第3章
「ふぁ~あ。…良く寝たなぁ…。さて、白猫ちゃんは…、と」
昨日、雨の中で震えていた白猫を拾った。
白猫はソファーに寝かせて、俺は寝たのだが……。
………ん?
「……え?……何方様……?」
猫を寝かせていたベットには、なぜか知らない女性が……。
……服着てないし……。
「……にゃぁ」
「いや、なんで猫の鳴き真似……って、え?」
……昨日拾ってきた猫、そっくりの声……。
まさか……
「……昨日の、猫?」
いや、そんなはずはない。
猫が人のカタチをとるなんて、聞いたことがない。
……実際にあったらあったで、“生物”としての均衡を崩しにかかっている……。
否定の言葉を待っていた…が。
「……はい。……昨日拾ってくれた猫…です…。あの、白猫……」
「………」
彼女の言葉に俺は開いた口が塞がらなかった。
「…何故かわからないんだけど、天気によって変わるみたいで…。
……雨とか雪の日は猫だけど、晴れの日は人で……
……曇りの日は猫耳と尻尾がついてる人になるんです…」
………本当に、この女性は人なのだろうか……。
「失礼なこと聞くけど、生物学上では人…なんだよな?」
…猫として扱って、と言われたらどうしよう…。
俺にはそんな趣味ないぞ⁉
「……はい…一応は……」
「…一応は、ってなんでだよ…」
「えっと……一般論とはかけ離れてるから……?」
「……何故疑問系……。
ま、確かにそうだな。猫が人のカタチをとる、あるいは人が猫のカタチをとる。
どちらにせよ、現実世界ではありえない話だからな…」
……だとしたら、今、俺の目の前にいるこの女性は一体何だというのか。
「………」
「………」
沈黙が流れる。
「……あの……大変申し訳ないのですが……」
沈黙を先に破ったのは彼女の方だった。
「………服を貸していただけないでしょうか……?」
……ん?…服?
「もしかして、あそこに落ちてたのって……」
はい、そうです、と前置きしてから彼女はいう。
「昨日、出勤中に急に雨が降り出したんです……
……その所為で、猫になっちゃって……」
やはり、彼女の物だったらしい。
「…ごめん。暫くは、俺の服、着てくれる?」
あいにく今は一人暮らしなもので、女物は置いてないんだ、と付け足す。
「だ……大丈夫……です…」
彼女に見つけてきた服を渡す。
なぜか妹の服が俺のクローゼットの中に。
彼女の背格好が妹とにていたので、それを着てもらうことにした。
いつもは癪にさわる嫌な妹だが、今日は少し妹に感謝しようと思った。
「ど……どうですか…?」
……正直に言おう。
むちゃくちゃ似合ってる///
「あ…あぁ、いいんじゃないか?
君……そういえば、名前を聞いていなかったな。
俺の名前は逸勢皐。
好きなように呼んでくれ」
「私は、藍堂桜です。よろしくお願いします。
あの、……皐さんと呼ばせてください!」
彼女は顔を赤らめながらそう言った。
断る理由などない俺は、
「勿論、いいよ。
……桜さん、と呼ばせてもらっても?」
と尋ねた。
「はい。……呼び捨てでも大丈夫ですよ」
満面の笑みで返された。
「そういえば、家、帰らないとダメなんじゃない?
車で送ろうか?」
そうだ。
昨日の夜はたまたまとはいえ、彼女を連れてきてしまったのは俺だ。
彼女も家族がいるだろうし、心配するだろう。
そう思った矢先。
「いえ……あの、一人暮らしをしているので、2.3日帰らなくても大丈夫ですよ。
……服とかは必要ですが…」
「いや、送るよ。一人暮らしならなおさらね。
ご近所さんがどんな方かは知らないが、心配されるだろうし」
彼女は困惑した表情で俺を見る。
そして、そっと呟いた。
「……あの場所に、帰りたくないんです…」
聞き間違えたかと思ったが、そんなはずはなく、彼女はさらに言葉を重ねた。
「…私の住んでいた場所は、とてもいい場所でした。ご近所さんも優しい方ばかりで、とてもお世話になっていました。
……今から5年前のあの日、金持ちのご夫婦が引っ越してくるまでは……」