steppe008 マイナスクリスタル
ずるずるぐしぐし(´σii `;)風邪ひいた
「ふぅ~、強かったねえ」
天井に向けて右腕を突きだしていた白山さんがその腕で額の汗を拭う。不快感ではなく精神的な疲れからくる反射的な動作だろう。
「おつかれさま白山さん」
「おつかれさまー! あっ、色違いのパワークリスタルが落ちてるよ」
よほど機嫌が良いのかシュタッと手を上げた白山さんが大餓鬼SGが消えたあとに残った赤黒い結晶を拾う。
あーそれは……
「これ私が貰っても良い? なんか強そうだし」
「あ、ちょっと待っ――」
説明も聞かずストレージに赤黒い結晶をしまった白山さんに使うのは待ってと言おうとしたのだが……
「んあー!」
「うわぁっ!?」
体から赤黒い光を滲ませた白山さんが突然声を上げて向かって来た。
慌てて躱す僕の横を今日一番のキレがある動きで白山さんが素通りし、大きく行き過ぎたところでグルリと振り返った。その大きな瞳には怪しげな赤い光が宿っており、明らかに正気とは思えない様子を見せている。軽くホラーだ。
「白山さん! SNPの効果を切って! 白山さん!」
「んなー!」
「ああもうっ!」
呼びかけるも付き合いの浅い僕の声は心に届かない。再び白山さんが向かって来る。正気を失っているせいか短槍を投げ捨てているのが幸いか。
……仕方ない。恨まないでね白山さん。
僕は脇差をクルリと反転させると突進してくる白山さんを回転するように躱し、がら空きになっている後ろ首に脇差の刀背を打ちつけた。現実でやると普通に撲殺な峰打ちだ。
「ぎゃん!?」
「白山さんSNPの効果を切って!」
女の子に口にさせてはいけないような不細工な声を出させた僕は床に転がった白山さんに訴えかける。今度はちゃんと声が届いたのか、白山さんの体から赤黒い光が消える。
「ひどいよ塚杜君……」
ノソリと起き上がった白山さんが首筋を擦りながら恨みがましい目を向けてくる。
うん、完全に正気を取り戻したみたいだ。
「ひどいのは白山さんでしょ。いきなり襲い掛かってくるんだから」
「うっ、それはその、そんなつもりじゃなかったと言いますか」
正論で返された白山さんがつつましやかな胸を押さえた。それで恨みがましい目を止めたが、小さな唇をチョンと尖らせているあたり不満は消えてなさそうだ。
ここは一つしっかりと注意しなければならないだろう。
「白山さん。自分がなにをしたか本当に解ってる? 外なら普通に傷害未遂で訴えられるよ。当然僕は正当防衛だ」
「そっ、それはそうなんだけど。ほんとうにそんなつもりじゃなかったんだよ。でもなんだかよく解らなくなっちゃって」
「言い訳はしない! 悪いと思ってくれるならそれで良いから。理由もちゃんと解ってるしね」
「……ごめんなさい。それで理由って、やっぱりこの赤いパワークリスタルのせい?」
ペコリと頭を下げた白山さんはストレージから赤黒い結晶を取り出す。僕はそれを受け取り、白山さんにも見えるように持つと説明する。
「これはパワークリスタルじゃなくてマイナスクリスタルだよ。昔はカースクリスタルなんて呼ばれてたらしいけど」
「か、カース!?」
目を剥いて驚く白山さんがスササッと僕から距離を取った。正確には僕が持つマイナスクリスタルからだけど。
「これは同品質のパワークリスタルよりも強い効果を持つ代わりに、なんらかの負担を使用者に与えるんだ。HP強度、つまりは防御力を凄く上げる代わりにHPが徐々に減ったり。HP損傷力、攻撃力を凄く上げる代わりに防御力がそれ以上に減ったりね。何というか本末転倒な効果が強いから呪い。今は人聞きが悪いからマイナス効果のクリスタルって言われてる」
「やっぱりそれのせいなんだ。効果はなんだったんだろう? すごく暴れたくなっただけのような?」
それだけを聞くと物騒なだけの能力だ。でも大餓鬼SGが使った時と白山さんが使った時の様子を合わせると大体想像はつく。
「言うならば凶化ってところかな。効果は身体能力を上げる代わりに正常な判断力を低下させて攻撃的にさせる…かな?」
「バーサークだね。ゲームだと使えるのに現実だと全く使えないよ……」
「本当に反省してる? またゲームと比べて。あれだよ、さっきの白山さんは地面に落ちてる食べ物を拾い食いしてお腹を壊すようなどうしようもない子だったよ」
「ううっ!?」
またもや胸を押さえた白山さんが今度は膝までついた。流石に自分が痛い子だったってことが理解できたみたいだ。
マイナスクリスタルをストレージにしまった僕は誤って使ってしまわないように意識から外す。捨てはしない。これはそのままでは使い辛いが、他に使い道があるのだ。
「まったく、今回は本当に反省してね。おかげで初めてステップガードを倒した余韻なんて感じる暇もなかったよ」
「そっ、そうだね! ボスを倒したんだから次の階に行こうよ!」
遊びじゃないんだから、とまでは言わなかった僕だけど、今一つ反省する様子が薄い白山さんを見てると本当に一度良く話し合わなければいけないのかなと考えさせられる。
まあ僕が言わなくてもダンジョン駆除をしていれば必ず自分の浮ついた心を後悔する時がくるだろうけど。それこそ早ければ次の階で。
「……そうだね。行こうか」
「うん!」
僕の様な若造が言うと傲慢になるけど、人とは自分の身で確かめなければ反省しないものだ。できればその時に負う傷が軽い物ですめば良いのだけれど。
大餓鬼SGが居なくなったことで僕たちしか存在していない広い部屋。その壁面に空いた下へと続く階段に僕たちは足をかける。
下の方は見えない。少し先からは全てが黒く塗りつぶさている。これが現実なら絶対に下りようとは思わないだろう。しかし若干の緊張と恐怖を抱きながらも僕たちは階段を下りる。
一階のダンジョンが木造だったからか階段もまた木造だ。降りるたびにコンコンコンと小気味良い音が立つ。不思議な事に進むたびに黒く塗りつぶされた場所も移動し、階段が途切れることは無い。
そして一分も経たない内に階段は終わった。次の階の床に足を下ろすとカツンと硬質な音が鳴る。それまでと変わった音に僕が視線を落とすと、床が平たい石を詰めたような石床に変わっていた。
「うわっ、なにこれ!」
並んで歩いていた白山さんが声を上げて走り出す。だから緊張感が…なんて言う余裕は僕にも無かった。何故なら僕もまた速足で前へと進み、ガラリと変わってしまったダンジョンの“絶景”を凝視してしまったからだ。
「すごいねえ…塚杜君」
「うん、凄い。ほんとうに凄いや……」
僕たちの前に在るのは竹林だ。みっしりと生い茂った竹が壁となった通路。しかし道幅は一階の倍ほども広く、床は目の粗い石床と土で出来ている。そして光源も無いのに明るかった一階とは違って薄暗く、所々に配置されている灯篭がオレンジ色の光を放っている。
見上げれば天井は無く遥か高くが黒一色に染まっている。星も見えない夜空と言ったところか。一分もかからず下りてきたとは思えないほどの天井の高さだ。
これがダンジョン。一階のような誰でも踏破できるレベルの階層では無く、挑むと言う心意気が無ければ踏破できない本当のダンジョンだ。
今の日本ではそうそうお目にかかれない風景をしばらく堪能した僕は、まだ見惚れたままの白山さんに声をかける。
「今日はここまで。戻ろっか」
「え、また? どんなモンス…クリーチャーが居るか確かめてからにしようよー」
「だーめ。SG戦で思ってるより疲れてるはずだからね。それに言ったでしょ、安全第一だって」
「いのちだいじに……」
白山さんはほんと、いとうつくしい見た目に反して好戦的と言うかやる気が強いね。こういう時は他の物に興味を惹きつけるのが正解だ。我が愛しの幼妹(2歳6カ月)もそうだしね。
僕は竹林の中に生えているように見える下りてきた階段とは違うもう一つの階段を手で示す。大きさも見た目も同じだけど正面の竹林に生えている階段とは違って横の竹林に在る階段だ。
「ほら、こっちの階段だよ」
「あれ? そっちにも階段あるんだ。どこに続いてるの?」
秘密。と茶目っ気を入れて答えながら白山さんを誘導する。口で説明するより実際に体験した方が速い。
コツコツと木の階段を上ること一分足らず。僕たちは一階に戻った。
でも一階は一階でも大餓鬼SGが居た守衛の間ではない。ダンジョンに入って最初に訪れることになる一階入り口の広場だ。
「あ、ショートカットなんだ! そうだよね、また1時間もかけて2階に行くなんて面倒だもん」
いや、面倒と言う問題では無いと思うのですが。
ステップガードを倒した事で一階入り口広場に出現した2階への階段。存在自体が摩訶不思議なダンジョンに常識など通じないと思わせる現象をショートカットの一言ですませた白山さんは大物感満載だ。
「まあそう言うことかな。だから2階への挑戦はまた明日。体調を万全にしてからにしよう。クリーチャーも1ランク上が出るかもしれないしね」
「うん。今日は早めに寝るね。実は昨日興奮して眠れなかったんだ」
ふう、今日は本当に疲れた。ステップガードは思ってたよりも手ごわかったし、凶化した白山さんに襲われるしで心労が特に。
それにそろそろ白山(クソ爺)さんに報告をしておきたい。今日もまた留守だったし明日には居るんだろうか?
今はあともう数日で5月に入るゴールデンウィーク前。できれば連休中に2階を踏破したいなあ……
1章終わり。風邪ひいてしんどいので明日は一章の設定まとめだけ投降します。
2章中盤からおにゃの子追加。いよいよすっぽんぽんも解禁です。




