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僕と彼女のアンリアリティー  作者: 四十路小作
一章 二人のファーストステップ
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steppe000 マイ・グッドファミリー

「あ、父さん。今大丈夫?」

『おーどうしたたて。お前から電話してくるなんて珍しいな』


 白山さんの所で初めてのダンジョンスイープを行ったその日。僕は家に戻るなり短期出張中の父親に連絡を取った。現在の時刻は19時を少々回った時間。春になったばかりなので外はもう真っ暗だ。


『もう飯は食ったのか? 趣味で料理するのも良いけどたまには店屋物てんやもんでも食えよ』

「それ逆じゃない? 普通は自炊しろって言うよね」

『馬っ鹿、お前。これ以上お前が料理上手になったらまた母さんがションボリするだろうが。ただでさえ仕事が忙しくて家事が出来てないって気にしてるんだぞ』

「あーうん。母さんには気にしないでって言ってよ。僕が好きなのは料理であって掃除とか洗濯は面倒だしね。って、それより聞きたいことがあるんだけど。後、報告も」


 まったく二言目には母さん母さんと何時までラブラブなんだか。相手が親なのでまったくうらやましくはないけど、白山さんとそんな感じの関係になりたいなあ……なんて思ったりもする。

 今は絶望的なまでに有りえないけどね! 大して親しくないし仲良くもないみたいだから!(血涙)


『報告ぅ? なんだお前、彼女でもできたのか』

「……やめてくれない? 自分の勘違いを思い出して死にたくなるから」

『お、おう』


 急にドロリとした僕の口調に父さんが怯んだ。ああ、今思い出しても自分を殴りたくなる。白山さんに放課後の校舎裏に呼び出さてからの浮かれきっていた勘違い野郎を。

 いずれはそんな事もあったよねー!と、白山さんとイチャイチャしながら語り合いたいものだ。


「真面目な話だよ。今日、クラスメイトのお願いでその子の家に在ったダンジョンに行って来た」

『ほう……で、どうだった』

「うん。自分が良い気になっていたのが解ったよ。正直自分が恥ずかしい」


 プロスイーパーをしている両親から聞きかじった程度の知識を自分の物だと思い込み、多少鍛えているからとクリーチャーの危険さを侮った。

 幸いにも白山さんと言う可愛らしく意外と頼もしい仲間が居たから無事に終わったけど、もし僕一人だったらあの餓鬼二匹に倒され、白山さんと白山(クソ爺)さんの前で全裸になるという醜態を晒していただろう。

 そうなっていたらきっと白山(クソ爺)さんは僕へのダンジョン駆除依頼を断っていただろうし。


『なんだ。意外と速かったな。長い鼻っ柱が折れるの』

「なにそれ。父さんたちはそうなるの解ってたの?」

『当たり前だろ。親だぜ。自分の子供の事はちゃんと見てるさ。俺たちの事を誇りに思ってくれるのは嬉しいけど、まるで自分もそうなんだと言わんばかりの思い上がりっぷりだったしな』

「……あの、殴って良い?」


 言えよ! 自分の子供の思い上がりを正せよ! 修正しろよ! 人生つまづいちゃったらどうすんのさ!

 ぐぎぎ、と歯を食いしばった僕は続く父さんの言葉で、まあ無理矢理にだけれど納得させられる。


『殴れるもんならなー。まあ真面目な話。そう言うのは親の口から言っても解んねえもんだよ。どうしても甘えってもんがあるからな。そう言った意味じゃプロになる前に良い経験をさせて貰ったって喜べ。失敗もせず大人に成ってから掻いた恥は辛いぞ』

「そうだね。それは納得する。しなきゃいけないんだろうし」

『おーおー。大人ぶっちゃってまあ』


 せっかく反省した僕を父さんが煽ってくる。……なんか僕の周りの大人って煽り属性のクズが多いんだけど。極最近も白山(クソ爺)さんが追加されたし。


『それにしても建が入ったダンジョンは難易度が高めだったんだな。なんだかんだで鍛えてやったからそこそこのダンジョンなら一階のクリーチャーなんかじゃつまづかないはずだしな。どちらさんとこに行ったんだ? 後で菓子折り持って行かなきゃならん』

「あ、うん。白山さんって言うクラスメイトの家だよ。ほら、学校の裏山に在る神社の」

『……それって、長い階段を上がった先か?』

「そうそう。あそこに神社があるなんて初めて知ったよ。けっこう大きかったし」


 何故かそこで途切れる会話。呼吸を3回ほどしただろうか。そのくらいの長い間を開けて父さんが口を開く。


『……そうか。そうか。ならスイーパーに頼まないのも当然か。それにお前を誘ったのも。あのクソ爺……』

「あれ、父さんって白山さん家の事知ってるの?」

『まあな。あそこは俺たちと一緒。と言うか親父たちのほうか。……そう言えばあいつ等にも子供がいたな。確かお前と同い年の』

白山しらやま括理くくりさんの事? うん、僕はその子に頼まれて一緒にスイープする事になったよ」

『一緒に、ね。やれやれ、ややこしい事になっちゃってまあ』


 なんだか白山さんの家の事を父さんは良く知っているようだ。そんな話は今まで一度も聞いた事がないし、地元の事なのに神社の事だって教えて貰ってない。

 不思議に思った僕は父さんに聞いてみたが、また今度なと誤魔化されてしまった。

 しつこく問い質そうとした僕だったが、突然電話に割り込んできた、いとうつくしすぎる声にそんな考えは遥か彼方へと飛んで行ってしまった。


『ねーねーにーちゃ? にーちゃ? あ、こら七奈ななな にーちゃ!』

「おーおー! なななー! 元気してたかー。にーちゃはさびしいぞー!」

『なーもさみしー! にーちゃかえってきてー』


 あはは。帰ってくるのは七奈なんだけどなー。でもそこがまたいとうつくし!

 はっ!? いかんいかん。愛すべき我が幼妹の声を聞くとどうしてもトリップしてしまう。真面目な話をしていたはずなのに!

 これはもう今日は駄目だな。と判断した僕はわずか3日離れていただけで枯渇してしまった七奈成分をじっくりと補給し、父さんが電話が長い!と切ってしまうまで夕食も忘れて話し込んだ。

 そう言えば母さんの声が聞こえなかったけど、また温泉に長湯でもしてたのかな? そんな長く入っても効果なんて出ないだろうに。

 ああでもちょっとうらやましい。プロスイーパーとしてそこそこに有名な父さんたちは出張依頼では大抵良い宿を用意されているのだ。

 僕もいつか白山さんと……なんて馬鹿な夢を見ながら僕の長い、それまでの日常を変える事になった一日が終わる。


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