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僕と彼女のアンリアリティー  作者: 四十路小作
二章 襲来のファーストカズン
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steppe006 父帰る

「ねね、これ私が貰っても良いよね。この間みたいに呪われてたりしないよね」

「良いよ。僕もこっちの貰うし、マイナスクリスタルは色に気を付ければ大丈夫」


 今にもわくわくと口にしそうな白山さんが自分で倒した餓鬼SIのパワークリスタルをストレージに入れる。回復に続き見た目で解りやすいSNPだったので期待も倍増なのだろう。

 僕も手の中のパワークリスタルを収納して白山さんの行動を見守った。


「うぬぬぬぬ……ファイアー!」


 腰を軽く落として力を溜めた白山さんが開いた右手をシュバッと突きだした。その先から人の頭ほどの炎の玉が飛び出し、ボールを全力で投げた程度の速さで飛翔する。そのまま減速せずに直進した炎の玉は10mほど離れた竹壁にぶつかった。瞬間、ブワッと燃え広がり、数秒で消える。


「ふおおおおおおおお!! きたよ! 魔法きたよ! メ○だよファ○アだよア○だよ!」

「ちょ、ちょっと落ち着いて白山さん」


 顔を真っ赤にして興奮する白山さんをどうどうとなだめる。○ラとかフ○イアだとか○ギはゲーム用語なんだろうけど、今回ばかりは抑えきれない気持ちが理解できた。だって魔法だもの。

 正確にはSNP、超能力だが。僕も欲しいな、アレ。


「あ、でも5回くらいしか使えなさそう。微妙に少ないなー」

「そんなものじゃないかな? 強力な物になると一回しか使えないのもあるらしいし」

「ファミコソ時代のWIZみたいだね。塚杜君のはどんなの?」

「ん、使ってみるね」


 効果は予想がついている。だけど実際に使ってみないと解らないし体もついていけないので試用はしてみる。僕はストレージ内のパワークリスタルを意識し、発動させる。

 途端、体の内に湧き上がる力。僕はその勢いに任せて地面を蹴り、真っ直ぐに前進する。5歩、6歩、7歩。そのくらい進んだ所でみなぎっていた力が抜ける。


「え…それだけ?」

「うん、これだけ」


 見た目には小走りしただけにしか見えない僕にポカンとする白山さん。手の平から炎の玉を放った白山さんからすれば???って感じだろう。

 けど使った僕自身は非常に納得している。何故ならそれが一階から探していたSNPの一つだと解ったからだ。


「あはは。見た目じゃ解らないだろうけど、僕が持ってた突進(速)の力、白山さん風に言うと攻撃力が上がるバージョンだよ」

「おお、なるほど。(速)みたいにシュバッと動かないから解らなかったよ」


 納得した白山さんがうんうんと頷く。

 よしこれで突進が(速)と(攻)合わせて6回使えるようになった。強敵を相手にした時に使える手札が増えたのは素直に嬉しい。

 周囲に散らばった餓鬼の残留物を手早く拾った僕たちはホクホク顔で階段に戻り、明日は弁当持参で朝から攻略しようと解散した。


    ◆


「たただいまー」

「おう、おかえり」

「あれ? 父さん帰ってたんだ」


 家の中にいるだろう七奈を呼び寄せるために帰宅を告げた僕の前に、出張が延びていた父さんが現れた。

 チッ、無駄に愛想を振りまいてしまった。僕の愛想は全部七奈の物なのにっ。


「おいおい、舌打ちしそうな顔すんなよな。どうせ七奈のこと考えてたんだろ」

「それ以外に考えることないけど? 当たり前じゃない。で、七奈は?」


 靴を脱いで上がった僕は呆れた顔をする父さんと目線を合わせる。

 プロスイーパーとしてそれなりに有名な父さんだけど体の大きさは普通だ。身長は178㎝の僕と同じくらいだし、ある意味究極の肉体労働系の仕事をしているから太って無い。

 服の下は筋肉でガッチガチの細マッチョだけど。


「母さんと買い物に行ってるよ。晩飯は出来合い物買って来るから料理しないで待ってな」

「わかった。着替えて来るから後で話聞かせてよ」

「おう、リビングで仕事してっからな」


 あいあーいと手を振って1階風呂場前の洗面室に入る。僕と父さんの関係は七奈さえ間に入らなければ良好で、まるで男兄弟の様な気軽さなんだけど、他の家もこうなのだろうか? 僕と同年代の子たちは子供の頃から親ウザいとか死ねば良いのにとか信じられないこと言ってるけど。

 両親にウザいって言われて捨てられたり、本当に死なれたりしたら生活もできなくなるのにね。


「親の愛は無償って良く言うけど、子供の愛ってどこにあるんだろうか。……あっても有償っぽいな」


 至上の命題である。

 爪の中まで念入りに手を洗い、薬液でうがいをする。まだ2歳半の幼い七奈が居るので衛生管理には気をつかっているのだ。

 さらに顔を洗顔クリームで洗って何時でも七奈のチッスを受けれるよう綺麗にし、2階の自室で手早く部屋着に着替える。

 うう、お腹空いたな。でも時間的にそろそろ母さんが帰ってきそうだから我慢我慢だ。

 それまでの時間潰しと言うわけはないけど、一階に下りてリビングに入る。

 すると父さんがソファーに座ってリビングテーブルに乗せたノートPCをカチャカチャ言わせていた。

 僕は父さんが入れたたのであろうキッチンカウンターのサーバーからコーヒーをマグカップに汲み、砂糖一杯と牛乳を一対一の割合で入れる。ビターなカフェオレがジャスティスだ。


「おー俺もお代わり入れてくれ」

「うん」


 ノートPCから目を離さず言った父さんの前から残り少なったマグカップを回収し、自分と同じ割合でコーヒーを入れて父さんの前に座った。親子だからか舌が同じなのである。


「あんがとよ」

「今忙しい?」

「んでもねえよ。ちょっと待ってな……うっし!」


 カチャカチャカチャ…ッターン!と自意識過剰な人みたいにキーボードを叩いた父さんは、ふう~と大きく息を吐いて背筋を伸ばした。エンターキーがへたっちゃうよ?


「そんでどうよ。ダンジョンは」

「う~ん……思ったよりも上手く行ってる。逆にそれが心配になってるよ」

「ふむ。電話で聞いた情報を纏めると戦闘特化のダンジョンだろう。だったら戦闘に抵抗無ければ最初の内は、順当に行くもんだ」


 父さんは最初の内“は”と強調した。スイーパーとして父さんとは比べ物にならいほど劣る僕も同じ感想だ。ダンジョンが発生し始めてから30年余り。これまでに累積されたデータから割り出される傾向としてまともなプロスイーパーなら誰もがそう思うだろう。


「今どんくらい進んでるんだ?」

「6日目の今日で2階の探索を始めたところ。その一日分は心療内科に…って、そう言えばくすがわクリニックの先生が定期健診に来いって言ってたよ」

「おう、母さんから聞いてる。本当ならギリで戻ってくるはずだったんだけどなあ。急に講習入っち待ったからしょうがねえ。連休明けに行くさ」


 それから僕は母さんたちが帰ってくるまで父さんと話をした。餓鬼の効率の良い倒し方はもう聞いてるから、今度は2階の強敵となる大餓鬼の倒し方などだ。手順や傾向などはプロスイーパー御用達の情報誌にも載ってはいるけど、実際に相対したことがある人間から聞く方がずっとためになる。

 特に餓鬼なんて日本のダンジョンにしか出ないクリーチャーならなおさらに。

 プロスイーパー歴20年の父さんはその経験を元に、今僕が駆除しているダンジョンがこの先どう変移して行くのかを予想して見せる。そこで改めて確認したのは、きっと今の僕たちでは装備品を整えても3階を踏破できないであろうと言う意見だった。極めて確度の高い予想だ。

 ……連休中に2階を踏破するとして、明けに増員を考えなければならないかもしれない。とは言えあてが無いんだよなあ。……ぼっちだし、あの白山(クソ爺)さんのお眼鏡に適う人材となると余計に。

 だがそれは2階を踏破してからの話だ。今は自分たちが出来る事を出来る範囲でしていこう。

 夕食を終え七奈と風呂に入り、ほかほかのなななタイムを満喫した僕はリビングでくつろぐ家族にお休みを言う。

 その別れ際に父さんが言った。


「ああたて。明日、クソジ…白山さん宅に挨拶しに行くから一緒に出るぞ」


 ……なんですと?


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