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旅立つ者には祝福を  作者:
本編
25/36

第24話 明かされる真実


 心地よい光が降り注ぐ緑の丘で彼女は踊っていた。

 踊る彼女の顔は、ぼやけてよく見えない。

 いくら目を凝らしても、笑っていること、髪が蒼い色であること以外何も分からない。


 シエル? 違う。直感でそう感じた。


 踊ることをやめた彼女の蒼い瞳が僕へと向けられる。

 あなたは誰だと聞きたいけれど、身体は金縛りにあったかのようにピクリとも動かない。

 顔の輪郭がぼやけた彼女が微笑み、口を動かした。


「私はあなたの中……そして、あの人の中に居ます。いつか会えるといいですね……妹を頼みます」


 クルッと周り背中を見せた美女。

 まるで女神のように神々しい彼女は光の粒子となって消えていった。

 天へと昇る光の粒子を見送り、目を閉じた。

 視界が黒く染まり、現実味のある感覚が身体に走り意識が覚醒する。


「生きてる……」


 ぼんやりと目を開けて、知らない木目の天井を見て呟いた。

 まだ回転の鈍い頭で意識を失う直前までのことを思い出す。

 右腕を失い、身体を貫かれ意識が途絶えた。

 

 右腕が切断されたことを思いだし、違和感に気が付く。

 いや、厳密には違和感がないことに気がついた。

 首だけを右に向けると、そこには右腕がちゃんとあり、いつも通りの感覚だった。


 なんで……? 確かに僕の右腕は切断されたはず……まさか、あれは夢だったのか?


「起きたんだ」


 女の子の声。

 身体を起こすと、闘技場で見かけた呪われた一族の少女が居た。

 燃えるような赤い瞳と腰まで伸びた赤い髪。

 薄い布で造られたチュニックが彼女のスタイルを際立たせている。


「ここは?」


「鬼火の森の中にあるアタシたちの村。怪我はレイト君が再生魔法で治してくれたんだよ」


 どうやら僕はレイトとこの少女に拉致されたらしい。

 それでもやはり疑問は消えない。

 僕を誘拐して怪我まで治したこと、シエルのお姉さんであるアリッサさんにしか使えないと言われていた再生魔法が使えること、色々な疑問が浮かんでは消える。


「あたしはロリフィ。君は?」


「シンジ……君には聞きたいことがあるのだけど」


「なぁに?」


 ロリフィと名乗る少女は僕が寝ていたベッドの脇に腰を下ろした。


「僕を攫ってどうするつもりだい? それに、レイト……黒の勇者はここにいるのかい?」


「どうするか決めるのは君でしょ。レイト君は君と話す機会を欲しかっただけだから」


 ますます意味が分からない。

 アリッサさんをその手で殺し、力をつけた英雄。

 そんな彼を僕は心の底から殺してやりたいと思った。

 だけど、今は命を救われたことに戸惑いを感じている。

 この憤りをどこにぶつければいいのかと……


「よう。気分はどうだ?」


 あの男の声が聞こえた。


「……悪くないです」


「ふーん。いきなり襲っては来ないんだな」


 ぶっきら棒に答えた僕に対し、彼はニッと笑みを浮かべ近づいてくる。

 ここで強襲すれば倒せるかとか、頭に浮かぶけど彼のあまりの警戒心の無さにやめることにした。

 まるで彼は僕を意に介していない。敵とすら思っていないように感じたからだ。


「一応、命は助けてもらっていますから」


「そうか。シンジって言うんだな」


「盗み聞きですか?」


「聞こえたんだ。悪く言うな」


 肩を竦めたレイトさんは、顎に手を当て考え事を始めた。

 そして答えが出たのか「ふむ」と言って、僕の方へ黒い瞳を向ける。


「ついて来い。お前には見せた方が早いのと、全てを話してやる」


 彼はそう言うと部屋を出て行った。

 まだ上手く動かない身体を引きずり、彼の後に付いて行く。ロリフィも一緒になり村を移動する。

 眠っていた部屋を抜け出し、建物の外へと出た。


 木造の小さな家が並ぶ小規模な村。

 日の高いまだお昼時の時間には、小さな子供が多くいる。

 もちろんすれ違う子供たちも大人たちも、みな瞳と髪が赤い。

 本当にここは呪われた一族の村らしい。


 そしてそんな村にもう一人、黒髪の男が現れたせいか、すれ違う村の人々全員に顔をジロジロ見られる。

 周りの視線に少しだけ居心地の悪さを感じていると、村の外れにある一本の木の前でレイトさんは足を止めた。


 木で造られた十字架が根本に刺さっており、横には鞘に入れた状態の剣が置かれている。

 誰かの墓だと雰囲気から察した。そして、誰が寝ているのかも。


「ここがアリッサの墓で、この剣が彼女を殺した『アグナの宝剣』だ。ストレニア王国に伝わる国宝の一つにして、最強の魔装具……呪われた剣さ」


 レイトさんはそう言って視線を墓に落とす。

 その顔は今にも崩れそうなほど暗く、後悔していることがハッキリと分かった。

 ますます分からない。それほど後悔するのなら何故彼女を殺したのか。


「シンジ……お前、シエルのこと好きか?」


 唐突な質問。

 適当に答えてはぐらかそうと思ったけど、彼の放つ雰囲気からそれが出来ないと察する。

 きっとこの質問はとても大切な質問で、今から僕が聞く話にも関係あるとそう思った。


「好きですよ。シエルはお姉さんに再会するとことが願いでした。その願いを叶えるために、僕は努力してきました。だけど……」


 僕はレイトさんを睨んだ。

 口に出して再確認した。

 僕はシエルが好きだ。それに嘘はない。

 だけど、だからこそお姉さんの命を奪ったレイトさんが許せなかった。


「そんなに睨まないで。レイト君だって、殺したくて殺したんじゃないよ?」


「そうだとしても、この人がアリッサさんの命を奪ったことに変わりはない。どうしてですか? それほどまでに辛い思いをするならなんでっ!」


 アリッサさんの墓を見つめる彼の顔は、悲痛とか痛みとかそんな言葉では表現できないほど暗く沈んでいる。

 この人はきっと10年間彼女を殺したことを後悔し、胸に刻んで生きてきた。

 それほどまでに重い十字架を背負うのならどうして……


「俺の弱さが招いた結果だ……だけど、あの時の俺たちにはそうするしかなかった。再び現れる異界人とシエルが納得いく未来を選ぶために」


 彼は顔を上げ、僕を真っ直ぐ見つめる。


「お前には全てを話す。そのあと、どうするかは自分で決めろ。何を信じるかもな」


 彼はそう言って、アリッサさんの墓の前に腰を下ろした。

 ロリフィもその横に腰を下ろし、話が長くなるような予感がする。

 当然か。10年前に起こった全てをこの人は知っている。

 結論を出すのは聞いてからでも遅くない。


 彼の正面に腰を下ろし、再び対峙する。

 そしてレイトさんは僕を見つめ、ゆっくりと口を開いた。


「お前はシエルに殺されるためだけに召喚された……そう言えば信じるか?」


 そう言った彼の顔は、まるで昔を思い出し悲しんでいるように思えた。

 そうして彼は全てを話してくれた。









 





 レイトは第二次人魔戦争を人間側に勝利で終わらせた。

 流れた血は多くあれど、戦いは収束し人々は元に戻った世界で明日を生きる決意を固めた。

 アリッサの時期王位継承が確実視される中、絶対にして最後の課題が国王イェノムより言い渡される。

 その課題をクリアしない限り、王位を継ぐことは出来ないのが習わしであった。


 ――黒の勇者を殺害し、その魔素を吸収する


 それがアリッサに言い渡された最後の課題だった。

 もちろんレイトに想いを寄せていたアリッサはこれを実行に移すことは出来ず、時間だけが流れていく。

 そして一週間たったある日、レイト殺害の協力を拒んだことによって当時の騎士団総隊長ガノ・ヨラザルは、イェノムとサラドルによって殺害された。


 その罪をレイトに擦り付けた二人は、『黒の勇者を捉える』という大義名分を得て騎士団の精鋭に追跡を命じる。

 真実を知ったアリッサはレイトと共に王都を脱出するが、途中でイェノムとサラドルに見つかり戦闘になる。

 

 イェノムの目的は異界人の魔素を吸収した王族の者を生み出し、魔物からの侵攻を恐れのないモノにするだった。

 人の魔素を喰らう時、『好意に比例して力は伸びる』。

 つまり、大切な人の魔素を喰らうことが、最も力をつけることになる。


 それを知っていたイェノムは召喚した異界人とアリッサを常に一緒に行動させ、想いが通い合った時に殺すという計画を立てた。

 しかし、アリッサはレイトと共に生きる未来を選択し、イェノムはそれを認めない。

 自分が幻の勇者の魔素を吸収し、人外の者になったことを知っているからだ。


 死闘の果てにアリッサは負傷し、鬼火の森の中で次第に弱っていった。

 冷たい雨に打たれながら、背後からは追いかけてきた騎士団の足音、彼女の命は風前の灯火だった。

 そんな彼女が最後に願ったのは、シエルが呼ぶであろう異界人とシエル自身が納得のいく未来を選べることだった。


 そして、来る時のため、レイトに力を残すため、彼女はレイトに殺されることを願う。

 これを受けたレイトはアリッサを殺し、その魔素を吸収して得た力で生き残った。

 



 それが10年前の雨の日の真実……


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