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旅立つ者には祝福を  作者:
本編
31/36

第30話 果ての終着点


 黒と蒼の強大な魔力の衝突。

 人外となった二人の魔力が普通なら破壊されることのない魔法障壁をメキメキと揺らす。

 このままじゃ、外に居る僕とシエルまで被害が来るのでは?

 そう頭に過るには十分すぎる程の衝突だった。


「二人は……?」


 シエルは二人を見つけるために目を凝らすが、衝突した魔力が光輝き、中の様子を見ることが出来ない。

 どちらが勝ったのか、二人とも死んだのか、それすらも分からない。


 やがて光が収束し中の様子が分かるようになった。

 二人ともまだ生きている。イェノムは杖を床について身体を支え、レイトさんが前に出た。

 傷だらけのイェノムに対し、レイトさんの動きは何時もと違和感がない。


 魔法障壁が二人を囲んでいなければ一帯が吹き飛ぶほどの衝撃だったのに、なぜ彼だけ無事なのだろう?

 そう思って、矢のような速さで動く彼に視線を集中させる。


 よく見ると彼の身体もボロボロだった。

 身体中火傷に切り傷、額からは血が流れている。

 ただ、彼は自分の身体に再生魔法をかけていた。


 ダメージを受けながらの回復。

 おそらく魔力の衝突時から再生魔法を発動していたらしい。

 再生魔法が発動している証である蒼い魔力を身に纏い、レイトさんはイェノムとの距離を詰めていった。


 そして、刀身が黒く染まったアグナの宝剣をイェノムへと振り降ろした。

 身体を斜めに切られたイェノムの身体が、糸の切れた人形のように倒れる。

 それと同時に、二人を囲んでいた魔法障壁がパリンと音をたてて消滅した。


「終わった……のか?」


 戦いは終わった。

 だけどこの謁見の間を静寂がやけに不気味だった。


「シンジ。あたしをあそこまで連れて行って……」


 小さな声で力強い主張。

 もしかするとシエルにとって、父との最後の会話になるかもしれない。

 良いのか悪いのかは分からないけど、シエルの身体を背負い、イェノムとレイトさんが居る場所へと向かった。


「シエルか……」


 僕の背中にいるシエルを見て、イェノムが光の無い瞳を向けた。

 身体を斜めに切った傷からは大量の血が流れ、彼はまるで赤い池に沈んでいるようだ。


「父上……最後にお聞きしたいことがあります」


 シエルが僕の背中から降りて、イェノムの顔に手を近づけた。


「大体は想像はつく。貴様の母のことだろう……」


「はい……何故、母は私を生んですぐに死んだのですか?」


「我が殺した……貴様の母は我を養子に迎え入れた親……つまり貴様の祖母と『幻の勇者』の子供だからだ……」


 そうか。この人は王族の人間じゃないんだ。

 養子として迎えられ、愛するべき母は別の男と恋に落ち、王族と異界人のハーフが生まれた。

 それがシエルたちの母親であり、この人の妻と言うことか。


「何故ですか? 姉様の時といい、今回も……何故それほどまでに異界人(彼ら)を求めるのですか?」


「力が必要……なのだっ。魔物を恐れない絶対的な力がっ」


 イェノムの息が荒い。

 もう最後の時が近いようだ。

 彼は僕たちの方を睨み、フッと笑みを浮かべた。


「勇者たちよ……貴様たちが選んだ未来……楽しみだ……」


「あんたは民を守る為の力が欲しかった。それは別に間違っちゃいない。ただ、俺たちとやり方が交わらなかっただけだ」


 レイトはアグナの宝剣を腰差した鞘に戻した。

 僕は冷静に言葉を放つレイトさんを見る。

 確かにレイトさんの言う通りなのかもしれない。


 イェノムは民を魔物から守る力をつけるために、異界人である僕らの魔力を吸収しようとした。

 方法がどうであれ、民を守る王であったことに代わりはない。


「だからと言って……貴様は我を許さんだろう……?」


「もちろん。俺はあんたを許す気も認めるつもりもない」


 ニコッと微笑んだレイトさんはまるで、無邪気な少年のようだった。

 純粋な殺意。時々この人が、本当に勇者なのかどうか疑いたくなる。

 だけど、『勇者』と言うのは役割の名前であって、たとえそれが『魔王』だとしても本質は同じなのかもしれない。

 

 だとしたら、『勇者』は自分が正義と思っているぶん厄介だ。

 大義名分を得た人間はどこまでの残虐になれる。人間性を捨てることも容易だろう。

 それをこの人は理解している。だから自分の行いを正当化する気も、弁解する気もない。


 ――俺がそうしたいからする


 この人にあるのはこのシンプルな考えだけだ。

 悪いと言う人いるだろう。認めない人も居るだろう。

 それでも彼は突き進む。たとえそれが茨の道としても。


「そうか……」


 イェノムは何故か笑みを浮かべ、僕の方を見る。


「新たな勇者よ……」


「はい」


 イェノムはゆっくりと手をシエルへと伸ばし、彼女の頬を撫でた。


「娘を……シエルを頼んだぞ……貴様たちの選んだ未来だ……」


「分かりました。何があっても僕が彼女を守り抜きます」


 シエルがイェノムの手を握り返し、ギュッと力を入れる。


「父上……」


「シエル、我が娘よ……お前には構ってやれなかった……すまない……」


「いまさら……いまさらそんなこと言わないで下さいっ」


 シエルの瞳から一筋の光るものが流れ、石畳へと落ちる。


「そうだな……その蒼い瞳を見ていると……貴様たちの母を思い出す……」


「母様を?」


「そうだ……だから、我は貴様たちを愛することが出来なかった。父を裏切った(あの女)の血を引く貴様ら姉妹を……」


 イェノムの生気が徐々に無くなっていく。

 どうやら流石の彼も、限界が来たらしい。


「シエル。今日から貴様が王だ。民を導け」


「父上……」


 シエルがイェノムを握る手にさらに力を入れる。


「一足先にあの世で母やアリッサと共に……貴様を待つ」


 イェノムはそう言うと、レイトさんの方を見た。

 まるで何を言われるのか分かっているような瞳。

 それを見たレイトさんがため息をした。


「残念ながら、地獄行きは俺とアンタだ。待つ人は居ない。来る人は俺だけだ」


 皮肉を込めたのか、本音で言っているのか。

 地獄行きと言っているのに、レイトさんの顔はどこか穏やかだった。


「貴様ならそう言うと思ったさ……」


 イェノムがゆっくりと瞳を閉じた。

 その寝顔は何故か晴れ晴れとしていて、今まで命のやり取りをしていた人とは思えなかった。

 もしかすると、王であること、王族の一族ではないのに民を率いることを重荷に感じていたのかもしれない。


「レイト君~~!」


 元気な女の子の声。

 僕たちが振り返ると、全身傷だらけのセイナとロリフィの姿があった。


「サラドルは?」


「今は身柄を拘束して、騎士団員に戦闘の停止を指示させた。今はネセリン元隊長たちが見ている」


 セイナはそう言って、腰に差した炎剣に手を添えた。

 もちろん、その剣は黒の勇者(王殺しの大罪人)に向けられるだろう。


「セイナ。待って」


 シエルがセイナを制し、ゆらりと立ち上がった。

 そしてレイトさんに歩み寄り、蒼い瞳で睨みつける。


「あんた。自分がしたことの意味。分かってるんでしょ?」


「ただの人殺しだ。弁解する気も、正義を語るつもりも無い」


 レイトさんは腰に差したアグナの宝剣を外し床に置いた。

 抵抗しないと言う彼の意思表示だ。


「そんな! レイト君が辛い思いしたのに死ぬ必要なんてないよ!」


 前に出ようとしたロリフィをセイナが止める。


「これは国の問題だ。どんな事情があろうと、彼は王殺しの大罪人だ」


「勝手にあなたたちが呼んでおいて、都合が悪くなったら殺すの!? ふざけるのもいい加減にして!!」


 ロリフィが実力行使に出ようとした瞬間、レイトさんが声を出した。


「ロリフィ……罪に罰なんだ。俺は罪を犯した。だから裁かれるそれだけだ」


「なんで……」


 ロリフィの顔が歪む。

 それとは対照的にレイトさんの表情は晴れ晴れとしていた。

 

 どうしてですか? どうして、そんな満足そうな顔できるんですか?


 ――今から殺されるのに


 声に出して聞きたいけれど、シエルがそれをさせない。


「シンジ。剣を貸して」


「待ってくれシエル。もう一度……」


「いいから貸しなさい。この男だけはあたしの手で裁く」


 シエルから放たれる威圧感。

 有無を言わせないその圧倒的な圧に、何を言っても無駄だと悟る。

 魔装具の形を変化させ、純白の刀を精製してシエルに渡した。


「ありがと」


 シエルはそう言って、一歩ずつレイトさんに近づいて行く。

 自らの運命を悟ったのか、レイトさんは両膝を床につき、顔を下に向けて目を閉じた。

 シエルが彼の前で足を止め、手に持った刀を振り上げる。


「黒の勇者としてではなく、レイト個人で答えなさい。姉様を愛していた?」


「ああ。狂おしいほど愛していた。もう一度会えるのならなんだってする。それに……」


「それに?」


「アリッサの居ない世界なんて、俺にはしんどい」


「同情はしない。あたしはあんたを絶対に許さない。今でもあたしはあんたのせいで姉様が死んだと思ってる」


 シエルが力強く言い切る。

 そして、刀を握る右手に力が入った。

 勇者の結末がこんな悲しくなるなんて、誰が想像したのだろうか。

 彼は殺される、アリッサ(最愛の人)の妹によって。


 シエルが刀を素早く振り降ろした。

 誰もがレイトさんに当たると思った刀は、彼の横をかすめ石畳に直撃した。

 キンとなった小高い金属音。そして静寂が流れ、誰もがシエルの言葉を待つ。

 新たな王となった彼女の言葉を。


「これからはアナタには、『黒の勇者』として生きてもらいます。もう『レイト』個人として生きることは無い。人並みの幸せも自由も、全てを勇者として王国に捧げてもらいます。これがあなたの犯した罪に対する罰です」


 力強く、冷酷に言い放つシエル。

 レイトさんはゆらりと立ち上がり、シエルを見下ろす。

 無表情だった彼の表情が少しだけ緩んだ。


 そして、片膝を床について、シエルに頭を下げた。


「仰せのままに、シエル様。この残り少ない命、王国の為に使うと誓います」


「働きに期待する。あと、勘違いしないで。あたしはあんたを絶対に許さない。だけど……姉様があんたを生かしたことに意味があると信じたいだけ」


 シエルはそう言って、レイトさんに背を向けた。

 そして僕の方へと歩いてくる。


「ありがと、シンジ」


 微笑みながら刀を返した彼女の顔は、先ほどまでの凛々しい王様ではなく、年相応の女の子の顔だった。


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