7 LV99クエスト
ヨシコの回復魔法を得た私達は、それまでよりもかなり強気になることができた。
少々怪我をしても、ヨシコに治してもらえさえすればいいからだ。
そんなわけで、私達はその後もオークや骸骨を倒しつつ、ダンジョンを進んだ。
すると、コンビニや学校があった場所と同じような、やや開けた空間に出た。
学校と似たような外観の大きな建物がそこには建っていた。
「あれ、なんの建物だろ……」
「確か、区役所じゃなかったけ」と西島。
近くづくと、確かに門の柱に、足立区区役所と書かれていた。
建物は、一階部分だけ明かりが灯っている。
「行ってみよう。ここも化け物がいるかもしれないけど、化け物以外にも何かあるかもしれないし」
西島とヨシコはうなづいた。
とりあえず正門を進み、入り口のガラス戸を開けて中へと入った。
化け物は……、今の所いないみたい。
代わりに、受け付けのカウンターに一人の女性が立っている。
髪が真っ黄色で、眉毛やまつ毛も黄色。目も黄色だった。
学校の体育館にいた青女とは明らかに違う。
ビクビクしながら近づくと、
「ご用件はなんでしょうか」と、優しい口調で話しかけてきた。
だが油断はできない。
「ええと、あなたは敵ですか」と、単刀直入に聞いてみる。
「とんでもない。私はあなたのような人間の味方です」
「そうなの?」
「はい。私達はエルフです」
「エルフ! 映画とかに出てくるやつだ!」
そう言われれば、確かに耳が長い。
「はい。オークや骸骨などの魔族とは敵対関係にあり、人間は私達の仲間です。ですので、安心して下さい」
「そうなんだ!」
敵対するのは化け物ばかりかと勝手に思ってたけど、人間に味方する勢力もあるらしい。
「ちなみに、エルフや人間の側は、まとめて聖族側と、呼称しています」
「へー聖族かー」
西島もヨシコも、私と同じく興味深そうにうなづいている。
「あ、じゃあ、あの青い女の人は? 奴隷ショップの店員をしてた……」と私は質問した。
「青族ですね。青い肌の青族は、中立勢力です。
中立といっても、干渉しない勢力ではなく、ポイントという利益重視。
魔族側につくこともあれば、私達の聖族側につくこともあります」
「そうなんだ。あ、だから攻撃しても通用しなかったのかな?」
「え、攻撃したんですか?」エルフの女性は驚いたように言った。
「うん、でも弾きかえされちゃった」
「青族は物凄く強いんですよ。色以外の見た目は私達とさほど変わりませんが、女性や子供でも、異常なほどの攻撃力を持っているので気をつけて下さい。怒らせると一瞬で殺されてしまいますよ」
「嘘ーー。でも斬りかかろうとしたけど、そんなに怒っていなかったよ?」
「青族は常に利益を重視するので、商品を盗んだり、ポイントを奪ったりしたら、怒ります。それ以外のことにはあまり興味がないので、攻撃をしかけられたとは言え、あくまであなた達をお客様として見ていたんでしょう」
なるほど。変わった民族だ。
今度からは無闇に攻撃しないでおこう……。
どうせ弾き返されるだけだろうし。
「それで、ここはどういう施設なんですか」と私は聞いた。
「ここは足立区ギルドです」
「ギルド?」
「はい。この足立区ダンジョンの案内や、クエストの紹介などを行っています」
「へえーーー。あ、じゃあじゃあ、私達はこれからどうすればいい?」
「少々お待ち下さいね」
エルフの女性はそう言うと、私達三人の姿を改めて見た。
黄色の目がチカチカと点滅し、ピピピピピと細かなSEが鳴る。
すると、私達三人全員の、それぞれの頭の上に文字が表示された。
『間宮エリカ 剣士 LV1 剣スキル2』
『京野ヨシコ 回復魔法使い LV1 回復スキル1』
『西島つよし ジョブなし LV1 スキルなし』
「あ、やっぱり僕だけジョブなし……ちぇ……」と西島はぼやいた。
「まだ秘宝アイテムをお持ちではないからでしょう。このダンジョンのどこかに落ちている秘宝アイテムを見つけ出せば、それを拾うことで、そのアイテムに対応した力を得ることができます」
私の場合はラヴの剣で、ヨシコはマスカットグミの髪飾りだったわけだ。まあ、私のは西島が拾ったのを私が奪っちゃったわけだけど。
「よし、今度から何か落ちてないか探しながら歩こう」と西島は意気込んだ。
「見た所、まだ駆け出しのパーティーのようですね。LVは全員1ですし。
それなら、まずは簡単なクエストからこなしていけば……。
ええと、武器はどんなものを……」
と、エルフの女性は言いかけて黙り、目を丸くさせた。
「あなたがお持ちのは武器は、まさか、ラヴの剣ではありませんか!?」
「え、どうしてその名前知ってるの!?」
「あなたがこの剣の持ち主だったんですね……」と、エルフの女性は驚くように私の顔を見た。
「秘宝アイテムは、持ち主が名前を決めると、その名前がこの世界のメインシステムに自動的に登録されるんです。登録されるまでは、能力値だけが設定された無名の秘宝アイテムとして記録されています。
そのアイテムを既に取得した冒険者がいることは、システムにアクセスしていて知っていましたが、まさかあなただったなんて」
「え、何、どういうこと? 何かまずい剣なの!?」
「いえいえ、その逆です。その剣は、この足立区ダンジョンで最強の剣なんです。レア度SSSSの」
「うそーーー、まじで」
「はい。まじです」
やった。そうなんだ。道理で強いわけだ。
「あ、じゃあ、アタシの髪飾りは!? どれくらいのレア度?」と、ヨシコが自分の頭の髪飾りを指差しながら聞いた。
「えーと、それはレア度Fのよくあるタイプのものですね」
「F……、なんだ……」
「でもレア度は低いですけど、使い勝手はいいので、いいアイテムだと思いますよ」
「そうだよ。回復ないと、私腕千切れて死んでたもん」と私。
「だよね。じゃーアタシはこれでいっか」
そこでエルフの女性は、改めて私と、私の持つ剣を見て、畏まるように言った。
「そうでしたか。あなたがその剣を……。これは失礼致しました。
その武器をお持ちなら、もっと強い、いえ、この足立区ダンジョンで最上級難易度のLV99のクエストでもこなせるかもしれません」
「ええっ、いきなり!?」
「実際に目で見て頂いてから決めてもいいですよ。見てみますか? LV99クエストの敵を」
「見れるんだ。じゃあ見るだけ」
「はい分かりました。では皆さん、私についてきて下さい。こちらへ」
エルフの女性はそう言うと、私達を奥のエレベーターへと案内した。
エレベーターに乗り込むと、女性は屋上のボタンを押した。
エレベーターはものすごい速さで私達を乗せて上昇した。