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僕と彼女のアンリアリティー  作者: 四十路小作
一章 二人のファーストステップ
12/21

steppe007 ステップガード

ちょいと長め?(´Å`)

 社殿のダンジョン一階最奥。本来なら行き止まりとなっている正面の壁には大きな門扉が存在していた。それは次の階層への入り口がある守衛の間の門だ。


「やっとここまで来たね」

「うん。でも思ったよりも速かったよ。まだ3日目だし」


 白山さんは感慨深く言うが、実はそうでも無い。プロスイーパーなら一階ていど一日どころか半日で踏破するのが普通だ。

 しかし僕はそんな興ざめな事は言わず、アマチュアとしてならこのくらいなのかなとも思って頷くに留めた。


「そうだね。――じゃあ戻ろっか」

「うん! って、え!?」


 そして勇みよく一歩を踏み出した白山さんとは違ってクルリと反転する。


「帰っちゃうの!?」

「うん。だってもう帰る時間だし」

「そ、そうかもしれないけど!」


 その場に踏みとどまる白山さんの言いたい事は解る。どうせなら次の階層に移動してから戻りたいのだろう。だけど――


「次の階層へと続く入口の前にはスッテプガード、ワンランク上の強敵が居る。もっと落ち着いた状態で挑まないと“全損”することになるよ」

「ボス…強いの?」

「うん。当たり前だけどその階のクリーチャーとは頭一つ以上抜けて強いよ」

「んん、解った」


 渋々ではあるが納得した白山さんを伴い帰途についた僕は、いくつかの戦闘をこなしながら帰途についた。


    ◆


突進(速)(スピードチャージ)かあ」


 僕が思春期の男の子として割と深刻な醜態をさらした日の夜。その原因となったSNPのことを帰宅してすぐに調べていた。

 向き合うのは市販されていないダンジョン駆除人スイーパー関連の情報書籍だ。若者らしくと言えばスマホやパソコンなんかでインターネット調べをするのだろうけど、ああいったところに載っている情報は“自称”元プロスイーパー、ゲーム感覚でスイーパーになったは良いけれどダンジョン下層の過酷さに耐え切れず引退したプロ未満の人たちである。

 そのため身に染みていない上に古い、いわば軽すぎる知識なので家で定期的に購読している情報書を読むのが最適解なのだ。


「ふんふん。力を上げる突進(力)(パワーチャージ)にHP強度を上げる突進(固)(ハードチャージ)なんてのもあるんだ」 


 しかもその三つを状況に切り替えて使用する事で上位のSNPを手に入れるまでは十分に実用できる。ただし使用回数は少なめなので切り札として、とある。

 この全体を見ての補足あたりがネットには載っていない“プロの見識”だ。

 どうやら餓鬼のように攻撃に偏重したクリーチャーから出やすいそうなのでこの三つを揃えることを念頭に置いておこう。

 本当ならそれが出来るまでステップガードに挑まず一階で粘りたいところだけど、今日の白山さんを見るに明日挑むことになるだろう。一階のステップガードなら無くても十分に勝算があるのが救いだ。

 とは言え白山さん風に言うと相手は小ボス。言った当人は多分解っていないだろうけど、その階の最後の砦を護るに相応しい強敵なので苦戦は必至だ。

 僕は就寝時間になるまで情報書を漁り、ステップガードしてどんな敵が出て来るのか、その場合はどう対処すれば良いのか、先人の知識を経験を借りながらシミュレートした。

 少しでも勝率を上げるために。経験が浅すぎる僕が出来るのはこうして知識を詰め込むことだけなのだから。


    ◆


 そして翌日の4日目。社殿のダンジョン一階最奥に僕たちは居た。目の前に在るのは壁面全てを覆う大門。次の階への階段がある守衛の間への入り口である。

 ここに来るまで1時間。戦闘数は6回。今回もSIは出ず、パワースポットでそれぞれ一個の劣化パワークリスタルを手に入れた分だけが昨日よりも強化されている。


「突入する前にストレージの中を確認しておこうか。いざって時に考えて出したりできないしね」

「うん」


 僕と白山さんは強敵に挑む前の最後の確認をする。今の僕たちの状態を纏めるとこうなるだろう。


塚杜つかもり建速たてはや 主職業:高校生 副職業:見習いスイーパー見習い


 総HP 200/200

 基本HP100 装備増加HP100


 装備品

 脇差

 白い布の鉢金

 木製の胸当

 木製の腰当

 白い布の籠手

 白い布の脚甲


 パワークリスタル

 HP損傷減少1

 突進(速)

 身体能力強化1《本日取得》


白山しらやま括理くくり 主職業:高校生 副職業:?????(乙女の秘密)


 総HP 200/200

 基本HP100 装備増加HP100


 装備品

 短槍(丁度良い長さ)

 白い布の鉢金(ちょっと大きい)

 木製の胸当(平たいんだけど胸は苦しくないらしいw)

 木製の腰当(割と良い感じ)

 白い布の籠手(籠手って言うよりも腕鎧?)

 白い布の脚甲(前衛的なニーソっぽい)


 パワークリスタル

 HP弱回復

 身体能力強化1

 HP損傷減少1《本日取得》


 ――となっている。現状では出現クリーチャーが完全に単一なのでほぼ同じ状態だ。

 恐らく次の階層からはそれぞれの味が出て来るだろう。

 最後の確認を終えた僕たちは視線を合わせて頷き合い、目前の門扉を開いて中に入った。


 背後で門扉が自動的に閉じる。しかし慌てる事は無い。別に鍵が閉まった訳では無くまた開くからだ。どちらかと言えば通路から餓鬼の乱入が無くなるので手間が省けたくらいである。

 中は他にあった小部屋の数倍の広さで、パワースポットが在る部屋よりもずっと広い。

 しかし何も居ない。ただ離れた場所に在る正面の壁に下へと続く階段が見えるだけだ。

 何時もならこの辺りで白山さんが何も無いのかと聞いてくるところだけど、この状況でそれを聞いてくるほど白山さんは鈍く無い。

 確かに感じる威圧感。確実にナニか居る。僕たちはそれぞれの武器を構えてゆっくりと前進する。

 そして部屋の中央へと足を踏み入れた時、ソレは現れた。

 階段の前に闇が生まれた。まるで霧のような実体を伴う不気味な闇だ。それは小さな点ほどの大きさからあっという間に大人一人を飲み込むほどに大きく成ると、まるで虚空に吸い込まれるようにして消え去った。

 一匹の異形を其処に残して。


「大餓鬼だよ白山さん! SI! いやそれ以上の!?」

「どうするの塚杜君!」


 ソレは通常の餓鬼よりも遥かに大きくより異形的な姿。Fランクの餓鬼より1ランク上のクリーチャー大餓鬼だ。しかもソレはより大きく、事前に調べた大餓鬼とは明らかに違う部分があった。なんと不格好にも鎧兜を身に纏っていたのだから。


「やる事は変わらないし素人の僕たちじゃ変えられないよ! 散開! 撹乱しつつ鎧の隙間に攻撃!」

「うんっ!」

「ギイイヤアアアアッ!!」


 ステップガードの大餓鬼特殊個体。大餓鬼SGが目前で間を空けた僕たちを威嚇するように叫んだところで地面を蹴る。僕が右、白山さんが左に向って回り込むように走る。幸いにも敵は一匹。明らかに今の僕たちよりも強い相手だろうけど数の暴力で押す!

 それにどうやらこの大餓鬼SGは肥大しすぎた腹部と歪に大きい頭に更に鎧を着込んだせいか身動きが取れないようだ。床に座り込んだまま骨と皮だけの長い手足をだらしくなくたれさせている。

 ――が


「ギイイイイイイ!」

「うわっ!」

「キャアァッ!」


 左右から同時に攻撃した僕たちをその長い手足が襲った。僕はとっさに脇差を盾にすることですこし弾かれただけですんだが、槍を突き出していた白山さんはタイミング悪く腕の一撃で弾き飛ばされてしまった。


「白山さん!?」

「くぅっ、大丈夫! でも気を付けて! あんな攻撃でHPが50も減ったよ!」


 僕は白山さんの無事を確認してから再び大餓鬼SGに突っ込む。しかし、まるで駄々っ子のように手足をばたつかせる大餓鬼SGのリーチの長さと動きの激しさに攻撃できるだけの隙間を見いだせなかった。


「なんだこいつ!」

「このっ、このっ」


 短槍を使う白山さんは僕よりも若干リーチが長いがそれでも全く届いていない。息を切らすことなく狂った様に手足だけを動かす大餓鬼SGを前に僕たちは膠着してしまう。

 なんて面倒な奴なんだ! それなら、これはどうだ!


「白山さん僕が注意を引くから後ろから!」

「っりょうかい!」

「ほらっ、こいよ大馬鹿野郎!」


 クリーチャーに人間の言葉が通じるなんて聞いたことはないのだけれど、僕は大餓鬼SGの注意を引くために真正面に移動して挑発する。軽いステップを前後左右に繰り返して目障りに脇差を突きだすのも忘れない。伊達に煽るのが大好きな大人に囲まれていないのだ。ウザい行動には慣れている。


「ギイギャッ! ギャギャア!」


 挑発成功。大餓鬼SGが牙を剥いて長い両腕を伸ばしてきた。

 チャンス! 僕のその想いが通じたのか大餓鬼SGの後ろに回り込んでいた白山さんが死角を突いて攻撃する。

 大餓鬼SGの大きな体で隠れて見えないけれど、白山さんのいとうつくしい声は聞こえる。


「たあっ!」

「ギッ? ヤアアアア!」


 一撃か二撃かは解らないけど背中に攻撃を受けた大餓鬼SGが悲鳴を上げながら背後へと腕を伸ばす。

 やっぱり大きくても餓鬼は餓鬼だな! 僕はがら空きとなった真正面からSNP突進(速)を使って突っ込んだ。

 ドンッと床を蹴る力強い音。見る間に大餓鬼SGとの距離が縮まり、僕は下段に構えていた脇差を腰だめにして鎧から大いにはみ出している太鼓腹に突き刺した。

 タマ取ったるどお!的にズップリと刺さった脇差だけど当然鮮血なんて飛び散らない。僕は肉を刺したのとは違う微妙にスカスカした感触を感じながらやたらめったらに突き刺す。


「――ッッアァ!!」

「くあっ!?」


 チャンスを逃すまいとダメージを与えることに集中していた僕の頭に強烈な一撃が加えられた。

 一瞬意識が飛ぶほどの衝撃に体から力が抜け脇差を取り落してしまう。それを無意識下で拾おうと手を伸ばした僕だったが、その前に大餓鬼SGに殴り飛ばされてしまった。


「ぐはっ! ~~っ!」


 たった二撃で200HPの半分以上を削られた僕は吹き飛ぶ勢いに任せて地面を転がり大餓鬼SGの攻撃範囲から逃れる。幸いなことに大餓鬼SGは動けないのでこれで追撃は躱せるだろう。

 跳ねるように起き上がりストレージから予備武器の脇差を取り出す。そこに白山さんが駆け寄ってきた。


「回復!」

「ありがとう!」


 できれば背後から追撃していて欲しかったのだけれど、その考えは大餓鬼SGの暴れっぷりを見て改めた。


「ギアッ! ギアアアアア!!」


 ものすっごく怒り狂っていた。先ほどまでが駄々っ子なら今は完全に正気を無くした異常者か。

 動かせない胴体を基点にして前後左右、腕が嵐のように行き交っている。


「これはちょっと……」

「どうするの塚杜君」


 僕は答えに窮する。これが普通の餓鬼ならダメージ覚悟で殴りあうのだけど、相手はたった二撃で100以上もHPを減らしてきた相手だ。殴り合いでは完全にこちらが分が悪く、かといって間合いの外から攻撃できる手段も無い。

 疲れて動きが止まるのを待つ? まさか。相手は地球の生物では無いクリーチャーだ。スタミナなんて概念があるのかも疑わしい。それにSG、ステップガードは基本的にSIだ。まだ使って来ていないSNPが懸念でもある。

 どうする? 既に餓鬼2匹分くらいのダメージは与えている。暴れっぷりを見てもそれなりにHPを減らせているはずだ。白山さんの回復を使ってダメージを回復しながら攻めるか?

 考え込む僕。しかし、それは長くは続かなかった。


「塚杜君、何か変だよ!」

「えっ?」


 相変わらず暴れまくっていた大餓鬼SGの体から赤黒い光が湧きあがっていた。徐々に強まって行くそれが体全体に及ぶと、大餓鬼SGはギョロリとした大きな目を真紅に染めて叫び立ち上がった。


「立った! 大餓鬼が立った!」

「そんなこと言ってる場合じゃないよ白山さん!」


 どこぞのアルプス少女のように驚く白山さんに注意を呼びかけながら二手に分かれる。

 どうやら大餓鬼SGは僕を標的にしているようだ。立ち上がったとはいえアンバランスな巨体のせいで動きが緩慢な、しかしそれでいて一歩が大きく総じて動きが速いと言うことになっている大餓鬼SGをさらに引きつける。

 そうすれば言わずとも白山さんが死角を突いてくれるだろう。


「こっちだノロマ! やれるものならやってみろ!」

「ギャアアアアアッ!!」


 ぬわぁっ! 動きがさらに速くなった! 立ち上がった事で身長が178㎝ある僕よりも頭三つ分くらい上に在る場所から大餓鬼SGの長い腕が振り下ろされた。

 言うなれば映画で見るような切断された太いワイヤーの一撃とでも言うのか。とてもではないが受け止められない攻撃を横に飛んで交わす。


「うわっ、ちょっ、まっ、ぬわぁっ!?」


 これがクリーチャーと言う人を超えた力を持つ存在の怖さか。人間同士ではまず味わう事の無い高々所からの死を予感する攻撃が絶え間なく襲い掛かってくる。その勢いに反撃なんて考えも湧いてこない。

 これはっ、まずい! 何時までもっ、躱してっ、いられないぃっ。白山さん速くっ!

 最早白山さんが何処に居るのかも確認する余裕が無い僕はとにかく無心に必死に回避する。

 ああっ、もう駄目だぁっ。と思ったところで、白山さんのいとうつくしい姿が確認できた。

 えっ? なにやってるの!?

 なんと白山さんはその体の小ささを利用して大餓鬼SGの股の間に潜り込んでいたのだ。

 大餓鬼も餓鬼と同じく腕は長いが足は短い。しかし立ち上がると2mを優に超すSGの巨体ともなればそれなりの長さにはなる。そのうえ体のバランスを取るためか酷くがに股だ。白山さんのような子ど…いとうつくしい体の女の子なら潜り込めるだけの隙間はあった。

 僕を倒す事に夢中になっている大餓鬼SGは自分の真下に女の子が居る事に気づかない。そしてついに躱しきれなくなった僕が一撃を受けて地面に叩きつけられたところで大餓鬼SG“の”悲痛な叫びが木霊した。


「ギャッ……」


 まるで魂が抜けたかのような細く嫌に耳に残る声。たった一撃で100を超える大ダメージを負った僕が霞む目を向けると、ビクーンと体を固めた大餓鬼SGの姿と、短槍の切っ先を大餓鬼SGの股倉にえいえいと二度三度と無慈悲に突き刺しまくる白山さんの姿が見えた。

 うわあ……。同じ男?として正視するに耐えない状況に何故か僕の股倉までヒュッとした。

 大餓鬼SGは槍の一刺しを受けるたびにビクンビクンとなり、抵抗しないままに…消えた。


「うわあ……」

「倒したー!」


 もうそれしか言えない僕と勝鬨かちどきを上げる白山さん。何とも言えない空気のその場に、コロンと赤黒い光を放つ結晶が転がった。

 クリーチャーに生殖器は無いんだけど、きっと心は男だったんだな。うん。

 僕は何処か寂しげに転がる赤黒い結晶を眺めながらそう思った。


ゲーム風ステータス入れてみました。いわゆる鑑定とか無いので攻撃力や装備品のHPなんかの詳細ステは解らない仕様になっております。

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