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僕と彼女のアンリアリティー  作者: 四十路小作
二章 襲来のファーストカズン
17/21

steppe002 サイコロジカルカウンセリング

_(┐「ε:)_ちょっと元気出ました

 唐突だけど皆さんは“サイコセラピー”、俗に言えばマインドセラピーと“サイコロジカルカウンセリング”の違いを御存じだろうか?

 この日本と言う国では、特に未熟な心療師であれば大した違いは無いだろうと同じように考えるそうだが。実際には大きく…と言うほど大きくは無いが明確に違うものでもある。

 まあ簡単に言うと“セラピー”と“カウンセリング”の違いだ。

 セラピーとは主に投薬や手術を行わない治療を指す言葉で、カウンセリングとは…まあ簡単に言えば相談を指す言葉だ。

 たまあにマッサージ師をセラピストと言う場合があるが、あれは資格を必要としない独自技術、つまりは民間療法なので実際のマッサージ師とはちがうと言っておこう。


 うう~ん……。僕なりに解りやすく例えるとそうだなあ。ハリウッド映画とかで主人公が退役軍人とか心に傷を持っている場合その苦悩を表すシーンの一つに、見知らぬ他人たちと一人ないしは数人の相談役とで集まって辛い経験なんかを話し合っているシーンがある。

 それもサイコロジカルカウンセリングの形態の一つだろう。話しては自分。聞きても自分と言う相互補助的な集まりだ。

 さて、そんなことを何故長々と説明したかと言うと。今まさに僕がそのサイコロジカルカウンセリングを受けに役所指定の心療内科へと訪れているからだ。

 ああ言っておくけど、ハリウッド映画のファンキーな主人公みたいにカウンセリングなんかやってられるかと匙を投げたりはしないからね。


「はわわ。し、心療内科だなんて初めてだよ塚杜君」

「……緊張しなくても大丈夫だよ白山さん」


 はわわって、ああた。ちょっとあざとすぎですよ。まあ似合ってるから許すけど。

 正にはわわになっている白山さんはいとうつくし。


「なんだったらあそこで遊んできたら」

「あそこって……もうっ! そんな子供じゃないよ!」


 僕が指さした待合室の隅。そこにある小さなお遊戯場を見て白山さんが眉目を上げて憤慨する。

 あはは、お母さんと連れ添って来た小さな子が時間を潰す場所だからね。うちの七奈はともかく、いとうくしい白山さんでも流石に無理があった。


「それよりほら、アンケート記入しちゃわないと看護師さんが困っちゃうよ」

「そうだった。ええ~と……」


 話を逸らすことに成功した僕は白山さんと一緒に診察アンケートの項目を埋めて行く。


 ――さて、スイーパーに心療内科への定期通院が義務付けられているとは前に話した事がある。

 特に僕たちのような役所やプロスイーパーに依頼しない個人駆除の場合は強制と言ってもいい。定期通院していないから最初と駆除後、出来れば間に一回の2、3回は必ず行く事になる。

 本当なら今日は明日からのゴールデンウィークに備えて新階となる2階の調査をじっくりとしたかったのだけど、白山さん宅にお邪魔したところで久しぶりに遭遇した白山(クソ爺)さんが出会い頭にこう言ったのである。


「おう、今日はダンジョン行くの無しにして病院行って来い」

「出会いざまになにを…って、ああ心療内科ですね。それなら明日から…連休でしたね」

「そう言うこった。今日の内に行って事実関係作ってこいや。じゃねえと連休の一週間ほどはダンジョン駆除を中止ってことになるからな」


 手渡された書類を見た僕は面倒だな、と思ったが無下にはできなかった。何故ならそれには法的拘束力があったからだ。

 今日は金曜日で明日の土曜日からゴールデンウィークとなると当然病院もお休み。病院で記入してもらう書類が発行されていて手元にあり、通院も可能な状態。これを無視して通院せず病院が休みだからと連休中にダンジョンに入れば処罰、とまでは行かないまでも大きなマイナス要因にはなってしまうだろう。


「わかりました。それならお嬢さんと――」

『どこですかお爺ちゃん! 私はまだ負けていませんよ!』


 なんぞなもし? 家で白山さんが帰ってくるのを待たせてもらおうとしたところで奥の方から聞こえてきた大声に遮られた。


「チッ、もう起きたか。わりぃけど今日はここまでだ。シッシッ」


 ……コノヤロウ。手を振って僕を追いやるそんざいな態度にこめかみが引きつってしまう。

 しかしお望み通りその場を立ち去ろうとした僕の背中にクソ爺の声がかかった。


括理くくりとは階段下か学校で合流しな。アレに見つかると今日中に病院なんて行けなくなっからよ」

「……? はい」


 なんだか良く解らないけど白山さんとは家で合流しちゃいけないみたいだ。役所で発行される指定病院の通院書類があれば保険証も費用も要らないからそれでも大丈夫だけど。

 それにしても……白山さんに姉妹っていたのかな? 聞こえてきたのは若い女の子の声だったけど。

 白山さんに似ていとうつくしい子なのだろうかと勝手な妄想をする僕は、神社の大階段下で白山さんが帰ってくるのをひっそりと待った。わびしい。

 ――そして現在。白山さんと合流した僕は街中の心療内科へと訪れているのだった。


「つかもりさーん。塚杜さん診察室にお入りくださーい」

「あわわっ、出番だよ塚杜君」

「落ち着こうね、白山さん」


 出番って、ああた。そこは順番でしょ白山さん。あんまり病院に来ないのか、病院の中ってだけで苦い顔をする子供かオジサンみたいだよ。心療内科なんて単なる聞き込み…って言うと言い方が悪いか。まあ決まった話をするだけなんだから。

 あわわはわわする白山さんをその場に残し、扉を開けて待つ心療助手さんの横を通り抜けて病室に入る。


「そこにお腰かけ下さい」

「はい」


 ここが心療内科であるせいか心療助手、看護師さんの声は普通の病院より丁寧だった。

 大病院とか変に忙しい街医者だと結構ぞんざいと言うか慇懃な人も多いけど、心の問題を調べたり軽減させるカウンセリング助手でそれは少ないのだろう。

 椅子に座った僕は目の前で柔らかな笑顔を浮かべる40歳前後ほどのお医者さんと向き合う。


「いらっしゃい。一応初めましてだね。憶えてないかもしれないけど当院主治医の久寿川くすがわ療太りょうたです」


 久寿川医師は僕が待合中に記入していたアンケートを手に親しげな雰囲気で話しかけてくる。


「あはは、来ていたのは薄らとは憶えているんですけどね。名前と顔までは……」


 そうなのだ。実はこの心療病院、くすがわクリニックに来るのは初めてではない。プロスイーパーである両親の通院時に何度か一緒に来たことがあったのだ。

 でも、それももう8とか10年とか前のことである。お医者さんも憶えてないだろうと思っていたが、良く考えたら両親が通院しているのだから少しくらいは憶えていても不思議ではなかった。

 割と良くあるスイーパーあるあるだ。役所が指定する病院なんて場所が決まっているし心療系の病院は数も少ないので、顔見知りの同業者と待合室で顔を合わせたりするのも少なくないらしい。

 スイーパー業界とは広いようで意外と狭いのかも知れない。


「そうだよねえ。君が小さかったころの話だしね。……ん、では気心が知れた仲と言うことで応答しようか。定文だから気軽にね。でも嘘はつかないように。まあ君の場合は付いても解っちゃうけどね」

「その通りで」


 両親に聞いたら一発ですからね。僕をリラックスさせようとする意志なのか、それこそ気軽な態度を取る久寿川医師の質問に答えて行く。


「アンケートと重複しちゃうけど答えてね。健康状態は?」

「良好です」

「何か疾患、または通院してる?」

「していません。しごく健康ですから」

「だよね。……犯罪歴はあるかな?」

「ありません」


 質問が徐々に堅苦しい、人によっては不快に思うような質問へと移っていく。


「最近なにか怒ったりした?」

「うう~ん。僕の周りには煽ってくる大人が多いので割と?」

「あはは、そうなんだ。君のお父さんとかそんなタイプだしね。次の質問。なんらかの非、社会的団体に所属したり、または付き合いはある?」

「ありません。少なくとも自分ではそう思ってます」

「うんうん。慎重な発言だね。でもそこはありませんって断言しても良いんだよ。役所も不可抗力までは責めないから」


 久寿川医師の語り口は嫌味が無いから話しやすい。お医者さんって何て言うか独特の雰囲気があるけど、それを感じさせないのが心療内科の特徴なのだろう。心の調子を整える病院なのに白山さんみたいに緊張するのは本末転倒だろうし。

 その後も幾つか応答したところで久寿川医師がパソコンをちょちょっと操作する。


「ん、以上でおしまい。お疲れ様。お父さんたちに連休明けにでも来いって言っといて。何時もなら月末にくるのにまだ来てないから。明日から連休なのに」

「ここ一週間ほど出張していたのでそのせいですね。伝えておきます」

「そっか、人気スイーパーは忙しいね。でもその分ちゃんと通院しないと色々うるさいから」

「はい、ありがとうございました」


 最初から最後まで笑顔を絶やさない久寿川医師に礼をして診察室を出る。あれだけ微笑んでて顔の筋肉が引きつったりしないのだろうか?

 そんな益体も無いことを思った僕はソワソワと座っている白山さんに声をかける。


「終わったよ」

「早かったね」

「こんなものだよ。別に治療に来た訳じゃないんだしね」

「それはそうだけど……」

「緊張しなくても大丈夫だってば。簡単な応答だけで終わるんだからさ。カウンセリングは次回からだよ」


 落ち着かせようとするも白山さんはうぐぐとお腹をさすった。ほんとうにおもしろい子だなあ。別に落ち着きが無い訳じゃあない。心も表情も豊かで素直なのだ。そんなところに少しひねたところがある僕としては好感を感じるのだった。


「しらやまさーん。白山さん診察室におはいりくださーい」

「出番だ。行ってくるね」

「はい、いってらっしゃい」


 すっくと立ち上がった白山さんが静かに診察室へと入っていく。スリッパの音を立てないところとか品があるのはあの上品なお婆さんの躾だろうか。

 それから5分少々。あれ、もう終わり?と消化不良な顔をした白山さんと僕は受付で渡していた書類を受け取って病院を出る。

 時刻は既に18:00過ぎ。流石にこれから白山さんの家に戻ってダンジョンに挑むには少々時間が足りない。今日はもう仕方ないかと白山さんと決め、僕たちはその場で解れた。

 え、送って帰らないのかって? それが気軽に出来たらぼっちやってねーわ。キザに送って帰るよとか自分が言っているのを想像したらサブイボがたってしまった。

 これは速く家に帰って七奈に慰めて貰わねば。自分でもそれはどうなんだと思うも僕の足は止まらなかった。


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