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僕と彼女のアンリアリティー  作者: 四十路小作
一章 二人のファーストステップ
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steppe002 すいーぱーず・こもんせんす

12/3日 2回更新 その1

「はい、お茶どうぞ」

「いただきます」

「いえいえ。括理くくりもそろそろ帰ってくると思うから、もうちょっと待っててね」


 二日目の放課後。飼育委員の活動をしている白山さんから先に家に行ってるように言われた僕は、白山さん家の居間でお茶を御馳走になっていた。

 相手をしてくれているのは白山さんのお婆さん。あの893親分みたいなクソ爺の奥さんとは思えない凄く上品な人だ。

 白山さんと一緒に下校したかったのに、まだ良く知らない家の方で一人で待ってろとかちょっとハードル高すぎるよね?

 まあ今日は白山さんのお婆さんが相手なので心は楽だけど。あのクソ爺と二人っきりで茶とか拷問レベルだし。


「それでどお? ダンジョンは」

「もう旦那さんから聞いていると思いますけど、本来なら業者か役所に任せるの妥当な線です。素人だと時間をかけてやっと駆除できるレベルですかね? 実際にはもう少し潜ってみないと解りませんが」

「そうなのね。お爺さんが腰やっちゃうまで自分でやるって聞かなかったのに、今度は括理が自分でやるって聞かなくなっちゃったから心配してたの。……ダンジョンの中では死なないって言うけど、中には心をおかしくしちゃう人もいるでしょ」

「……ですね」


 ダンジョンの中では人間を含めてクリーチャーまでもがほとんど怪我をしない。全てをHPが代用し、無くなれば互いともそれぞれの居場所へと送還される。

 言うなれば決して死ぬことの無いデスゲーム。しかし殺し合いに違いは無く、そこで発生する心理的苦痛ストレスは人の心を歪ませる。

 これは戦えなくなるだけの話では無く、逆に攻撃性が高くなって日常生活に支障をきたす話でもあるのだ。

 そのためスイーパーには一年に一度の心療内科通院が義務付けられているし、申告済みの自己駆除では駆除人の申告と通院は半場強制だ。

 まあこれはどちらかと言えばダンジョン内での超人的感覚を現実にまで引っ張って来て怪我をする人間が多いからなのだが。


「ここのダンジョンも発生と自己解決の申告はされているんですよね」

「ええ。こう見えて結構由緒正しい神社ですからね。その辺りはちゃんとしないといけませんから」


 当たり前だがダンジョンの発生報告も国民義務だ。幸いなことにダンジョンは放置しても中からクリーチャーが湧いて来たりはしないので義務ですんでいるが、前の二つと合わせて悪質な申告漏れなどは初犯でも実刑になりうる重罪である。

 これには発生した土地のエネルギーとでも言えば良いのか。栄養の類が吸われるらしくて畑や森の中で発生すると収穫物が枯れたり土砂災害などの二次被害が大きいせいもあるが、最も重要なのがダンジョン駆除で唯一地球に持ち帰れるダンジョンコアが相当な高額で取引されるせいである。

 つまり、納税など税金のお話だ。ダンジョンとかファンタジーなのに世知辛い。


「ただいまー。待たせてごめんね塚杜つかもり君」

「えっと、おかえり、なさい?」


 出されたお茶が空になる前に白山さんが帰宅した。なんと返して良いか解らずどもった自分が情けない。意識しすぎだ自分。今日どもりっぱなしじゃんよ。


「おかえり括理。お茶飲む?」

「うん、飲むー。着替えてくるから入れててー」


 帰って来たばかりの白山さんがパタパタとスリッパを蹴立てて家の奥へと消える。

 着替え? ……着替え。白山さんの着替え……はっ!? いかんいかん。色即是空しきそくぜくう

 うおおおおー煩悩退散!なんてやってるとすぐに白山さんが戻って来た。

 早いお着替えですねと思っていると、学校のジャージを着た白山さんの姿が……。

 あーうん。これ絶対、僕のこと異性だと思ってないよね。まあ制服のままよりかは正解な恰好なんだけど。因みに僕は制服のままだ。ダンジョン内では衣服“には”ダメージが行かないからね。


「んくんく。……ん、それじゃ行こ! 塚杜君」

「うん。行こうか」


 お茶を一気飲みする白山さんにうながされた僕は少しだけ残ったお茶を飲み干し、早く行こうとそわそわする白山さんと共にダンジョンが在る社殿へと移動した。


    ◆


「さて、今日は駆除に向かう前にいくつか大事なことを話します。本当に大事なことなので解らない事や憶えきれない事は逐一聞いて下さい」

「はい」


 社殿。ダンジョンの入り口前。昨日話していた衝立や座布団などが用意されていたので小さな囲いを作って白山さんと向かい合う形で座って居る。て、照れるなあ。


「HP。ヒットポイント。クリーチャーの攻撃や罠。時には転んだ時に肉体的損傷の代わりに消費されるバリアのようなものです。これは解りますね」

「うん。解るよ。……なんか喋りかた変だよ塚杜君。嫌味な先生みたい」


 無視。いとうつくしい白山さんの言でもことスイープ関係のことには妥協しません。

 それに本当はHPとバリアは全く別物なんだけど、他に例えようがないんだよねえ。


「そして昨日も話しましたがHPを全損した者は人間、クリーチャーともにそれぞれの居場所へと肉体だけが戻されます。人間ならダンジョンの外。クリーチャーは仮説ですがダンジョンそのものの中に」

「うん。……裸になっちゃうんだよね」

「そうですね。人間なら衣服も含めて全損した場所に落とし、クリーチャーの場合はこれもまた仮説と言うか俗説ですが、核となった物体を落とします。これが残留品、いわゆるドロップアイテムですね」


 女性としては深刻な内容に白山さんが暗くなる。昨日確りと言ったこともあり愚痴などはこぼさないが、これは思春期の女性には酷な現象だろう。

 しかしその際の対応はちゃんと考えている。そのための衝立だし、白山さんが可愛らしい鞄に入れて持ってきた着替えでもある。


「それに関係する事ですが、僕は両親の教えもあって基本的に全損を前提とした駆除は行いません」

「? 当たり前のことだよね?」


 白山さんは何を言ってるんだろうと言った顔をするが、実はそうでもないのだ。これはきっと何にでも適応できる人間の悪いところだろう。


「残念ながら違うと言うことでしょうね。実際のスイーパーには死に戻りを前提とした死に戻り《プレイ》をする者がいます」

「うん?」


 前置きを置きすぎたかな。白山さんの頭の上がクエスチョンマークだらけになっている。


「プレイ。つまりはゲーム感覚。これは低難易度のダンジョンでは非常に有効なゴリ押し作戦ですが、それが通用しない場所には全く効果を表しませんし、なにより現実の心を歪ませます」

「……うん」


 昨日正にゲーム感覚でダンジョンに適応してみせた白山さんが納得いかない顔をする。こればっかりは“その時”が来ないと解らないだろう。

 それはまだ未経験者の僕も同じことなのだけれど、プロスイーパーの両親の話でも頻繁に出て来るし、スイーパー関連の書籍でも必ずと言って良いほど記載される内容でもあるので知識としては頭にこびり付いている。

 先ほど白山さんのお婆さんと話していた“心をおかしくする理由”の大きな部分をこれが占めている。かつて冒険者と言われていた。いや自称していた者たちの起こした問題もこれに大きく起因する。


「なので僕の作戦は一貫して安全第一。無理せず、出来る事を、出来るだけする。です」

「いのちだいじに。だね」


 それもきっとゲームの言葉だよね? 僕は子供のころからゲームとかせずにスイーパー関連の書籍を読みふけってたから良く知らないけど。まあいいや。それこそ“恥をかく”のは白山さんなんだし。

 それに、確かにゲームを好む人のダンジョン適応率が高いのも事実だ。事件発生率とともに。


「では次に攻撃に関する注意事項です。昨日白山さんは絞め技で倒していましたので実感は無いでしょうが。ダンジョン内での攻撃は現実の物とは違うことが多々あります」

「違うの?」

「はい。これに関しては完全に実感しないと解らないことなので簡単にだけ説明しますが、あくまでダンジョン内での戦闘はHPの削り合い。実際の戦闘とは違うとだけ憶えておいて下さい。怪我をしないと言うことがどう言うことかは体で憶えるしかないですからね」


 これに関して僕は昨日の餓鬼との殴り合いで経験済みだ。白山さんのほうは絞め技で倒しちゃったので実感は少ないだろう。せいぜいが生き物を殺す感覚は無い。くらいだろうか。

 ……あれ? いやでも絞め技で倒したとか聞いた事ないからどうなんだろ?


「それとクリーチャーを倒した後。ひょっとしたら白山さんは勘違いしているかもしれませんが、経験値なんて手に入りませんからね」

「ええっそうなの! じゃあレベルとかどうやって上げるの!?」


 凄く驚く白山さん。うんうん。スイーパーを誤解している人に良くある勘違いだね。


「レベルはありません。ダンジョンと言えどあくまで現実。そんな経験値とか数値化できないものを無差別に集めて強くなれるわけありませんよね? 常識的に」

「じょ、常識……」


 学校では小さな優等生で知られる白山さんが絶句する。普段常識と口にする方ですものね。


「え、でも、ダンジョンにはすごいモンスターとか出てくるんだよね。スイーパーだって超人的な力を持てるって」

「はい、そうです。ですからスイーパーがダンジョン内で強くなる方法は二つ。現実で普通に鍛えることを入れれば3つですが、クリーチャーを倒して手に入る装備品での強化と、パワークリスタルを用いてのスーパーナチュラルパワーの取得です」

「スーパーナチュラルパワー? 超能力って意味だよね」


 僕は白山さんのクリーチャーをモンスターと言い間違えたことを訂正しない。昨日から薄々感じていたけど、どうやら白山さんはゲームをそれなりにたしなむ子のようだ。

 今も超能力とか聞いてちょっと落ち込んでいた気配が上がったし。


「そうですね。後付けなのでナチュラルな能力ではないですが、正式名称ではそう呼称されています。ダンジョン内“では”と頭に付きますが、実際に何も無いところから火を生んだり、消費したHPを回復したり、身体能力を上げたりできます」

「スキル。スキルなんだね」


 白山さんが頬を紅潮させて握り拳をプルプルさせ始めた。この素直な反応。これはひょっとして僕が冷めすぎているだけなのだろうか。昔からの常識みたいに思っていたから特に興奮したりはないんだけど。


「ねえ、塚杜君? そ、そろそろイかない?」

「……行きましょうか」


 ……なんか、エロい。

 じゃ、ない。どうやら白山さんの集中力が切れてしまったようだ。催促するようにダンジョンの入り口をチラチラ見ている。モジモジと耐える様に言うものだからちょっとエロく感じてしまったではないか。

 まあ一度に詰め込んでも憶えきれないか。それにやっぱり体感を伴わないと本当の危険さも実感できないだろう。

 ちょうど説明が残留品とパワークリスタルのところだったし、後はダンジョン内で体験しながらにしよう。


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