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僕と彼女のアンリアリティー  作者: 四十路小作
一章 二人のファーストステップ
11/21

steppe006 最奥

 3日目。何時もの如く“学生ぼっち生活”を送った僕は放課後に白山家で合流した白山さんと早速ダンジョンへと挑んでいた。

 しかし今日も白山(クソ爺)さんは留守にしていけたど、神主が神社を連日留守にしていて良いんだろうか?


「たぁっ!」


 白山さんの昨日よりも鋭くなった槍の一刺しが餓鬼の胴体に突き刺さる。それが丁度心臓辺りに刺さったせいか大きなHP損耗を受けた餓鬼が僅か3撃目で消滅した。


「やっぱり急所だとダメージが大きいね。一発じゃ消えないから変な感じだけど」

「はぁっ! ……ふぅ。あくまでHPの削り合いだからね」


 2匹との戦闘直後に襲いかかって来た3匹の餓鬼。その最後の一匹に止めを刺した僕は、どうも戦闘後の警戒を忘れがちな白山さんの分も周囲を警戒しながら答えを返した。

 僕たちがダンジョン内で行う戦闘はクリーチャーとのHPの削り合い。現実世界の様に後ろから急所を一突きして即死させるなんて芸当はできない。


「でもそれは僕たちにとっても有利なんだよ。単純にHPを全損させるだけの一撃を受けない限りは即死…て言うと違うんだけど、無いからね」

「なるほど。バックアタックからのクリティカル&ム○祭りはないんだね」


 クリティカルは解るけど○ドってなに? これもまたゲーム用語なんだろうけど、白山さんの発言はそれが多すぎて解らないことが多い。

 残留品を拾った僕たちはすぐに探索を再開し、幾つかの曲がり角をマッピングしながら進む。


「うーん。ダンジョンの中でスマホが使えたらなー」


 白山さんが戦闘後に一々手帳を取り出す僕を見てこぼした。

 スマホに自動で地図記入するアプリなんてあったっけ?


「なに? 今さら」

「え、なんとなく?」


 本当に今更だ。ダンジョン内は地球側の法則とは違う理が支配する異世界。そのせいか中では機械類のほとんが使えないと言うかそもそも“持ち込めない”。


「でもすごく不思議だよ? 持っていたはずのスマホとか無くなってるんだもん。外に出たらやっぱり持ってるし」

「ああ、そこね。その辺りの事はややこしい上にやっぱり俗説だけど聞く?」

「うん、聞く」


 なら仕方ない。僕は一度足を止めて白山さんに説明する。あくまで俗説で仮説ですらない不可思議な現象を。


「極論を言えば僕たちは実際にダンジョンの中に来ている訳じゃ無いって極論だね」

「えっ、どういうこと??」


 一言目で白山さんの頭の上にクエスチョンマークが出た。

 僕はあくまで俗説だよと前置きして発言を続ける。


「そもそもHPってなんのさって話からくるんだけど。僕たちの体は実際には地球とダンジョンの間、通ってくる次元の狭間に存在していて。アストラルボディ、日本風に言うと魂的な物がダンジョンで具現化した仮初の体じゃないかって言う眉唾物な話だね」

「……つまりダンジョンが創った偽物の体だからスマホは持ってないってこと?」

「だね。真実は解らないけど」


 でも割と信じられている説だ。科学者たちもそれを前提として色々研究しているみたいだし。

 僕としては携帯が使えない代用として持ってきた懐中時計は機械じゃ無いのかとか、手帳に記入しているMAPは確りと地球側でも反映されている事実があるので信じてないけど。

 しかしその話をすっかり信じた様子の白山さんは自分の体をペタペタ触っている。


「っと、敵だよ」

「んっ、SIが居るよ」


 探索を再開して早々に餓鬼たちが少し先の曲がり角から姿を現した。その数4体。内1体は一回り大きな餓鬼SIだった。

 数の上では倍だが装備品が充実した今の僕たちだと十二分に相手取れる。何のSNPを持っているか解らない餓鬼SIには留意しながら真正面からぶつかった。


「せいっ」

「やっ」


 不意では無いので大声での牽制は役に立たない。素直に脇差と短槍で餓鬼の通常個体に攻撃を加える。

 まだ一階だからかここの餓鬼は知能が極端に低い。何のフェイントも無く飛び込んできた餓鬼を僕が2体引きつけ、その間に白山さんが1体を素早く片付ける。そして数が同じになった通常個体と1対1で向き合ったところで後ろで待機していた餓鬼SIが動いた。


「ギャァッ!」

「うわっ!?」

「塚杜君!」


 餓鬼の鉤爪を脇差で受け止めていた僕に物凄い速さで餓鬼SIが突っ込んできた。とっさに飛んで白い布の籠手で受けとめたけど、勢いに押されて大きく態勢を崩してしまう。


「こんのお!」

「ギギ!」


 お返しとばかりに転がりながらも脇差を一閃させるも、多少強くなっただけの餓鬼SIとは思えない速さでまた躱された。これは強敵だと感じた僕は死なないからこそできる自分の体を囮にした戦法を取る。


「白山さんは普通の餓鬼を!」

「うん!」


 普通の餓鬼2体にいまさら負ける白山さんではない。任せ切った僕は再び猛烈な速度で突っ込んでくる餓鬼の体当たりを真正面から体で受け止め、強烈な衝撃に一瞬意識が飛びそうになるのを我慢して後ろに押されながらも右手の脇差を突き刺した。


「ッギィヤアァ!」

「ぐはっ!?」


 僕を通路の壁に叩き付けた餓鬼SIがそのまま肩で押さえつけながら反対側の腕の鉤爪を突き刺して来る。防具部分を避けて体を突きぬけて行く不快な感覚と痛みに怒りが爆発する。


「んのぉっ!!」


 なにすんだこの餓鬼野郎!! ぶっ殺してやる!!

 脇差を餓鬼SIの無防備な首筋に突き差し、餓鬼SIに同じように突き差し返され、また僕が突き返し返す。最早それはただどちらが先に死ぬかの噛み付き合いだ。多分これがダンジョンに入ったばかりの僕なら負けていただろうが、脇差の攻撃力と防具で上がったHP最大値で必勝のゴリ押しを重ねる。

 まだ僕はやれるぞ! 絶え間ない激痛を誤魔化すかのように灼熱したままの思考で脇差を思いっきり振り下ろす。――が、その寸前に餓鬼SIは光の粒子となって消え去り押さえが無くなった僕の体が前のめりに倒れる。


「んがっ?」

「大丈夫っ塚杜君!」


 タイミングが悪く顔から床に落ちた僕に餓鬼を片付けた白山さんが駆け寄ってくる。

 うわあ~滅茶苦茶格好悪いところを見せちゃった。もうちょっと手こずってくれてたら良かったのにぃ。

 僕は自分の中で今の醜態をなかった事にし、転がっていた餓鬼SIのパワークリスタルを拾い立ち上がった。


「大丈夫。……ん、接近してくる餓鬼の気配無し! 今度のパワークリスタルは僕が貰うね!」

「え、うん。良いけど…大丈夫? 鼻赤くなってるよ? 回復!」


 気にしない! 白山さんの優しくも心痛い心配をスルーした僕は、回復を受けながらもパワークリスタルをストックに収納した。

 ん……餓鬼SIの素早さから白山さんがパワースポットで手に入れた身体能力強化かと思ったけど、体に変わった感覚は無いな。単純な能力アップじゃなくて回復みたいな使用系かな?

 僕は回復が終わってどんなSNPを手に入れたの期待している白山さんから少し離れると、意識してSNPを使ってみた。言葉は要らない。ただ使うと念じるだけ。

 その瞬間。僕の体に力が湧いて来た。正確には足に。

 僕はその足で床を蹴ってっ――うわあああああ!?


「ぷぎゃあ!?」

「塚杜くーん!?」


 ドン。と音がしたと思ったら向かい側の壁へと視界が急速に縮まり、顔にえも言えぬ強烈な衝撃を受けた。暗く染まる視界。どうやら壁に顔を思いっきりぶつけたようだ。

 ほんげええええ! むっちゃ痛い! 痛い痛い痛ーい!

 床に倒れた僕は強かに打ち付けた鼻頭を押さえて転がりまわる。

 しかし白山さんの慌てるような足音が聞こえたと思ったら一気に痛みが引いてきた。

 ……回復だ。たった一回の戦闘に貴重なSNPを2回も使わせてしまった僕は、今度こそ恥ずかしくてそのまま顔を上げれなかった。


 ――そして5分少々。落ち着いた僕は転がって仰向けになると上半身を起こし、近くの壁に背中を預けて三角座りをした。


「つ、塚杜君?」

「……笑えよ。笑えよぉ……」


 最早気になっている女の子に良い格好を見せるどころか体裁をつくろう余裕すらない。僕は意外と綺麗なダンジョンの床を見ながら怨嗟の声をもらした。


「わ、笑わないよ! うん、確かにちょっと笑いそうになったけど笑ってないよ!」


 無理すんなよ! 笑えよ! あああああ家帰りたあああいいい!


「も、もうっ。男の子でしょ! はい立つ!」

「あいたぁっ!?」


 落としていた肩にバシーンと衝撃が走る。驚いた僕が見てみると、肩に白山さんのいとうつくしいお手てが乗っかっていた。

 その温かさにほんわりした僕は現金なことに元気が沸き立ち、苦笑しながら腰を上げた。あ、でも――


「白山さん、HPが減ったんだけど?」

「えっあ、ごめんなさい! で、でも塚杜君が悪いんだよ!」

「まったくその通りで。んじゃ行こっか」

「え、え?」


 場の勢いに任せて再び無かった事にした僕は、展開の変わりようについてこれない白山さんを後ろに探索を再開した。

 僕が醜態を晒すことになったSNPの効果はそのあと壁では無く通路に向かって使ってみたことで判明した。どうやら回復のSNPみたいに発動型のSNPらしく、極僅かな時間だけ走る速度を上げるものだった。

 使用回数もわずか3回ほどと使いどころの難しいSNPだ。しかしこのさき強敵に遭遇した時には起死回生の一手にもなるだろう。

 これで僕と白山さんに発動型のSNPが一つづつ。いよいよ僕たちもスイーパーらしくなってきた。

 そしてその日の探索時間も終わりに近づいたその時、僕たちの前に“門”が現れた。

 社殿のダンジョン一階の最奥。次の階へと続く守衛の間だ。


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