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僕と彼女のアンリアリティー  作者: 四十路小作
一章 二人のファーストステップ
9/21

steppe004 パワークリスタル

「はあ…はあ…はあ」

「ふう…ふう…ふう」


 ダンジョン入口階段前。戦闘を終えた直後にダッシュして戻って来た僕たちは息を切らして座り込んでいた。

 昨日を含めて2回目の戦闘とは言え、武器を用い、なにより一回目とは違って多少の心理的余裕があった(と思いたい)ためにより戦闘行為と言うものを意識した僕たちは、肉体的よりも精神的な緊張で疲れていた。

 しかし時には疲れさえも精神を高揚させる起爆剤となる。僕と白山さんはどちらが最初だったのかは解らないが、次第に声を上げて笑い出した。


「「あはっ、あはは! あはははは!」」

「やったよ白山さん!」

「やったね塚杜君!」

「「あはははは!!」」


 はあ…はあ…おかしい。いったい何がおかしいのか解らないけどおかしい。ああでも、その理由の一つは確実に“コレ”だろう。僕の手の中にある不思議な光を放つ結晶。パワークリスタル。どこか温かみを感じるそれが僕の気持ちを明るくさせているし、白山さんの視線も今はソレへと注ぎ込まれている。


「あはは、おかしい。ねえ塚杜君。そのパワークリスタルってどんなスーパーナチュラ……長い。スキル覚えられるの? あ、鑑て…で、でできないんだったわね」

「あはは。鑑定はありえないけど習得できるSNPは解るよ」

「SNP? そっか、SUPER NATURAL POWERの略ね。って解るの!?」


 何を驚くことがあるのか、うんうんと一人納得していた白山さんが勢い良く僕の方へ振り向いた。


「うん。餓鬼のSI(強個体)がHP回復の能力を使ってたでしょ。それだよ。SIは核となっているパワークリスタルの能力を使って来るからね。僕の知識が間違っていなければそのはず。――はい、白山さん」


 僕はそう言って握っていたパワークリスタルを白山さんに渡した。両手で大事そうに受け取った白山さんはまたもや驚いた顔で僕を見る。


「え、良いの? これってレアなんだよね?」

「良いよ。なんか忘れてるみたいだけどこのダンジョンは白山さんの家に在るものだからね。その家の子が一緒に駆除してるなら優先的に回すのが礼儀と言うか当然でしょ。それに回復系のSNPは確かにレアだけど、これからいくらでも手に入るし」

「お、おー。そっか。そっかぁ……んへへ。い、良いんだよね? 使っても」

「どうぞどうぞ」


 変な笑い方をする白山さんはスックと立ち上がると、パワークリスタルを上に掲げて叫んだ。


「習得!」

「「…………」」


 そして何も起こらない。

 うん、当然だね。

 生暖かいまなこで白山さんを見つめる僕。見る見るうちに白山さんの顔が真っ赤になってプルプルし始めた。


「ど、どういうこと塚杜君!?」

「どう言うも何も、パワークリスタルはストレージに収納して…そうだね、ロックするんだよ。それで使えるようになるんだから」

「は、早く言ってよ馬鹿ぁ!」


 馬鹿と言われた僕だけど恥じ入った白山さんが超いとうつくしいから許す。逆に御馳走です。

 白山さんはうーうー唸りながらパワークリスタルを手の平から消し、ストレージに入れる。


「ロックロック……ん? できた?」

「意識していれば出来るはずだから試しに自分に使ってみて。HPゲージは自分にしか見えないからね」

「あ、そっか。塚杜君で試そうと思ってたけど、それじゃ私は解らないね。んん~~回復!」


 それは僕の事を気遣って言ったのか。それとも怪しげな能力を自分で試すのが嫌だったから言ったのか。白山さんじゃない僕は解らないけど、ぜひ前の方であって欲しい。

 そうして僕が白山さんの発言の如何いかんを妄想していると、白山さんの体の周りに光の粒が現れ、その小さな体に吸い込まれて行った。


「んあぁっ回復してる!」


 ……なんかエロい。

 回復効果を実感したのか、ブルッと体を震わせて気持ち良さそうな声を上げた白山さんは、視界の中に浮かぶHPゲージをしっかり確かめようとしているのか何度も目を瞬かせた。


「じゃあ次は僕もお願い」

「うん! 回・復!」


 テンション上げ上げな白山さんが両腕を上げて…ってあの餓鬼SIを真似ているのか? 意味の無いポーズを取って僕に回復能力を使った。

 んおぅ!? こ、これは確かになんか気持ち良い! ちょっとビクッとしてしまった僕は誰の特にもならないので歯を食いしばって我慢してみる。その後で自分のHPゲージを確かめると、餓鬼SIの反撃を受けて半分を切っていたHPゲージが空きの半分ほど。全体の容量で言うと30%くらい回復していた。


「回復した!?」

「うん。数字で言うと32くらい回復したよ」

「私もそのくらいだったから30%? もしくはホ○ミ? 正に初期回復魔法!」


 魔法じゃなくてSNP、超能力です。もう訂正するのもしんどくなってきた。

 ふんふんと鼻息を荒くしていた白山さんだったけど、しばらくして不思議な顔つきで腕を組んだ。


「あれ? MP無いのに使えるんだ。ひょっとして何回でも使えるのかな?」

「使用回数は決まってるよ。ストレージに入れたパワークリスタルをもっと意識してみて。僕は持ってないし経験が無いから解らないけど、力が減ってるのが解るはずだから」

「んん~? ん、ん、ん? あ、確かに減ってる感じがする。え、これも消耗品なの!?」


 白山さんが焦った風に僕を見てくる。ちょっと必死すぎていとうつくし。

 苦笑気味な僕は首を振って否定すると補足する。


「限界まで使っても無くならないから安心して。使用限界数は解らないけど、だいたいの感覚で解るでしょ?」

「うん。これならあと3回くらいは使えそう。でも使い切っちゃったらどうするの」

「うう~ん。それはダンジョン内に在るパワースポット行けば回復できるらしいけど、だいたい一階に一つしか無いらしいし…そのうちだね。らしいらしいと不確かでごめんだけど」

「あ、ううん! 良いよ。すごく解りやすいし!」


 自分で言ってて断言できない情けなさにへにょりと笑った僕に白山さんが慌てる。

 興奮したり羞恥したり慌てたり焦ったり。白山さんは忙しい女の子だ。


「なのでパワースポットを見つけるまで使用回数の補充はできないけど、3回くらいの回復はもったいぶらずに使っていこう。回復はレアだから中々でないだろうけど、パワークリスタル自体はいくらでも手に入るから」

「うん、そうだね! じゃあ普通のドロップを確認してからまた行こう!」


 パッと明るくなった白山さんが自分が倒した餓鬼の残留品を確認する。それを見て僕も自分の残留品を確認して身に着ける。

 それは白い布製の籠手だ。何と例えれば良いか。美意識の高いオバ…お姉さんたちが買い物に行く時なんかに腕に付けて行く長手袋?みたいな物だ。それに長細い鉄の板が上になる部分だけに何枚か貼ってあり最低限の防御を確保した物と言えば良いか。

 それを両腕に装備した僕は白い鉢金を額に巻いた白山さんと向かい合った。

 ……鉢金が大きすぎてなんかアンバランスと言うか完全に親の装飾品を遊びで付けた子供だ。

 なんて思ったことはおくびにも出さない僕は白山さんと頷きあって再びダンジョン駆除へと向かった。


「ねえ、なんか失礼なこと考えてない?」


 聞こえない聞こえない。


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