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旅立つ者には祝福を  作者:
本編
21/36

第20話 触れる運命の糸


 右腕の感覚がない。

 当然だ。今の僕の右腕は肘から先が無い。

 吹き出した血が地面に赤い池をつくっている。


 片膝をつき、朦朧とする意識の中で深呼吸。

 顔を上げると、ボヤけた視界の中に黒髪の男がいた。

 男は黒髪を揺らし、僕を見下ろしている。

 僕を見下ろすその黒目は、驚くほど冷たい。


 ――勇者と呼ばれた男とは思えないほどに


「どうした終わりか?」


 言葉を発した男を睨み返す。

 生まれて初めて心の底から『殺してやりたい』と思った男の顔は、同い年と間違うほど若い顔立ちだった。

 10年経っているはずなのに、歳をとったとは思えない。


「僕はあなたを……絶対に許さない……!!」


「許す必要はない。お前は黙って俺についてくればいい」


 憎い、ただこの男が憎い。

 黒い感情が心の底から溢れて身体を支配する。

 身体も思考も、全てが黒い感情に染まった時、頭の中で声がした。


 ――殺したい?


 殺したい。全てを捨てたとしても……黒の勇者(この男)だけは必ず!!


 ――なら、君の力を使うといい。本当の力を……


 僕の中で何かが弾けた。身体中から力が溢れ、目の前の男に焦点を合わせた時だった。

 黒く細い一筋の流星が、僕の身体を貫いた。




 時は二人の異界人が再開する少し前に遡る。








 武闘大会の開催会場である闘技場(コロシアム)

 作りは円筒形で、周囲を石壁に囲まれ、その石壁には無数の傷が刻まれている。

剥き出しの地面には、抉れた場所もあれば回収されずに残っている壊れた武具が転がっていたりする。

 

 広さは直径で二百メートルくらいはあるのではないだろうか。

 相当広く感じる。映画などでよく見るコロシアムを彷彿とさせる作りだ。


「すごい熱気だね」


 控室から顔を出し、熱狂する観客たちを見てそう思った。

 それでも娯楽の少ないこの世界で、これだけの人が一つの娯楽に集中できるのは世界が平和な証だそうだ。


「呑気なこと言ってると、大怪我するわよ」


 王女様の注意。振り返ると、いつもとは違う服装のシエルが居た。

 蒼い髪と瞳によく似合う白のドレス。

 ロングトルソーと呼ばれる種類のドレスらしく、美しいくびれを際立たせ、凛とした雰囲気を前面に押し出すデザイン。

 とてもよく似合ってる。素直にそう思った。


「恥ずかしいからジロジロ見ないでっ」


「よく、似合ってるなぁって、思っただけだよ」


 シエルは「うまいこと言いやがって」と呟きそっぽを向いた。

 一応シエルは、ギルド側としてはストレニア王国の王女様で、重要な客人だ。

 今日もコロシアムの上段に用意された観覧席で試合を観戦するらしい。


 着ているドレスも用意されたものだが、最初は着るのも拒んでいた。

 本人曰く、外でドレスを着るのは恥ずかしく、動きにくいから嫌とのこと。

 しかし、セイナやミフアさんの説得で、渋々着ることを承諾。

 僕が「折角だから着てみなよ」とミフアさんに言わされたことは、関係ないと思う。


「だけど、流石にその姿だと注目集めるね」


「うぅ~、だからドレスなんて嫌なのっ」


 控室には試合を控えた人たちで溢れている。

 次は僕の番だから、今いる会場の一番近い所は外に面しているので比較的涼しい。

 そんな人たちの中にドレスを着た美少女が居るとなれば、男たちの視線を集めてしまう。

 シエルは関係者専用の通路を使って移動するだろうから、変な輩に絡まれる心配はないだろう。

 だけどやっぱり少しだけ心配だ。


「シエル。真っ直ぐ観覧席まで行かないとダメだよ?」


「あたしは子供か。それくらい大丈夫よ。あんたは自分の心配をしてなさい」


 シエルが控室の外、僕が戦うコロシアムの中心へと目を向ける。

 そこには僕より先に入場した閃光のヌーイの姿があった。


 今年で32歳になると聞いたけど、童顔でまだ20代半ばに見える顔立ち。

 肩まで伸びた輝く金髪、腰には二本の剣がぶら下げてある。

 本当は潰れた鉄の剣で戦うはずが、何故かこの一戦のみ僕とヌーイさんには魔装具の使用許可が下りた。


 本気を出せるのはありがたいけど、大怪我しないか心配だ。

 裏で誰かの操作があるように思えたけど、郷に入っては郷に従えと言うことで大人しくしていた。

 それに僕の魔装具は『進化する魔装具』だ。もしかすると、試合中に進化することだってありえる。

 さらなる高みを目指すためにも、魔装具の使用許可は前向きにとらえていた。


 コロシアムに取り付けられたスピーカー型の魔具から、ヌーイさんの紹介がされる。

 元騎士団の隊長にして、現役のAランク冒険者。その速さから『閃光』と呼ばれること。

 唯一にして、二刀一対の魔装具使い。


 聞くだけ強そうだ。セイナを負かすくらいの腕なんだから、当然と言えば当然か。


 ヌーイさんの紹介が終わると僕が入場する段取りとなっている。

 彼の紹介が終わり、僕の番がくる。


「じゃあ、行ってくるよ」


「怪我、気をつけてね」


「ああ。分かってる」


 短いやりとり。

 でも、僕らにそれ以上の言葉は要らなかった。



















「出てきたな……」


 コロシアムの観覧席。

 ロリフィと二人で並んで座るレイトが呟いた。

 ヌーイの後に出てきた少年の紹介がコロシアム全体へ向けてされる。


 ストレニア王国の王女。蒼い女神の実妹であり、『蒼い聖女』と呼ばれるシエルが召喚したこと。

 ベルソスとの模擬戦でその力を示し、『勇者の再来』と呼ばれている少年。


(シエルって、『蒼い聖女』って呼ばれているのか)


 アリッサが居なくなった今、シエルは王の血を引く最後の生き残りだ。

 誰かが裏でそう呼び、広まったらしい。


「うわぁ。ホントにレイト君と同じ髪の色だね」


 灰色のフードを被ったロリフィが驚いた声を上げる。


「やっぱり、彼が新しい異界人のようだな」


 黒髪の姿で中性的な顔立ちは、優しそうな印象を与える。

 実際にどんな性格かは、後で知るとして、レイトには気になることがあった。


(ヌーイの持っているのは魔装具だよな……ってことは、あの少年の持っている刀も魔装具か……)


 コロシアムの戦闘は基本的に用意された武器を使う。

 今まで見ていた試合もそうだった。なのに今から戦おうとする二人は両者とも魔装具を持っている。

 下手すれば相手を殺すかもしれない、魔装具をだ。


「おいおい。殺し合いでも始める気か?」


「どうする? 乱入する?」


 ロリフィの質問にレイトは腕を組み考える。

 あの異界人の少年が殺されるのは非常に困る。

 一度、自分と話をしてもらうまで死なれる訳にはいかない。


 かと言って、今の状態でコロシアムに乱入すれば、無駄な労力を使うことになる。

 一応自分は罪人だと、ギルドの一部では知れ渡っているだろう。顔が割れれば、この会場に居る冒険者を全員相手にする必要があるかもしれない。


 なにより、鬼人のベルソスと戦うことだけは避けたかった。

 今のレイトなら本気を出せば負けることは無い。

 しかし、『力』の消耗は出来るだけ抑えたいと言うのが本音だった。


(それに、最大の焦点は彼が『固有魔法』を覚醒しているかどうかだ)


 使用者の唯一無二の魔法である固有魔法。

 レイトはその発現条件を知っていた。

 そして、あの異界人の少年もそれを満たしている。

 

 万が一『覚醒』していた場合、王国の『計画』は思っているよりも早く進んでいることになる。

 その場合、この場であの少年を拘束する必要があった。

 少なくとも、王都へ帰るよりも早く、彼の身柄を抑える必要が。


「とりあえず様子見だな。まだ『覚醒』していないかもしれない。勇者の再来と言われる彼の実力を見せてもらおう」


「してた場合はさっき話したけど、してなかったら?」


「この場で『覚醒』させる。どの道、あの少年には必要な力だ」


「りょーかい」


 ロリフィは身を乗り出し、試合の様子に集中するようだ。

 もうすぐ試合が始まる緊張感、その独特の雰囲気が支配する会場。

 観客の視線は向かい合う金と黒の二人に注がれていた。


 ただ、レイトには一つだけ懸念材料があった。

 誰でもコロシアムの中央に注目する中、レイトは周りを見渡す。

 そして、見つけた。


(やっぱり……居るよなぁ……)


 最上階にガラス張りで設置された観覧席。

 その中にドレス姿の王女の姿を見つけた。

 10年の月日は彼女を、姉のアリッサに負けず劣らずの美人へと成長させたようだ。


 綺麗になったという感想は置いておいて、レイトが懸念しているのはシエルが固有魔法を『覚醒』していた場合だ。

 向こうがこっちを殺すつもりで来れば厄介だ。

 レイトにとって、シエルにも死なれたら困る以上、本気で相手にすることは出来ない。


 『力』の消耗は激しくなる一方だ。


(全く……厄介だよ。『異界人の血縁者』であるシエル(お前)まで居ると)


 心でそう呟き、レイトは開始の合図ともに試合に視線を戻した。


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