「Let's take a you and photos」
校長室で自分に差し出された封筒。
こんな場面、ドラマで見たことがある。あまりにも非現実的だ。
「…何だこれは」
「見て分かるだろ。退職届だ」
だから最初理解に遅れた。目の前の男の言葉で、やっと「これ」の意味を理解する。
「どういうことだ深夜」
「それがなぁ」
目の前の男…深夜は困ったように笑って、もう一枚紙を出した。
病院の診断書だ。
「最近やけに調子が悪かったから病院行って検査してみたら…案の定だ」
眺める。難しい言葉が並んでいるが、要するに。
「何でもっと早く来なかったのかって医者に怒られたよ。あともって数ヶ月だそうだ」
「マジかよ」
「ああ。実際かなり視力落ちてる感じがあるしな。もうすぐ夏休みだから、今年いっぱいもつかどうか…だな」
「…マジかよ」
「俺だって信じらんねぇよ」
深夜が笑う。重要な話をしてるってのに、こいつはいつも通りだ。それはお互い様なような気もするが。
「だから、今年度で辞めることにしようと思ってな」
「今年度?でも今年もつかどうかって話だろ?」
「まぁな。でも…まだいたいんだ」
急に言葉が詰まる。
「これからもたくさんの生徒や先生方と会って、学校が変わってもそうだと思ってた。でも、今年が最後になっちまったんだ。せめて花神楽の人たちにはみんなに会っておきたいんだ。1年もつんなら文化祭もあるし、そうすれば卒業した奴らにも会える。…会って、見ておきたいんだ。俺がいた場所と、思い出を…」
深夜は俯いた。言葉が震えている。
「お前とも…もう会えなくなる」
突然の言葉だった。胸に刺さる思いだ。
「ひとりじゃ暮らせなくなるからな。親戚のところに身を寄せようと思ってるんだ。花神楽も出ることになる。…だからよ」
深夜が顔を上げた。笑顔だ。
「今度ふたりでどっかに出かけないか?文化祭終わったあたりでよ」
「……分かった。行こうぜ」
「そうか。良かった。あ、このことは内緒にしといてくれよ。そもそも目のことはお前しか知らないし」
「あぁ、そうだな」