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僕と彼女のアンリアリティー  作者: 四十路小作
一章 二人のファーストステップ
8/21

steppe003 ストレングス・インディヴィジュアル

12/3日 2回更新 その2

「あ、ああ、ほんとにレベル表示が無い……良く見ればMPもないよ」


 そんなにがっくりしなくても。ダンジョンを下りて早々、白山さんは先ほどしたレベルが存在しないと言う説明を確かめたみたいだ。だぼっとした赤いジャージ姿で肩を落としている。

 因みにここでジャージのサイズ合って無くない? なんて空気を読まない発言をしない僕を褒めてあげたい。成長、期待してるんだなあ……。


「そう言うこと。HPの容量は装備品で上がるよ。装備品自体にもHPが有るから消耗品になるけどね」

「う~ん。なんかアナログなゲームみたい」


 ……僕は白山さんのこと嫌いじゃないと言うかすごく意識しているけど、この頻繁に出て来るゲーム発言だけはどうにも無視できない。これが僕の年代。それもスイーパーでも無いアマチュアなら普通なことなのかもしれないけど。


「じゃあ行こうか。ストレージから昨日手に入れた武器を出して」

「うん。っわ、本当にすごいね。何も無いところから出てくるの」


 ストレージ。白山さんが言うところの“どうぐぶくろ”は目に見えない収納庫だ。しかしこれだけは今まで無理矢理つけてきた科学的理屈が通用しない。ダンジョン発生の理由と共に本当に理解不明な現象なのである。

 装備品が完全に消耗品であるスイーパーにとっては生命線なのでストレージを使わないと言う選択肢は無い。


「あれ、塚杜君。この武器の名前とか耐久度とかどう調べるの? 鑑定は?」

「鑑定? 鑑定なんて素人の僕にはできないよ。できたって耐久度とか人間の目では解らないし。それにダンジョン外に持って行けないから研究所なんかで見て貰えないしね」

「え、研究所? なに言ってるの塚杜君。鑑定だよ鑑定。ほら、えっ…と、パワークリスタル? で覚えられるすーぱーなちゅらるぱわー?とかだよ。鑑定スキルだよ」

「???」


 白山さんは一体何を言っているのだろうか。パワークリスタルを使用してのスーパーナチュラルパワーに鑑定とか聞いたことないんだけど。

 どうにも要領がおぼつかない僕は白山さんに詳しく聞いてみることにした。僕の知らないダンジョン知識を持っているのかもしれないから。……なんだ、けど。


「ねえ、白山さん? ちょっと君が何を言っているのか解らない。ねえ、白山さん? ちょっと普通に考えてみようか。ねえ白山さん? 君の好きな例えをするとそうだね。日本でも人気の北欧伝説で例えようか。ねえ白山さん? あの神話でも最高位の神が知識を得るためだけにどれ程の犠牲を払ったか知ってる? ねえ白山さん? 知識の泉から知識を得るために片目を捧げ、ルーン文字の秘密を知るためにユグドラシルに首を吊ってグングニルで自分を串刺しにしたとか有名だよね。ねえ白山さん? なのに君はそれとは比べ物にならないくらいの知識をそんなに簡単に手に入れようだなんて。ねえ白山さん? だったら君は何を捧――」

「ごめんなさーい!!」


 ん? 何故か急に白山さんが半泣きになって謝った。どうしたのだろうか突然。フシギダナァ。


「うう、目が怖いよ塚杜君。なんか深淵を覗く者はまた深淵から覗み見られているのだ……って言葉を思い出した」


 誰が古き者どもか。反省してるのかしてないのか解らない子だねえ!


「うひっ!? ごめんさい! その目で見ないでぇ」

「……ふう。冗談はここまでにしておいて行こうか。時間がもったいない」

「冗談なの?」


 なんかもう白山さんの印象が変わっちゃったな。親しみやすくはあるんだけど、あの小さくても大人っぽい、それこそ母性を感じさせる彼女はもう僕の中にいない。……でも、いとうつくしいから許す。

 ダンジョン突入直後からドヤドヤした僕たちだけど、スッパリと意識を切り替えて駆除を開始した。

 なにしろ学生が自由になる時間は意外と少ないのだ。学校が終わるのが16時前後。そこから夕食まで3時間から4時間くらいが使える限界だろう。なにせ学生の本分は勉学。高校2年生の僕たちがそれをおろそかにするわけにはいかない。

 卒業後にスイーパーを目指す僕だって過去の試験問題テキストを繰り返し繰り返し筆記している。


「ん……あっちゃぁ。いきなり3匹か。下手に強いより厄介だな」

「回避はできないんだよね?」

「うん。公式記録だと餓鬼は索敵能力は低いけど音にだけは敏感らしくて、戦闘音とかが続くと集まってくるらしいから。……それに、チャンスでもある。ほら、見て。一匹。違うのがいるでしょ」

「ん、なんか大き目の子がいるね」


 ダンジョン最初の十字路。昨日餓鬼2匹と戦闘した左側の通路に今日は3匹の餓鬼がたむろしていた。僕たちはそれを手前の通路から隠れ見ている。


「ストレングス・インディヴィジュアル。通称SI。パワークリスタルを核としている強個体だよ」

「パ―むぐぅ!?」


 急に大声を上げそうに白山さんの口を手でふさぐ。あまりにもな危機感の無さに一瞬頭がピキッと引きつったが、手の平で感じる白山さんの柔らかく温かく小さい唇の感触に全てを許した。

 目で静かにと合図した僕は手を放したが……これ、舐めちゃだめだよね? くっ、白山さんの目が無ければ!


「ご、ごめん」

「気を付けて。言ったでしょ、強個体だって。核にしているパワークリスタルの能力を使って来るから余計にだよ」

「強そうだね」


 強い。なにせ通常より身体の能力もHPも高い上にスーパーナチュラルパワー。SNPまで使って来るのだから。僕たちアマチュア以下が挑むには危険が多すぎる相手だけど。これは逆にチャンスだ。


「息を合わせて行くよ、白山さん。段取りは昨日と同じで大声を上げて襲い掛かる。音に敏感だからそれで隙を作り出せるから」

「う、うん。がんばる」

「手順は回避優先で通常個体のHPを匕首で削り倒して、それから二人でSIを倒す。できる?」

「解らない。けど、“やる”」


 先ほどまでの不真面目にとれる雰囲気はそこになかった。白山さんはつばの無い短刀、匕首の持ち手を握りしめて頷いた。

 ちょっとアンバランスな子だよね。白山さん。でも同年代の女の子で意識の切り替えが出来ているのは凄いと思う。白山(クソ爺)さんが仕込んでいるって言ってたからその成果だろうか。

 ……それじゃあ行きましょうか。昨日は白山さんに良いところを見せられなかったどころか見せられちゃったし。

 クリーチャーと武器を使っての戦闘は初めてなので普通に考えれば無理無茶無謀なのだけれど、こっちもむこうも“死なない”と言うのはそのハードルをほぼ0にする。


「3…2…1…GO! おおおおおお!!」

「わああああああ!!」


 昨日と同じく大声を上げて隠れていた通路から飛び出す。それに円を描くように座り込んでいた餓鬼たちが驚いてひっくり返る。見た目が“アレ”じゃ無ければ可愛らしいとさえ言える驚き方だけど、僕たちがやっているのは紛いなりとも殺し合いだ。

 僕たちはアタフタと起き上がる餓鬼の内、通常個体2匹にそれぞれ向かって匕首の刃を無防備な背中に滑り込ませる。

 ――スルリ。切った。と感じる“わずかな”手応えを残して匕首の刃が餓鬼の体を“通り抜ける”。冷たい刃にHPを削られた餓鬼は痛みに声を上げ、すぐさま反撃してきた。

 ぴょんと飛ぶように振り返り様に鋭い鉤爪を一閃。しかし走り抜けていた僕たちは既にそこには居らず、そこに生まれた隙を突いて更に匕首を一閃させる。


「「やあっ!」」

「「ギギャア!」


 行ける! 凄く息が合ってる! 僕と白山さんはほとんど初めてとも言える共同戦闘で息の合った立ち回りが出来ていた。僕にも白山さんにも意識の中以上に合わせる余裕が無いので偶然だろうけど、流石にあの893親分(白山クソ爺さん)が仕込んだと言うだけはある。日々鍛えている僕とほとんど変らない体のキレだ。

 これならやれる。僕たちがそう思った時。戦闘に参加せず若干離れていた餓鬼SIが妙な動きを取った。


「ギャギャー」


 両腕を上げて踊るように身をよじり、2度の攻撃で怯んだ餓鬼2匹へと上げていた両腕を向ける。

 すると餓鬼2体の周囲に光の粒子が発生し、その体へと吸い込まれて行った。


「「ギギ!」」


 直後勢いづく2匹の餓鬼。それはまるで僕たちの攻撃が無かったかのような……回復か!?


「白山さん回復能力だ! 回避優先を止めて一気に削り倒そう!」

「うっうん!」


 これは! 僕たちは! 運が! 良い!

 僕は一回目の戦闘で強敵を引き当ててしまった不運が実は幸運だったと解り、不謹慎ながら喜色を顔に浮かべて餓鬼へと匕首を突き立てる。

 代わりに餓鬼の攻撃も喰らうが昨日と違ってこちらの攻撃力は上がっているのだ。視界の端に映っているHPゲージの数値が半分になる前に餓鬼のHPを削り切る。

 断末魔も上げずに光の粒子となった餓鬼は、その場に核となっていた布の籠手?を残して消え去った。


「白山さん!」

「ん、こっちも倒したよ!」

「ギャ!?」


 バッチリ呼吸が合っていた白山さんと二人で餓鬼SIを睨みつけると、回復能力の発動が間に合わず中途半端な格好で固まっていた餓鬼SIが怯むように隙を見せた。

 チャンス! HPが半分以上あるとて相手は通常よりも強い個体だ。隙を見せている内に削る!


「「てやあああ!!」」

「ギ、ギャァ……」


 僕と白山さんの反撃を恐れない猛ラッシュが餓鬼SIを襲い、何度かの反撃を喰らいながらも一気にHPを削り切ることに成功する。

 餓鬼SIはまるで「そ、そんなあ……」とでも言ってそうな悲哀を滲ませながら消滅し、その場に不思議な光を放つ結晶を残した。


「や、やった! 白山さんすぐに残留品を拾って階段前に!」

「う、うんっ!」


 やった。やった! 白山さんじゃないけどレアアイテムゲットだ!

 僕たちは他の場所にいる餓鬼が戦闘を聞いて集まってくる前に安全地帯である階段前まで急いで戻った。


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