


「はい。あのドラゴンです」


「無理無理無理無理無理無理」私は首を高速で横に振った。


 あんな信じられないくらいデカいドラゴンを、いくらこのラヴの剣が最強だからって、今の私なんかに倒せるような気はこれっぽっちもしない。

 オークの体当たりだけで左腕が千切れて死にそうになったんだから、あんなドラゴン相手なら、一瞬で灰にされてしまいそうだ。


「あれ、でも、あそこって墨田区ですよね。そこの敵も、この足立区ギルドの管轄なんですか」と、西島が質問した。


「そうです。東京の北部~北東部一帯のリージョンは、ほとんどが魔族側に完全支配されてしまっていて、その一帯で残っているのは、この足立区ギルドだけなんです」


「そうなんだ……」と西島。


「ですので、あのドラゴンを倒すことができれば、かなりこちらの聖族側の有利になるんですよ。少なくとも、墨田区や台東区辺りは、一気に取り返すことができるでしょう」


「取り返せば、お母ちゃんやお父ちゃんや会える?」とヨシコ。


「リージョンを取り返せば、その一帯は元通りになりますので。

 どうです? チャレンジしてみますか?」


「だから、無理無理無理無理無理。やるにしたって、せめてもう少し強くなってからでないと」


「分かりました。ではLV50クエストにしますか?」


「うーん。せめてLV20くらいから……」


 それがどれくらいの難易度なのかは分からないけど、あんなドラゴンよりかはずっと簡単なはずだ。


「分かりました。LV20ですと、荒川に巣食うオークのボスを倒せばクリアとなります」


「オーク! それなら倒したことあるしいけそう!」


「でしたら、荒川ならすぐ近くですので、足立区ギルドの南のダンジョン通路をお進み下さい」


「よし! ヨシコもう少し辛抱してね。すぐに強くなって、あのドラゴン倒してあげるから。そしたらきっとお父さんやお母さんにも会えるよ」


 ヨシコが私を見ながら目を潤ませる。

「エリカありがとう!」


 というわけで、私達はエレベーターを降り、足立区ギルドの南側のダンジョン通路へ進んで行った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ