「Although continued to choose the wrong way many times...」
卒業式が終わり、生徒たちと談笑を終えてひとり校長室に戻ってくると、携帯が鳴った。見ると、知らない番号から電話がかかってきている。
いつもなら無視してしまうのだが、この日の花子は電話を取った。
「もしもし」
『…赤月です』
相手は深夜の居候だという少女だった。
「何だ一体」
『先程は失礼しました。私、嘘をついていたんです』
「嘘?」
『…深夜はあのとき、私の隣にいました』
「え?」
『目に異常が起こって病院に行ったのは本当です。でも検査はすでに終わり、もう限界だという診断を受けていました。深夜はその旨を私に代わりに言わせたんです』
「あいつどうしてそんなこと」
『深夜はあなたから離れるのがあなたにとって1番良いことだと思っているようです。でも、自ら言う決心がついていないあたり、まだ諦めきれていないのでしょう。だからこうした手段を取った』
赤月の言葉は少女のそれとは思えないほど賢く、落ち着き払っていた。花子は思わず苦笑いが浮かぶ。
『私たちは駅前で昼食をとっているところです。今はトイレを装って電話をかけています。もう食事は終わります』
「つまりこれから駅に行って電車に乗っちまうってわけだな?」
『はい。急いでください。…深夜もあなたも、こんな終わり方では絶対に後悔します。深夜に会って、話をしてください』
「言われなくてもそのつもりだ!しっかしお前すごいガキだな、年サバ読んでるんじゃねぇのか?」
『大人びているとはよく言われます。では、のちほど』
電話が切れる。最低限の支度をしながら頭を働かせる。
病院の最寄駅は花神楽のひとつ先だ。歩いていけない距離ではないが、今は時間がかかりすぎる。しかし今日は花子は車で来ていないし、タクシーもすぐには来てくれないだろう。
そこまで思考を巡らせて、花子は校長室を飛び出し、職員室に駆け込んだ。
「アレックスいるか!!」
よく通る声を張り上げると、見慣れた金髪が振り向いた。
「どうしたんだいハナコ、そんな大声を出して」
「アレックス車出せ!」
「えっ?」
「詳しい話は後だ!いいから来い!!」
アレックスの腕を掴んで職員室を出る。彼はまだ困惑の表情を浮かべている。
「いったいどうしたんだい」
「深夜が見つかったんだよ!」
「えっ!?本当かい?」
「時間がねぇんだ!早く行かねぇと!!」
駐車場に着き、アレックスが運転席に乗り込む。花子も助手席に飛び込んだ。
「詳しい事情は分からないが、君の頼みなら仕方ない。協力しよう。さぁ行こう!」