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旅立つ者には祝福を  作者:
本編
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第3話 理由と目的


 僕が居る王都の城には、図書館と呼べばいいのか膨大な書物が保管されている場所がある。

 セイナにぶっ飛ばされて以来、模擬戦形式の訓練は午前中だけ、後は僕の自由時間にしてもらっている。

 セイナが「すまない」と頭を下げて、僕に謝ったことは何も関係がない。

 

 理由はこの世界のことを色々と学びたいと思ったから、そしてシエルが呟いた『あいつ』とは誰のことなのか、それを知りたかった。


 図書館から持ってきた本を、自室に用意された机に座り広げる。


 なんでこの国の見たことの無い文字が読めるのか、少し不思議に思ったけど、シエルが言うには僕を召喚する時に使った陣には、こっちの世界に適応するためも魔法も付加されているらしい。

 さらに解読不可能の部分もあるらしく、異界人を召喚できると言うこと以外は謎に包まれている。

 よくそんな不確かな魔法陣を使用したなと感心する。そして、やや強引にも異界人の召喚にシエルは成功した。


 きっと、優秀なんだろうな。王族なんだし、その辺は間違いないだろう。

 

「第二次人魔戦争……」


 本の一文に書いてある言葉を思わず呟く。

 元の世界が平和だった僕には、『戦争』という単語はあまりにも不慣れだった。


 この世界には『魔物領』と呼ばれる凶暴な魔物たちが住み着く地域がある。

 それを囲むように『人間領』が存在し、今僕が居る『ストレニア王国』は東に位置している。


 ほんの10年前まで、この『ストレニア王国』は『魔物領』から溢れる大量の魔物と戦争をしていた。

 本に書いてある内容によると、当時の戦況はかなり悪かったらしく、圧倒的な物量差の前に敗北濃厚。

 そして、切り札をとして勇者を召喚した。


 後に『黒の勇者』と呼ばれる勇者は、戦争を人間側の勝利で終わらせた。

 そして、彼を召喚した王女『蒼い女神』、二人は英雄として歴史に名を刻んだ。


「あれ?」


 次のページをめくると、その後二人がどうなったのか書かれていない。

 どのページをめくっても、何処を探しても、二人に関する情報は無かった。

 ため息を混じりに本を閉じて、机の上に置き、考えをまとめる。


 召喚されたことから、『黒の勇者』が異界人であることは、ほぼ間違いない。

 問題はその後、異界人である彼がどのような道を辿ったのか。

 それが分かれば、僕がこの世界でどう生きるべきか分かるのに……


 本に書いていないなら、知っている人は居ないのだろうか?


 もう一人の英雄、『蒼い女神』は王女らしい。王女ってことは、シエルのことだろうか?

 確かにシエルは蒼い髪と瞳を持っている。かと言って、10年前と言うことは、彼女は当時7歳だ。

 戦時で非常時とはいえ、7歳の女の子を戦争に関わらすのは、僕の頭の中では考えづらかった。


 あくまで僕の中の考えであって、こっちの世界の人たちからすれば当然のことなのかも知れない。

 その辺のことは、シエル本人に聞いた方が早いだろう。

 怒られないかぁ……いつも何かする度に怒られているせいで、僕は彼女の顔色に敏感だ。


 嫌われているのか? いや、嫌いとか好きとかそうゆう次元で判断できるほど、僕たちの関係はまだ深くない。

 と言うことは、生理的に否定されている? そう思うと少しへこむ。


 勝手に一人で落ち込んでいると、ドアがノックされる音で現実に戻る。

 返事をする前にドアから蒼い髪が覗いた、向こうから来てくれるとは予想外だった。


「読書は終わり?」


「少し考え事を」


 何食わぬ顔で部屋に入って来たシエルが、机の上に置かれた本を手に取り、パラパラとページをめくる。

 口を一文字にして、内容に少し不服そうだった。


「魔法に関する本じゃないの?」


「歴史の勉強しようと思って……あとさ、シエルに聞きたいことがあるんだけど」


 シエルが本をパタンと閉じて、机の上に置いた。

 澄んだ蒼い瞳が僕へ向けられる。

 綺麗で整った顔をより一層引き立てる蒼い瞳。印象に残るその瞳から、誰かが『蒼い』と異名を付けても、おかしくないなと改めて思った。


「『蒼い女神』って言うのは、シエルのこと?」


 シエルはため息を零すと、僕が使うベッドに腰掛けた。

 横目で窓の外を見ながら、慎重にゆっくりと言葉を口にする。


「私の姉よ。10年前、あんたと同じく人を召喚し、戦争を終わらせた英雄の一人。私の医療魔法はその人から教えてもらった。技量は足元にも及ばないけどね」


 骨折を普段の生活に支障が出ない状態まで治す、シエルの医療魔法を持ってしても足元に及ばないと言わせるその技量。

 シエルも十分凄いのに、ここまで言わせる『蒼い女神』に戦慄した。


「シエルの医療魔法も十分凄いよ」


「姉様は、心臓と脳以外を完璧に再生させる、医療魔法さらに上、『再生魔法』の使い手でも?」


「なんかごめん」


 シエルが深いため息を吐いた。

 心臓と脳以外を完璧に治せるって、それもうただのチートだろ。

 完璧な反則じゃないか。


 戦争終結に貢献した英雄の規格外の力に再び驚く。

 さらにシエルは教えてくれた。


 姉は幼少期から天才と呼ばれるほど、魔法の腕に長けており、ずっとその背中を追いかけていたこと。

 普通の魔術師に比べれば、自分も少しは優秀な部類に入るが、姉に比べれば不出来である。

 そして、王位継承を達成するには、その姉を超えることが必須である……と。


「だからあんたには、『黒の勇者』と同じか、それ以上になってもらわないと困るの」


 どう考えても無理だった。大戦を終わらせた英雄、きっとシエルのお姉さんと同じように規格外の力を有していたに違いない。

 右腕についた金色の装飾が施されたブレスレットの魔具がないと、ロクに体術系の魔法すら使えない僕だぞ。

 道のりは険しいなぁ。そう思って、気が遠くなった。


「魔物との戦争は起こると困るし、どうやって手っ取り早く力を示すか。ずっと考えているんだけど、いい案が思い浮かばなくて」


 シエルはそう言って、ベッドの上に背中から寝転がった。

 わざわざ異界人である僕を呼んでまで王位を継承した理由。

 自分の関わる事だから、無性に知りたくなった。


「シエルはどうして、王位継承にそこまで拘るの? 僕を呼ぶことは別に必須じゃないって、前に言っていたじゃないか」


 セイナとの訓練が嫌で、以前に一度だけ聴いたことがある。『僕を召喚できたんだから、王位継承できるんじゃない?』っと。

 しかし、異界人を召喚する過程は別に王位継承と関係がないそうだ。

 父である国王に、『姉を超えた証を示せ』と言われ、まずは異界人召喚だ……にたどり着いたらしい。


 シエルは王女としての気品を備えているが、意外と勢いで事を進めるタイプなのかもしれない。


「……笑わない?」


「えっと……笑わない」


「ホントにホント?」


 シエルは身体を起こし、僕の目をジッと見つめて来る。

 笑うかどうかの確認なんて、何か変な理由があるのではないかと、勘繰ってしまう。

 それにシエルから発せられる謎の威圧感の前には、笑うことなんて出来ないと思った。


「ホントにホント」


 僕の言葉を聞いて、シエルは大きく息を吸った。


「行方不明になった姉様にもう一度会うためよ。あたしが王位につけば、姉様の耳に入って気が付いてくれるかもしれない。だから、絶対に王位を継ぐの」


 どこに笑う要素があったのか、僕には分からなかった。


「立派な理由じゃないか……なんで、笑うかどうかの確認をしたの?」


「う、うるさい! 死んだって言われている人に気づいてもらうなんて、普通はおかしいでしょ!」


 彼女の顔が恥ずかしさで赤くなる。

 そうか、シエルのお姉さんは死んだことになっているのか。

 さっき彼女がお姉さんのことを話す時、本当に慕っていたのだと分かるほどイキイキしていた。

 それと同時に、越えられ壁として重荷に感じていたことも伝わって来た。


 きっと、自分の成長をお姉さんに見て欲しいんだろうな。

 そして認めて欲しい。だから、シエルは王位継承に拘る。

 結果を目に見える形に示すために。


「立派な理由だと思う。家族に会いたいと思うのは当然だよ」


 僕の両親は死んでしまった。だから余計に考えてしまう。

 もしも生きていたらと。自分とどんな風に接してくれるのだろうかと。

 だから、お姉さんに会うために努力するシエルの気持ちは分かるし、出来れば力になりたいとも思った。


 僕にできることなんて微々たるものだけど……


「そのためには、あんたに力をつけて貰わないとね!」


「分かってるよ」


 やや苦笑気味でそう答えた。

 力にはなりたいけど、痛いことは遠慮したい。

 何かいい手は無いかなぁ。


 そんな事を考えていると、シエルが何か思い出したように掌をポンと合わせた。


「そうだ。今から魔道学院行くからついて来なさい」


 有無を言わせない言い方。

 もちろん、僕の返事は決まっている。


「はい……お供します……」


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