夢と現実
あなたは夢を見るだろうか?
見たことのある人が大半であろう。誰しも一度は見たことがあるはずだ。
楽しい夢、怖い夢、究極にはこの二つに絞られるだろう。
そしてその「夢」は「現実」味を帯びている。実際に夢の中で味を感じたり触った感触がある人がいるだろう。
ただし、それは脳の中で繰り広げられているだけに過ぎない。
(もし、こんな夢が現実に起きていたら)
そんな「夢」を現実にもたらす、現実の空想「夢現世界」をめぐって繰り広げられる物語。
俺、新堂篤志は、都立坂上高校に通う高校二年生だ。
この高校は自称(ここ大事)新学校として知られているようだが、実は入学してから偏差値が徐々に下がっていく生徒が続出するという謎な高校である。
そんな偏差値が降下していく謎の効果の対象となる生徒には、もちろん俺の知り合いも含まれるわけで、
「こ、今回の成績、か、過去最悪なんだけど……」
「おいそれ去年の期末にも聞いたぞ」
2年連続同じクラスで隣の席の女子、阿津波夏帆が隣でうめいていた。
ちなみに担任の教師も二年連続で、この先生は席替えをしない人なので、最初の席(出席番号順)が1年間続くのだ。だが連続で隣とは、不思議な縁もあるものだ。
「7科目中5教科が赤点、全国模試の偏差値34、私の頭でいったい何が起こっている!」
「声がでかいしそれは単にお前がアホなんだろうよ」
「うっさいわねバカ篤志!そんなこと言ってるとこのあいだの夜のことばらすわよ!」
「!!??」
そう、俺は今弱みを握られている。
それは一週間前に夏帆の部屋にいたのだ。夜に。
自分でも全く身に覚えがないのだが、確かに夏帆の部屋にいた。その晩は確かに自分の布団で寝たのにだ。
「だからあれはちがくって……」
「何が違うってんのよ!どうせ私の寝こみを襲いに来たんでしょ!このスタイル抜群で豊満な胸でくびれ…ってなに言わせてんのよー!!」
「完全に自爆じゃないか!!」
実は夏帆は本当にスタイルが良い。出てるところは出てるし、へこむところはへこんでいる。お腹のことは聞くまでもないな!
そんなしょーもない言い合い(俺にとっては一大事)をしていたら、予鈴が鳴った。
予鈴に合わせて会話が終わる、興が冷めたのだ。
そんなところに1人の男子が寄ってきたので、
「とうっ!」
跳び蹴り。
「わわわっ!?」
躱された。
篤志はすんでのところで受け身をとってダメージを防いだ。ポ〇モンかよ。
なぜいきなりこんなことをしたかというと、
「ひどいな篤志、互いの熱い友情を体を使って示し合おうというときに跳び蹴りだなんて!」
「うっせー聡志!お前が近づくとろくなことにならんのだ!」
すんでのところで躱した男子の名前は東条聡志、先ほどの会話で察していると思うのだが、
「あ、でもあの蹴りを受けてたらくんずほぐれつな状況に…ゲヘー」
ネタバラシ!この子はゲイなのだ!以前はノーマルだったと言っていたが、俺と出会ってそっちに目覚めたという……
ちなみに聡志はかなりのイケメンだ、男の俺が認めるほどに。身長高め、足が長く、顔が小さく、一部の女子生徒からは白馬の王子だなどと呼ばれている(らしい)。
だからといってこいつに掘られていいとは言ってない。初めては好きな人(男除く)と決めているのだ!おや?今どこからかどーてーって聞こえたな~?土手かな?それ間を伸ばす必要あるのん?
そもそもこいつとの出会いというと、
「いやー久しぶりだね篤志、5日前に助けてもらって以来だね!」
「いや、初対面のはずだろ?」
「またまたー、じゃぁなんで僕の名前を知っているのさ?」
「そ、それは夢で……」
「その夢の内容は?」
「聡志が、複数の男にいじめられていたところを、俺が……」
「そう、助けてくれた!僕はあの時ほど感動したことはないよ!それを君はあれを夢だと言うのかい?」
そう、聡志の実体験の話と俺の夢の内容が寸分違わず一致しているのだ。
これが初めてではない、夏帆の時もそうだった。
奇妙だ、まるで夢と現実が混ざっているかのように。
「奇妙なんかじゃないよ」
「???聡志、何か言ったか?」
「いや、その受け答えはちょっと心にくるというか……」
「???夏帆か?」
「何も言ってないわよ、それより授業始まるわよ?」
夏帆が言うと同時にチャイムが鳴った。
「もう、夢が夢でないことに、気づいてるんじゃない?」
「!!??」
席に着くと同時に、声が頭の中で、「響いた」。
努めて冷静を装って、頭の中での会話に挑戦する篤志。
「だ、誰だ?俺の頭に、話しかけてくるのは……」
「ボクの名前はヒイラギ、君たちの住む世界の空想、夢現世界の住人さ」
「む、夢現世界……?」
篤志はまだ知らなかった。ヒイラギのもたらす夢現世界の事情によって、自分のこれまでの平穏に陰りが生じ始めることに……