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僕と彼女のアンリアリティー  作者: 四十路小作
序章 始まりのボーイ・ミーツ・ガール
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steppe002 ぼくとかのじょの、はじめてのすいーぷ

「これはまた雅な」

「わ、凄いね!」


 ダンジョン内部に降り立った僕たちを待って居たのはダンジョンとは言い難い古風な通路だった。

 木造。それも襖や鳥居を模したらしい意匠の壁。通路の幅は天井も含めて父さんたちに聞いていた中では狭い方で、学校の教室分くらいの広さしかない。

 これは逃げ場が存在しないので苦労しそうだ。階層変更で風景が変わる事を祈ろう。でないと強敵に出会った時に逃げる事が難しい。

 しかし白山さんは白山(爺)さんとダンジョンに入らなかったんだな。僕は学校のブレザー制服から“変わっていない”白山さんを見て思う。


「それじゃあ白山さん。最初の内は僕がクリーチャーを倒すから武器がドロップするまで後ろで待ってて」

「うん。お願いします」


 きっと昔の人が今の僕の言葉を聞いたら正気を疑う事だろう。今では死後になりつつある《ゲーム脳》的な発言だから。

 だがこれがダンジョン内部での事実。外、地球側からの武器の類は一切持ち込めず。着ている衣類や小さな鞄に入る程度の小物や食糧しか持ち込めない。

 だからスイーパーがダンジョン駆除でまず行う事は――クリーチャーを素手で殴殺する事である!


「何処の野蛮人だよ」

「ん、何か言った?」


 アハハ、ナンデモナイヨ。でもその前に確認する事があったな。それこそゲーム脳的な話なので頭から抜け落ちていた。


「白山さん。自分の状態を調べてみて。そう強く思うと解るから」

「??」


 白山さんが僕の言葉でパタパタと自分の体をまさぐる。

 あゝ、いとうつくし。勘違いした白山さんのなんとうつくしきことか。


「ふふ、違うよ。知ってると思うけどHPの総量を調べないといけないから」

「ああ、ステータス!」


 ステータスってまた昔の《冒険者》的な。間違いじゃあないんだけどね。

 ステータス、ステータスと呟く白山さんの横で僕も自分のスペックを視覚化するよう集中する。

 コツは信じる事。そして具体的な印象を持つ事だ。僕が想像するのはSFで出て来るような機械的な視界。各バロメーターが存在するサイバーゴーグルと言った所だ。

 その具体的な印象が功を奏したのか、HPと表示されたメーターを初めとした幾つかの数値が現れる。


「ん、成功。白山さんは?」

「ふああ、出た。ステータスが出たよ……」


 やや虚ろ気な白山さんに聞くに正にゲーム的なステータス表示が出ているらしい。項目は少ないらしいけど、数値が細かく記されているので解り易いとの事。

 成程と一理を見出した僕は印象を操作してHPゲージだけを数値化する。HPの取り扱いこそがダンジョンで何より重要な事であるからだ。

 でも白山さんって意外とゲーマーなのかな? 学校では優等生で通ってるからそうは見えないんだけど。自分のステータスに一喜一憂している白山さんを見てそう思った。


「それじゃあ行こうか。何度も言うけど白山さんは後方待機だよ」

「うん。よろしくお願いします」


 取りあえずの確認を終えた僕たちは安全地帯とされている階段周辺から奥へと進む。襖や鳥居の形をした木造の壁。昼間程とは言えないが光源も無いのに明るい通路。僕と白山さんが履いているローファーが木の床とぶつかってコツコツと音を鳴らす。

 今のところは一本通路。どこにもクリーチャーの姿は見えないが安心はできない。ダンジョンごとに傾向はあるがクリーチャーの中には姿や気配を消すものもいると聞いている。流石に浅層には出てこないだろうが。

 クリーチャーの気配を探るために僕たちは息を殺して歩き、そして奇妙な物音を聞いて足を止めた。


「十字路だ」

「ねえ塚杜君。なんの音かな?」


 ギイギイ。ガリガリ。言葉にするとそんな音が通路の先から聞こえてくる。真正面に何も居ない事を考えると、十字路の左右どちらかに発生源が存在するのだろう。

 耳を澄ませた僕は左の通路に当たりをつけ、白山さんに掌を向けてその場に待機させる。そして自分は十字路の角に背中を預けて左側の通路をそっと覗き込んだ。

 ――居た。クリーチャーだ。小さな子供の様な矮躯。しかし角の生えた頭と腹が大きく、足の短さに反して腕が異様に長く爪が鋭い。……餓鬼だ。それも二匹。

 クリーチャー、餓鬼に気付かれないように覗き込んでいた体を元に戻した僕は静かに、しかし大きく息を吐き出した。


「どうしたの、塚杜君」

「……静かに」


 僕は人差し指を口の前に立てて白山さんを黙らせ、足音を忍ばせて階段前にまで戻った。

 そして盛大に嘆いた。


「うわあああ。難易度高いいぃぃ」

「え? え?」


 思わず天井を仰いだ僕についていけてない白山さんが狼狽える。

 聞いてないよ。と言うか聞かなかったよ。ああ所詮僕はアマチュア以下か。ダンジョン内の情報を経験者から収集しなかったとか馬鹿じゃ無いのか!

 思い上がっていた自分を思い知った。一般人よりも多少知識が有るからと言って良い気になっていたのだろう。正に子供の無知からくる傲慢。自分が恥ずかしい!

 んんんん~~!!と自責に身もだえする僕はアワアワする白山さんを視界に収めてクールダウンする。

 クール! マイクール! はーはー落ち着けー。白山さんとのフラグが圧し折れるぞー。

 ……もうとっくに折れてるけど。


「あはは、ごめんごめん。ちょっと自分が恥ずかしくなっちゃって」

「そう、なの? もう大丈夫?」

「うん。馬鹿はもう終わり。ここからは本当に真剣だ」


 気になっている女の子に良い格好をしたいと思っていた自分とは此処でおさらばだ。僕の真の目的はダンジョン駆除。スイーパーになるための実績作りなのだから。


「……あっ」

「ん、どうかした?」

「う、ううん。なんでも。ちょっとお爺ちゃんに似た顔したから」


 失敬な! 僕はあんな893親分みたいな強面じゃ無いよ! 母さん似だから中性的で困ってるのに!

 でもなんかはにかんだような顔をしている白山さんがいとうつくしいから許す。

 さて、じゃあ始めようかな。掃除スイープを。

 ……でも、男として情けないけど白山さんの力も必要だ。

 素人に毛が生えただけの僕では餓鬼二匹を素手で倒す事は分の悪すぎる賭けなのだから。


「白山さん聞いて」

「うん」


 空気が変わった事を察した白山さんが真面目に頷く。僕はその真剣な表情に元気づけられるように言葉を続ける。


「通路の先に居たのは餓鬼って言うクリーチャーが二匹。Fランクと最低レベルだけど、その中では特に攻撃性が高い敵だ。正直素人の僕だと素手では相手したくない相手」

「……うん」

「だから最初の予定を変更して白山さんに一匹を相手して貰いたい。……できる?」

「それって、見逃して一匹だけ狙うとかできないの?」


 白山さんは少し臆した顔で言う。できたら僕もそうしたいし、どちらかと言えばそれがセオリーだ。

 しかし――


「できないとは言わないけど難しい。さっきも言った通り餓鬼は攻撃性が高い。人間の気配を感じたら猛然と襲い掛かってくる。背後を襲われたら素手の僕たちじゃあ抵抗も難しい」

「……ん、解った。やる」

「良いの?」

「ん」


 いとうつくし。いや、華奢すぎる体格の白山さんから断固とした意志が伝わってくる。一体どうして彼女はここまでするのだろうか? その疑問は尽きないが、ここでする話でも無いだろう。

 僕と白山さんは互いを励ますように頷き合うと、意を決して作戦を考えながら十字路へと向かった。


「作戦は簡単。一人一殺。Fランクのクリーチャーと一対一ならまずHP差でゴリ押しできる。でも気を付けて。どれだけ攻撃を喰らっても死なないし怪我も“ほとんど”しないけど、痛みだけは本物だから」

「ん、ん」


 緊張でなのか言葉数が激減した白山さんに念押しをする。だがそれも最後だ。最早後は行くだけ。

 すーはーすーはー。僕と白山さんは全身に掻く緊張の冷や汗を誤魔化すように深呼吸すると、身を隠していた通路から飛び出した!


「うわああああああ!!」

「ああああああああ!!」

『『ギギャッ!?』』


 事前の作戦通り大声を上げて餓鬼へと飛びかかる。突然の大音量に驚いた餓鬼たちは見ていて滑稽なほどに飛び上がり、その隙を突いた僕たちの一撃を受けて吹っ飛んだ。


「畳み掛けて!」

「あああああ!」


 なんかキレてない!?なんてツッコむ余裕も無い僕は互いに離れた場所に転んだ餓鬼の一匹へと襲い掛かる。一心不乱。他になんて意識を向ける余裕も無く、無様に野蛮にひたすら拳を振り下ろす。

 僕の拳が化け物じみた餓鬼の凶貌へと叩き付けられる。しかし飛び散るのは血潮では無くHPの残滓たる光の粒子。やっている事は野蛮でもどこか幻想的な現象。不思議な感覚に襲われる僕は突如として体を襲った激痛に声を上げる。


っっ!?」

『グギャアアア!!』


 良いようにされていた餓鬼の必死の抵抗だ。その長い腕の先に着いた凶悪な鉤爪が僕の腕をザックリと“通過”し、光の残滓を散らしながらまるで深く切り裂かれたかの様な激痛を僕に与える。

 初めて感じる痛みに体が固まってしまった僕は逆に良いように切り裂かれてしまうが、意識を総動員して体を無理矢理動かすと泥仕合の如く殴り切り裂き合った。


「んっのおぉ!」

『ギャアア!』


 しかしそれも長くは続かない。無様でも当初の目的通りの一対一に持ち込んだ時点で勝ちは見えている。何時までも続くかと思えていた殺し合いは餓鬼の突然の消滅と共に終わりを迎え。僕はその場にへたり込んだ。

 ――って、そんな場合じゃない! 僕は慌てて振り返ると未だ戦っているだろう白山さんに助太刀を……って。


「んんん~!」

『グギャギャギャ……』


 これは……なんだろうか? そこに繰り広げられていたのは流石に自分よりも小さな餓鬼を締め上げる白山さんの姿があった。ええとたしか片羽締めだっけ? その変形らしい絞め技で見事に餓鬼の鉤爪を封じる事が出来ていた白山さんは、なんとそのまま餓鬼を締め落としてしまった。

 光の粒子となって消える餓鬼。後に残ったのは制服を着崩したちょっと危なげな状態の白山さんと餓鬼が残した残留品。つまりはドロップアイテムだった。

 ええ~? 無傷~? メッチャ立つ瀬無いんですけど~?

 戦いの余韻なのか何処か茫然とした。いや嫣然えんぜんとした?白山さんは着崩れた制服も直さずに座り込んでいる。

 おおう、こりゃあ目の毒だ。僕は自分が倒した餓鬼の残留品を拾うと白山さんの元へと向かった。


次回更新は明日の夜以降です(`・ω・´)キリッ!

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