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僕と彼女のアンリアリティー  作者: 四十路小作
二章 襲来のファーストカズン
20/21

steppe005 好調な探索。今は、まだ。

「はあっ!」

「ギギャア!?」


 間合いの外から大振りした中巻野太刀が光の軌跡を描きながら餓鬼の体を通り過ぎる。匕首や脇差では怯まなかった餓鬼がその一撃に仰け反り、体をクルリと回転させて横薙ぎに中巻を振るう。

 ブオンと風を切って走る中巻の太刀部分が見事に餓鬼の体を捉え、サアッと音がするような鮮やかさで餓鬼が消滅する。たったの二度の斬撃で餓鬼のHPは全損したのだ。

 これは、良い! 1mほどの肉厚な刀身と同じだけの長い柄。一見使い辛いかと思った中巻野太刀だったけど力が乗せやすく、やや特殊な間合いにさえ気をつかえばすこぶる良い武器だった。

 確かな手応えに興奮した僕だけどそれを飲み込み、次の獲物へと向かった。


「大餓鬼は任せて!」

「えいっえいっ。りょー、かいっ!」


 戦闘音を聞きつけて合流してきた餓鬼たちを牽制していた白山さんが一匹仕留めながら相槌を打つ。ここは早く決めるべきだと判断した僕はSNPスーパーナチュラルパワー、白山さん的ゲーム脳で言うところのアクティブスキルを使う。

 ――突進(速)! ストレージ。思考の中に存在する不可視の収納庫に収められているパワークリスタルの一つを意識して使用する。その瞬間に加速する体。石床を蹴った足が通常の倍ほどの速度で進み、5,6メートルほどもあった大餓鬼との距離を瞬時に詰める。

 その速さに付いていけなかった大餓鬼の横を通り抜けながら中巻を薙いで横腹を裂き、効果が切れた突進(速)の勢いを殺すためにしゃがむような姿勢で踏ん張る。1m2m。地面を滑りながら進んだところで勢いが止まった。即座に反転した僕は動きが鈍い大餓鬼がこちらに振り向ききっていないのを見て背後を襲う。


「いやああっ!」


 飛び上がって上段から一撃。回転して下がった切っ先を掬うように横薙ぎしてもう一撃。そこで軽く怯んだ大餓鬼へとさらに体を回転させて上段から中巻を振り下ろす。


「ギイイヤアア!」


 ここ一番の良い連撃ではあったけど、流石に大餓鬼は三回ていどの攻撃では倒せなかった。狂った様に振り回す長い腕の攻撃を後ろに飛んで躱した僕は、中巻よりも長い大餓鬼のリーチを見てストレージから脇差を取り出し、投げつけた。

 クルクルと回転しながら飛ぶ脇差が縦横無尽に振るわれる大餓鬼の腕を通り抜け、サクリと胸元に突き立つ。駄目元で投げただけだったが、幸運な事に上手く突き刺さった。


「ギアっ?!」


 驚いて動きを止める大餓鬼。僕はその瞬間を見逃さず腰溜めに構えた長巻を出っ張った太鼓腹に深々と突き刺した。傷口から漏れる光の粒子がブワッと広がり、大餓鬼の体が消えて無くなる。僕はコロンと転がった残留物には目を向けずに白山さんと合流して残りの餓鬼を片付けて行った。


「ふい~好調だね、塚杜君」

「だね」


 合流分も合わせて大餓鬼1匹に餓鬼5匹の残留物、ドロップアイテムを拾い集めながら同意する。

 餓鬼の残留物は確認するまでも無いのでそのままストレージ内へ、二体目となる大餓鬼の残留物は…どう。剣道で使う防具の腹部分、大餓鬼の太鼓腹みたいな木製?の胴体防具だった。


「はい、白山さん」

「ありがと。って大っきいよ! すんごく動きにくいし!」


 あらら。体の小さな白山さんには大きかったようだ。胴の下部分がその…ま、股まできてるし、上は首まできている。これは流石に戦闘に支障をきたす。

 仕方なく胴は僕が装備することになった。2回連続で新装備を貰う事になったのでちょっと気まずい。


「良いよ良いよ。胴も中巻も私には大きすぎるもん。あ~サイズ自動調整とか何でないのかなー」

「またゲーム的発想を…って言いたいところだけど、実際そうだよね。日本の女性プロスイーパーも防具類が装備できないことが多いらしいし」


 白山さんが言うゲーム的な物なら性別指定はあってもサイズ指定は無いそうだが、実際の装備品としてはどうしても体格差がでてくる。武器に関してはパワークリスタルの身体強化などで多少無茶はできるけど、防具に関してだけはサイズが合ってないと動けなくなってしまう。

 しかも残留品の大きさは一定で、同じ防具でサイズが違うなんてことは無い。その場合は違う種類の防具がドロップするのを待たなければならないのが不便だ。多少の違いなら当て布なんかで誤魔化せるのだけど。

 ダンジョン外から現代装備を持ち込んでも普通の衣服扱いになってしまうのが残念である。


「さ、次行こ。そうすれば私の装備品だってドロップするよ」

「だね。今日から連休で時間はあるし、じっくりと攻めて行こう」

「おー」


 今日の目標は大餓鬼を倒して新しい装備品集めるのと、一階ではあまり出なかったSIを倒してパワークリスタルを集めることだ。そうやって地図を埋めて行けば明日にはパワースポットを見つけられるはず。

 連休初日の現在時刻14時。余裕を見て18時まで回るとしても後4時間ある。この階層にも罠は無さそうだし探索は順調に進みそうだ。


 ――そして僕と白山さんの快進撃が始まる。餓鬼に関しては中巻と短槍で間合い外から攻撃すれば無傷で倒せるので油断さえしなければ大丈夫だった。

 だが問題はやはり大餓鬼で、一体だけなら無傷で倒せることが多いけど、2体同時に出られるとやはり長い腕の攻撃をどうしてもくらってしまう。

 余裕を持って防具部分で防げば20~30ほどのHP損傷で押さえられるのだが、直撃した場合は当たり所によっては50強のダメージを受けてしまうので油断はできない。

 竹林道を右へ左へと進みながら遭遇したクリーチャーたちを殲滅するが中々SIが出てこない。が、戦闘数が10を数えるころになってやっとSIを見つけた。


「ぬあ。久々にSIを見つけたと思ったら2体もいる」

「ほんとだ。餓鬼だけどめんどうそうだね」


 餓鬼SI2体だけが厄介じゃない。大餓鬼こそ居ないものの通常の餓鬼が5体も一緒に居る。合わせて7体。数の上では3倍以上と地上の戦闘だったら挑むのが無謀な人数差だ。

 だがここで攻めないと言う選択肢は無かった。SIが落とすパワークリスタルとはそれほどに貴重で有力な物なのだから。


「白山さん、回復何回残ってる?」

「2回、かな。塚杜君の突進は?」

「1回だけ」


 う~ん。負けることは無いだろうけど戦えば余力を使い切っちゃうな。……今は17時前か。戻るには丁度良い時間かな。装備品も一揃えって程じゃないけど充実したし。

 僕の装備品は先に変わった中巻と胴を初め、白い布の装備の一部が革製の籠手と脛当てに変わっている。

 白山さんの武器は短槍から餓鬼の爪を纏めたような異形の薙刀、本来のそれよりも短く太めな物に変り、防具は僕と同じ革の籠手と脛当てになっている。

 HP総量と防具部分のHP損傷力軽減はまだ微増した程度だ。だけどそもそも攻撃をくらわないことが前提の戦闘スタイルなのでまだ問題は無い。


「ん、あいつらを倒して今日の探索を終わろうか」

「う~ん、そうだね。ちょっと疲れちゃったしそうしようか」


 そう決めた僕たちは遠くでたむろしている餓鬼SIたちへと走り寄る。今回は通路の真ん中での遭遇なので大声を出しての驚かしはできない。姿が丸見えだから。

 しかし問題は無い。しょせんは餓鬼。この6日間で100匹ほどの餓鬼と相対しているのだ。その行動パターンも間合いも頭にこびりついている。まあ僕たちの方も同じ攻撃パターンだけど。

 駆け寄り様に通常の餓鬼へと間合いの外から一撃。武器が変わりHP損傷力、長いからもう攻撃力って言ってしまうけど、が上がったことで大ダメージを受けた餓鬼が怯む。そこに追撃を加えて止めだ。白山さんもほぼ同時に倒しきった。

 そこで僕たちは後続の餓鬼たちに挟撃されないように数歩後退する。そうして突っ込んでくる無数の餓鬼たちと間合いの調整をし、出来るだけ一対一を心がける。

 得物が振って使う長柄武器なので白山さんと背中合わせでは戦えない。十分に距離を取りながら同じパターンでさらに二体の餓鬼を倒し、ほんの十数秒ほどで餓鬼SI2体と餓鬼1体にまで減らした。

 本番はここからだ。僕と白山さんの武器が一体だけ残った餓鬼を同時に襲い一瞬で全損させる。そして僕たちの間合いの外で力を溜める素振りを見せていた餓鬼SIへとそれぞれ向き合った。


「何かしてくるよ気を付けて!」

「うん!」


 とは言え近づかなければ攻撃はできない。餓鬼SIが使用してくるだろうSNPを警戒しながら僕たちは前に進む。

 だが間合いを詰め切る前に餓鬼SIたちが動いた。白山さんが相対していた餓鬼SIが奇妙な動きで両手を前に突き出し、そこから炎が飛んだ。


「白や――」

「ちぇあー!」


 タイミング的に直撃すると思った僕の予想に反して白山さんがスライディングで躱した。頭上を通り過ぎる赤い炎。体が小さく身軽な白山さんだからこそとっさにできた回避法だった。

 しかし変わりにでは無いが白山さんに意識を向けていた僕が相対していた餓鬼SIの動きを見逃してしまう。あと少しで間合いに入るところで前傾姿勢となった餓鬼が突っ込んできたのに上手く対応できなかった。

 慌てて中巻と革の籠手を盾にした僕だったが、SI、パワークリスタルを核にした強個体とはいえ餓鬼とは思えないほどの力に押されて吹っ飛ばされてしまった。


「つあっ!?」

「グギヤァッ!」


 無様に尻もちをついた僕に餓鬼SIが噛み付いてくる。


「舐めんな!」

「ギャッ!?」


 それを蹴り返した僕はすぐに立ち上がって中巻の横薙ぎをくらわせてやる。それに怯んだ餓鬼SIだったが、怯んで崩れた姿勢のままで再び突っ込んできた。

 連続で二度も同じ失敗はしない。そう思って躱した僕ではあったが、完全には躱しきれず腹を爪に引っかかれてしまう。

 新調したばかりの胴防具で受けたはずの攻撃は、そこに防具なんて無いかのような痛みと喪失感を僕に与えた。餓鬼SIが使った何らかのSNPの効果だろう。


「痛ったいなあ!」


 力が抜けそうになった手を握りしめ、勢い良く通り過ぎた餓鬼SIの背後から中巻を叩き付ける。間合いが近かったため斬撃では無く殴打になってしまった一撃は餓鬼SIを転がした。

 突進(速)! 少し距離が離れた餓鬼SIへとSNPを使って近づき、その勢いを乗せてゴルフクラブのように振り抜く。自分でも驚くほどの速度が乗った一撃がズバッと餓鬼SIの体を通り抜け、光の粒子と残留物に変える。

 ああ無様だな! 僕は餓鬼くらいへっちゃらだと思っていた馬鹿な自分に腹をたてながら、もう一体の餓鬼SIと戦っている白山さんの方を見る。


「パワークリスタル、ゲットだぜ!」

「…………」


 そこには既に餓鬼SIを仕留め切り、残留物のパワークリスタルを勇ましげに掲げた白山さんの姿があった。

 うん解ってたよ。未知の攻撃を軽やかに躱してたものね。もう何度目かな、この感想。

 自嘲気味に笑った僕は大げさに息を吐いた。


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