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「Thank you and I did not dare」

「でも、花子は変わったね」


車中。唐突にアレックスが穏やかに言った。


「は?」

「霧というひとりの男性をここまで気にするなんて」


言われてみればそうだった。今までこんなに深夜にこだわっているのだろうか。


「確かに、何で私こんなに深夜に執着してるんだろうな」

「…ハナコ、その言い方は少し、卑屈ではないかな」

「卑屈?」

「私が思うに、君は霧に好意を抱いているんじゃないか」

「…は?」

「霧は君のことが好きなんだろう?」

「何で知ってるんだ」

「君に言う前に私は霧から相談を受けたからね」

「…何で、そんなこと」

「さあね。私にも真意は分からない。でも、霧は鋭いよ。君の事情を察して、それを私が知っているというのも分かっている」


アレックスの言うことを花子はまったく知らなかった。絶句する。


「…違う。私が持ってるのはそんな綺麗な気持ちじゃない」

「綺麗である必要はないと思うよ?」

「深夜は私に優しい。だからいるだけだ。…それだけなんだ。それが誰でも、同じようになっただろうよ」

「だが、花神楽に君を嫌う男性はいないよ。皆怒ったり文句を言いながらも、君に協力してくれる。私もそうだよ。…彼らが同じようになったとき、君は同じ行動をするかい?」

「…さぁ、どうだかな」

「分からないだろう?しかし霧に対してはこんなにも必死になっている。それはね、霧に特別な思いを抱いているからだよ、リリー」

「だから、その名前で…」

「それにね」


アレックスは花子の言葉を遮った。信号で車が止まる。アレックスの真摯な瞳が花子を見る。


「私の直感だけれどね、霧は君をきっと幸せにしてくれるよ。…少なくとも、私よりはね」


アレックスは前を向き直し、苦く笑った。


「まったく、霧にはかなわないな。私がどうやっても掴めなかったものを、あっさりと手に入れてしまったんだから」

「アレックス…?」

「どうか、幸せになってくれ。リリー。…さぁ、この信号を越えれば駅だよ」

「!」


花子はシートベルトを外す。車が走り出す。バスロータリーの脇に車が止まるや、花子は車を飛び出した。改札目がけて走っていく。アレックスが後を追った。駅員のいる扉のない改札を勢いよく駆け抜けた。10cm近いヒールを履いて、よくその速度が出るものだ。アレックスが駅員を取り成しているのを目の端に捉えながら、ホームに向かうエスカレーターを駆け上がる。


ホームは人ごみに溢れていた。もうすぐ電車が来るのだろう。時間がない。花子は辺りを見回した。


心臓が跳ねる。


いた。


少し離れた乗車待ちの列。一番後ろ。


「深夜!!!」


花子は思わず大声を上げていた。

深夜がびくりと身体を震わせてこちらを見た。驚いている顔だ。


「…花子、どうして…!」

「それはこっちのセリフだ…!」


ただ戸惑う深夜まで近寄った花子は、乱暴に深夜の手を掴んだ。


「お、おい!」

「来い!!」


花子は深夜を引っ張り、ホームから連れ出した。

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