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旅立つ者には祝福を  作者:
本編
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第23話 動く世界


「まさか……こんな強硬手段に出るなんて……」


 ストレニア王国魔道学院校長であるネセリンが、武闘大会での事件に関する報告書を読み呟いた。

 黒の勇者による武闘大会の襲撃。しかも、勇者の再来と言われたシンジの拉致。

 この事に関しての責任追及を王国はギルドに求める気らしい。


 黒の勇者に襲撃されたとあって、ギルド側はこれに異議を申し立てるだろう。

 しかし、それを国王であるイェノム、騎士団総隊長であるサラドルも予想している。

 彼らが欲しいのは戦争をする大義名分。ギルドが保有する帝国側の技術全てを取り込むつもりだ。


(このままじゃ……シンジ君もシエル様も……)


 最近は騎士団の動きが慌ただしく、魔物領には最低限の兵を残しほとんどの兵を王都に集めた。

 イェノム王は本気で戦争をする気らしい。しかも、切り札はシエルと言う状況で。


 前日、セイナが地下牢へと幽閉された。

 理由は「命令違反」らしく、騎士団内での噂では総隊長であるサラドルに反抗したとか。

 おそらくシエルを戦争に参加させることに反対したのだろう。


「シエル様の意志とは思えないけど」


 ネセリンは立ち上がり、愛用の杖を手に取った。

 年季の入った木の杖の先には、緑色の魔法石がついており、手に取るのは10年ぶりだ。


(私の役目はなんだろう)


 元隊長であるネセリンの元へも徴兵の知らせが届いている。

 人対人の戦争はこの世界では長らく行われていない。

 もし起これば25年ぶりの戦争となる。勝っても負けても、王国は消耗してしまう。


 常に魔物との生存競争を繰り広げるこの世界にとって、それは出来るだけ避けたいことだった。

 60年前に起こった『第一次人魔戦争』、10年前に起こった『第二次人魔戦争』この両方を鎮圧したのは『勇者』と呼ばれる異界人の者たちだ。

 

 今では『幻の勇者』と『黒の勇者』と呼ばれる異界人たち。

 そして、謎の死を遂げた『幻の勇者』と王国に牙向き始めた『黒の勇者』。

 自分たちは魔物と戦争すれば、自力では解決できないくせに異界人に助けを求めてきた。


(もうそんなことは終わりにしないと)


 杖を握った右手に力を入れる。

 シエルはきっと精神的な操作が加わり、戦争に参加させられようとしている。

 以前王国が極秘裏にした魔法実験に関する報告書の中に、相手を思い通りに動かす魔法の実験に関する内容があった。


 他には人の魂を媒介にした魔物の製造。そして禁忌である、人の魔素を喰らう際の能力変換効率の『ある条件』も記載されていた。

 きっと『呪われた一族』を誘拐し、人体実験をして調べたのだろう。


 王国の闇と勇者たちと王族。

 全ては一つに繋がっていると、ネセリンは信じていた。

 だから真実を知りたい。その上で自分がどうするのか決める。


(私たちはきっと、10年前の亡霊を引きずっているんだ)


 総隊長と誰もが慕い、圧倒的な求心力を持っていた『爆炎のガノ』の突然の死。

 時期王座に就く予定だったアリッサと英雄レイトの逃亡。

 きっとそれらは切り離しにはできない。


 だからこそ、拘ってしまう。

 第二次人魔戦争(あの戦争)が終わった後、何がったのか、平和なはずの世界で血が流れた理由を。


 ネセリンは校長室の扉を開けた。

 真実を知る。黒の勇者(あの青年)に会うために。

















 鬼火の森の奥にある、とある洞窟内。

 湿った岩肌を足場に歩いて進んで先には、広大な大空洞とそこに広がる湖がある。

 天井の岩が崩れ、空まで繋がる大きな穴からは日の光が差し込み、水面がその光を反射しキラキラと輝いていた。


 レイトはそんな場所に住む、一体の魔物を訪れていた。


「迎えに来てくれて助かったよ」


「安い御用だ」


 低音で威厳と深みのある声。

 声の主の身体は、力強い四本の手足に剣を全く通さないであろう固く蒼い鱗。

 ひとたび動けば大地を抉る羽は、今は小さく閉じてある。

 鬼火の森にすむ、蒼いドラゴン。レイトは勝手に蒼龍と呼んでいた。


 10年前の戦争折、レイトと当時ネセリンが隊長を務めていた五番隊が、総力戦の末に撃破した魔物に閉じ込められていた蒼龍は、助けてもらったことに感謝し、レイトによく力を貸してくれる。

 今では『呪われた一族』の村を守る守護者として、レイトやアリッサ共に行動を共にしていた。

 

「蒼龍が居てくれると、帰りが楽だから助かる」


「フン。貴様と同じ者を迎えに行くとなれば、興味があるのは当然だ」


「まだ意識は戻ってないんだけどな」


 鬼火の森まで連れ去ったシンジはまだ眠っている。

 どうやら血を流しすぎて、回復にはもうしばらくかかるようだ。


「貴様が腕を飛ばしたからではないか?」


「仕方ないだろ。あのブレスレットが枷だったんだから」


 レイトは肩を竦めた。

 勇者の再来と言われたシンジの右手首についていた金色のブレスレット。

 どうやらあれは、彼自身が持つポテンシャルを押さえつけるものだったらしい。


 シンジと一緒に持って帰り、魔力で調べてみると最近は彼の力が増大していたこともあり、押さえつけるのは限界に達していた。

 核となる魔石が砕ける寸前だったから間違いない。



「まぁ、そんな抑えられた状態で戦ってたんだから、あの少年のポテンシャルは恐ろしいよ」


「貴様がそれ程言うとはな」


「隊長格とほぼ互角だったんだから、今戦えば少年が間違いなく圧倒する」


 武闘大会での戦い。隊長格であるヌーイとほぼ互角に戦うあの戦闘能力。

 枷は破壊した。シンジが意識を失う直前には大きな魔力の増大を感じた。

 それは意識を失い眠っている今も増大し続けている。


 枷は外れ、蓋は空いた。『覚醒』はほぼ完了している。それは間違いない。

 あとはシンジが覚醒した固有魔法の使い方を学ぶだけである。


「異界人の血は変わらず強大だな」


「そりゃ、固有魔法の発現条件だからな」


 その者唯一にして、誰も真似することの出来ない固有魔法。

 その発現条件は『異界人の血』をその身に宿すことである。

 

 異界から来たレイトとシンジはともかく、この世界に生まれたアリッサが固有魔法を発言した理由。

 それは彼女が初代勇者である『幻の勇者』の血を継いでいるからだ。

 そしてそれは妹のシエルも同じである。


 イェノムは異界人の血を継いでいない。それだけは知っている。

 だから、血縁者は彼女たちの母親と言うことになる。

 王族と異界人の両方を継ぐ存在。その最後の生存者がシエルであり、王国の計画を遂行するために必要だった。


「その少年は貴様と同じ領域まで辿り着くのか?」


「そうなったら、王族が途絶えるよ」


「異界の者の魔素を喰らい。交わることの無い魔力をその身に宿す貴様は……」


「それ以上は大丈夫。自分の身体だ。よく分かってる」


 アリッサの魔素を吸収し、力をつけた。

 異界人と王族の混合種。レイトはその存在に限りなく近い。

 ただし、人の魔素を吸収し力をつけたのはレイトだけではない。


 国王イェノム。彼は幻の勇者の魔素を喰らい力をつけた。

 10年前、その強大な力の前にレイトは彼を倒すことに失敗し、結果的にアリッサを死なせることとなった。

 だからこうして鬼火の森で反撃の機会を待つことにした。


 アリッサとの約束である『異界人とシエルが納得のいく選択をする』、そこまでが約束で、その後どうするかは決まっている。

 シンジには隠さす全て話す。10年前の真実、魔素を喰らった者がどうなるのか。

 信じるかどうかは彼次第だ。その後、シエルとどういった結末を迎えるのかは、二人に任せるつもりだ。


「まぁ楽しみにしといてよ。その内、ここにも連れ来るからさ」


 レイトは踵を返し、蒼龍に背を向けた。


「残り少ないその命……復讐に使う気か?」


 蒼龍の問いにレイトは右腕を上げ、背中を向けたまま答える。


(すじ)を通さず生きたくないだけだよ」


 国王イェノムを殺す。

 アリッサが死んだ理由を作った男への復讐心。

 そんなことをしてもアリッサは帰って来ない。そんなことは分かっている。


 しかし、理屈ではなく心が彼を許さない。

 彼女が死んだのに、ノウノウとイェノムが生きていることに。


(やっとだ……やっと……)


 異界人の少年に全てを伝え終われば、残すはイェノムを殺すだけである。

 ようやく自身の悲願が達成される。そう思うとレイトの身体の底から歓喜の震えが沸き上がった。

 口端を吊り上げ、歓喜するその姿は人々を救う『勇者』ではなく、恐怖で人を染める『魔王』そのものだった。


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