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僕と彼女のアンリアリティー  作者: 四十路小作
二章 襲来のファーストカズン
16/21

steppe001 スクールライフ

「ななな、行ってきます」

「いってらっちゃい」

「母さんには行ってきますないの?」


 5日目、朝。ここしばらく一人きりだったけど、こうして七奈に見送られて登校するのが僕の日課だった。

 愛くるしいな七奈がちっちゃなあんよで僕の後を追って来ないように母さんも一緒だけど、高校男子としては母親に毎朝行ってきますと言うのは少々恥ずかしい。そこに居るのに言わない訳にもいかないんだけどね。


「はいはい、行ってきます」

「もう、思春期ねえ。いってらっしゃい」


 最後に七奈をひとハグしてから家を出る。これでにーちゃは今日一日頑張れるよ!


 家を出た僕は山手に向って緩やかに傾斜している道を歩く。坂道と言うほどのものじゃなく、本当に緩やかだ。こんな感じを山の裾野って言うらしい。

 僕が住んでいるN市は縦長で北と南の半場で山に遮られている。我が家が在るのはその南側のやや山側にある住宅地だ。そこから歩いて10分から20分。裾野から山道へと変わる境目に氷川学園は在る。

 中高一貫。校舎は別々だけど隣在しているので敷地は凄く広い。中高合わせて生徒数は1000人ほどに200近い教職員とかなりのものだ。

 だから学校近くともなると朝からすごくうるさ…にぎやかである。


「おはよー!」

「きゃー! おっはよー!!」

「うおおおおお!! 朝練遅刻したー!」

「走るな! おいそこの男子、ちゃんと制服を着ろ!」

「昨日のストラバみたか?」

「みたみた。すごかった。うんすごかった」

「だよな、クローゼットの中からのぞいてるとことかもう」


 耳をつんざく怪音…じゃなくて女子生徒の声に昨日の深夜ドラマ(だと思う)の話をする男子生徒。それに校門前で生徒たちを監視する教師や警備員とごった煮だ。

 今日は朝から七奈成分注入を行ったせいで何時もより遅めとなった登校なので騒音がすごい。

 氷川学園が住宅街から外れているのが幸いだろう。確実に近所迷惑なレベルである。

 女三人集まれば姦しい。ならば男女1000人も集まればどうなるか、だ。


「10分も違うと結構違うなあ」


 明日からいよいよゴールデンウィーク。連休明けからは絶対に早めに登校しようと決める。

 まるで巣穴に戻る蟻のように校門に吸い込まれて行く生徒たち。僕もその内の一人として校門を越える。

 残念なことにあれから白山さんと校門で遭遇していない。通学路も違うし白山さんは飼育委員として登校が早いから、この前かち合ったのはたまたまだ。

 僕としては毎朝校門前で待ち合わせて…って妄想をするけど、うん、妄想でしかない。

 でもひょっとしたらカピバラ飼育舎で合えるかなあと下心を出して校舎裏に向かう。何時もより遅いが朝のホームルームまで5分10分くらいの余裕はあるのだ。


「ま、居ないよね」


 飼育舎に辿り着いた僕は無人の飼育舎の前で左右を見回す。遠くの花壇に園芸部がチラホラ居るくらいで流石にサボりの不良生徒も居ない。まだ朝だから当然だけど。

 視線を飼育舎の中に落とすと、そこには温水プールに並んで浸かったカピバラが2匹いる。白山さんが命名したわけじゃないのだろうけど、飼育舎の網にカッピーとバーラと言う安易すぎる名札が掛けられていた。

 因みにカッピーがオスでバーラがメスだ。どっちがどっちなのか解らないけど。


「あん? なに見てんだ。やんのかゴラ。ああん?」

「「…………」」


 円らな瞳で見上げて来るので凄んでみた。まったく効果無いと言うかそんな目で見ないでくれます?


「おーおー、良い御身分だなー。朝から温泉でハッピーハッピーてか? 夫婦で…な、うぐぅぅ」


 自分で言ってて反射ダメージ。高校2年生で未だ女の子と付き合うどころか甘酸っぱい空気すら味わったことも無い僕はカピバラ如きに負けていると泣きそうになった。

 うおおおん。朝から僕は何をしているのか。穢れ無き?カピバラたちの前から身を翻した僕は、その場から逃げ去るようにして教室に向った。

 因みに因みだけど、皆やるよね? 小動物の前でメンチ切ったりするの。

 ……僕だけじゃないと信じたい。


    ◆


「ホームルームはじめっぞー」

「きりーつ、れーい」

「「おはようございまーす」」

「おう、おはようさん」


 朝のホームルーム。挨拶を終えた僕は窓際最後列の席と言うかつて不良の特等席と言われていた場所に腰を下ろす。

 黒板前に立っているのは我がクラスの担任、小方おがた宗雄むねお先生。ちょっとやる気がなそうな、実際にもやる気が欠けている不良教師?である。良い先生ではあるんだけどね。


「だが、言う事は無い! きり-つ」

「れーい」

「「ありがとうございましたー」」


 良い先生、なんだけど…ね?

 顔を見せただけでさっさと教室から出て行った不良教師が完全に居なくなると教室内が騒然となる。

 ホームルーム前までしていた馬鹿話の続きや、僕のように次の授業の用意をしたりする。

 面倒なことに氷川学園ではそれぞれの学種ごとに専門の教室があるのでほとんどが移動教室なのだ。

 あれだね。教師からすればお前らが来いよクソガキって感じなのかな? ロートル敬えって。

 まあおかげで校風もあるけどあまり不真面目な生徒は居ない。サボろうと思えばいくらでもサボれるけど、落ちるのはあっという間って感じだから。

 それに私立なのでテストで赤点を複数出した上に救済処置にすら達しないとなれば普通に退校処分になるしね。


「ふう、今日も放課後まで頑張りますか」


 何度も言うけど明日からゴールデンウィーク。そう思えば退屈な授業だって今日だけは色づいて見える。さっさと次の授業で使う教材を鞄に詰めた僕は、友達と楽しそうに話している白山さんをチラっと見てから教室を出た。

 僕は学校内じゃちょっと他の生徒から距離置かれてるから気軽に話しかけれないんだよなあ……。


 ――そして早くも昼休み。何時ものごとく屋上給水塔裏で弁当箱を広げる僕。きょうは完全にぼっち飯かなあと思っていたら、一足遅れて花鏡かきょうがやってきた。


「や」

「や」


 手を軽く上げ合うだけで後は何も言わず昼食を食む。

 ふむ。花鏡は今日もコンビニ飯か。何気に高い奴とか食ってるのがまたアレだけど。

 あるよね? 普通より50~100くらい高いパンとかスイーツって。ブルジョワめ。

 なんて他からすると自分もブルジョワになるのを実感してない僕は花鏡を鼻で笑った。

 僕のお小遣い月5000円だし、両親からして浪費しないからそう言った感覚は薄いのである。

 ほとんど無言の内に昼食を平らげた僕たちはポツリポツリと最近あったことなんかを話す。

 完全体ぼっちである僕ならダンジョンの事を当たり障りない範囲で簡潔に。

 同じぼっちみたいだけど僕ほどじゃないだろう花鏡なら学校内の噂話なんかを適当に。

 そして予鈴前になるとどちらからともなく話を切ってそれぞれの教室へと向かう。

 まるで街中でたまたま会った顔見知りと立ち話をしただけの薄い関係。でもそんな関係だからこそ気軽に付き合っていける仲もあるのだ。

 ぼっちにはぼっちの付き合い。それが僕と花鏡の距離感だった。


 そして瞬く間に放課後。翌日からゴールデンウィークだと言うのに朝同様、何も無し!と告げた不良教師にほんとかよ!何か言うことあんだろ!とクラス全員の心の声が一致したところで解散。部活に委員会に席を立つ生徒たちの中で僕は帰宅…実際にはダンジョンが在る白山さんの家へと向かう。

 当然だけど今日も白山さんは飼育委員の活動があるので別行動だ。いっそのこと僕も飼育委員になろうかとも考えたけど、どうもスイーパー関連と趣味の料理以外のことにものぐさな僕としては向いていないと断念した。

 しかしまあ自分で言うのもなんだけど、これで良いのか僕のスクールライフ。まったく青春してないぞ。全国のぼっちな皆さんもこんな味気のない灰色の学校生活を送っているのだろうか?

 今日は、と言うか今日も僕はクラスメイトと一切会話していない。白山さんとは人気があるところじゃ目も合わさないしね(血涙)

 白山さんに誘われてダンジョン駆除をしていることだけが僕にとって色が付いたスクールライフだ。

 ……え、花鏡との薄~い友情?はどうしたって? 生憎と僕は野郎との関係に色を付けたりしないのだ。

 まあこんな感じだからぼっちなんだろうけどね。は~ぼっちぼっち。


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