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旅立つ者には祝福を  作者:
本編
20/36

第19話 少年と少女

 木目の見慣れない天井。

 背中から伝わる感触に自分がベッドで、横になっていることは想像できる。

 身体を起こすと節々から痛みの信号が送られた。


「っ」


 そうだ。僕はベルソスさんと戦って吹っ飛ばされたんだ。

 訓練を積んで、少しだけ自信もついたけど、英雄と呼ばれる男はやっぱり規格外だった。


「ん……」


 ベッドの脇から小さな声。

 視線を下に向けると、ベッドに伏せて無防備なシエル(王女様)の姿。

 もしかして、僕の怪我が治るまで付きっきりで診てくれていたのだろうか。


「シエル。こんな所で寝てたら風邪ひくよ」


 彼女の肩を揺すると、眠そうな半目を擦り身体を起こした。

 疲労が溜まっているように見える。医療魔法を使ったのであれば当然か。

 あの魔法は強力で便利な分、使用者にかかる負担が大きい。

 そしてシエルは、それを無視して乱発する性格だ。

 人のこと言えた義理じゃないけど、頑張り過ぎる彼女に対する心配は尽きない。


「怪我は!?」


 僕の顔を見て、思い出したかのようにシエルは聞いて来た。

 吐息がかかるほど顔をグッと近づけ、僕の目を真っ直ぐ見つめて来る。

 吸い込まれそうになるほど、澄んだ蒼い瞳で。


「だ、大丈夫だよ。あと近い……」


「ご、ごめんっ」


 バッと離れたシエルは顔を伏せた。

 耳まで赤くする彼女を見ていると、ついついからかいたくなる。


「シエル、耳真っ赤」


「う、うるさい! あんたが勝手にケンカして心配したんだから! 戦うならちゃんと無事に帰って来なさいよ!」


「ごめん、ごめん。勢いで……ね」


 ホントは君を守るために勢いで飛び出した……なんて言えるわけもなく。

 ベルソスさんの殺気にシエルが襲われると勘違いしたなんて、恥ずかしすぎて知られるとマズい。

 キモイとか言われて、距離を置かれそうだ。


「あんたが居なくなったら……」


 最後の方がボソボソと小声になって、何も聞こえない。


「居なくなったら?」


「調子に乗らないで! あんたみたいな世話のかかる奴が居なくなったら、楽になるって思っただけ!」


「ひどいよ!」


「ひどくない! あたしのファーストキス奪っておいて……」


 シエルがそこまで言って、両手で口を覆った。

 シエルのファーストキスを僕が奪った? 

 何の話だ?


 耳まで赤くして、口元を両手で覆い、上目遣いでこちらの様子を伺う彼女の仕草にグッとくるけど、今はそれどころではない。

 僕の記憶がないと言うのが一番の問題だ。


 記憶がない間に僕がシエルに強引に迫った?

 ありえないし、思い当たる節がない。

 気が付くとシエルが居た場面……あ、思い出した。


「もしかして、ロスさんが来た時、シエルが部屋に居たのって……」


 ロスブルクさんが王都へ訪問に来た時、目を覚ますとシエルが顔を真っ赤にしてベッドの脇に居た。

 そして、ドアの所でセイナが両手を床についていた。

 まさか……あのときか!?


「無防備なあんたが悪い! 責任取りなさいよ!」


「僕のセリフだ! 年頃の女の子が人の部屋で何やってるんだ!?」


「仕方ないじゃない! 間抜けな顔で幸せそうな顔で眠って、あたしの気も知らないで!」


「間抜けって……僕が誰のために、必死こいてやっていると思ってるんだ!? シエルこそ僕の気も知らないで勝手言うなよ!」


「うるさい、うるさい! 今回だって無理やって、大怪我して……ホントに心配……うっ、ひっく……で……」


 突然泣き始めたシエル。

 言い過ぎた……

 

 女子を泣かしてしまった経験が皆無の僕の頭の中はもう真っ白。

 ど、どうしよう!? こんなの想定外すぎる!


 一人でテンパる僕に対し、シエルは震える声で続ける。


「もしかすると、あんたが居なくなったらって思うと……怖くて、怖くて……もう嫌……誰かが居なくなるのは……だから……」


 そうか。シエルにとって、お姉さんの失脚はトラウマになっているのか。

 セイナから聞いたことだけど、シエルの母親は彼女を生んだその日に亡くなったそうだ。

 彼女にとって、親しい人はいつも自分の傍から居なくなってしまう。

 だから、他人が傷つくことを極端に恐れ、医療魔法を乱発する。

 

 シエルがいつも無理をする理由がなんとなく分かった。

 そんなに僕って信用できないかな? 

 必死に訓練しているんだし、そろそろ信用して欲しい。


「シエル。大丈夫だよ。僕は何処まで一緒だ。王位継承を果たし、お姉さんと再会するその日までね」


「姉様と再会したら、シンジは居なくなるの……?」


 まるで小動物のような雰囲気。

 この可愛い生き物は何だと叫びたくなる。

 キャラが崩壊してるぞ王女様。


「シエルが必要としてくれるのなら、僕はずっと傍に居る」


「じゃあ……居ないと怒るぅ……」


「はいはい。かしこまりました」


 手で涙を拭うシエルの頭をポンポンと手で叩くと、我に返ったのかハッと顔を上げた。


「あ、あたし。今までなんて言った?」


「え……? 居なくなったら困る的な……」


「うわぁぁあ! 忘れなさい! 今までの話は忘れなさい!!」


 顔を真っ赤にしてシエルがポコポコと叩いてくる。

 どうやら、テンパっていたのは僕だけじゃないらしい。


「分かった! 分かったから! 叩くのやめて!」


「うぅぅ……誰かに言ったら殺すわよ!」


「王女がそんな物騒な言葉使うなよ……」


 口喧嘩を続ける僕らの耳に突然入って来たのは、ドアをノックする音。

 ドアノブが動き、ドアを開けて入って来たのはミフアさんだった。


「あんたたち、廊下に声漏れてるよ」


 そう言われて、二人で肩を落とす。

 恥ずかしい……まさか、羞恥プレイをこんな場所ですることになるとは。


「シンジ。身体はもう大丈夫かい?」


「はい。シエルのおかげで」


 僕の言葉にミフアさんはニコッと笑み浮かべた。


「そりゃ、三日も寝てりゃ治るか」


「僕、そんなに寝てたんですか!?」


「そ、そうよ! この寝坊助(ねぼすけ)!」


 シエルが大声を出したせいで、耳の中でキーンと音が反響する。


「見せたかったよ~、健気にあんたを診るシエルの姿♪」


「ああああ!! 余計なこと言わないでぇぇ!!」


 シエルは口を塞ごうとミフアさんに体当たりを繰り出すが、ヒョイっ呆気なく避けられる。

 小さく下を出してシエルを挑発するその姿は、悪戯が大好きな子供そのものだった。


「いやぁ、シエルも恋する年頃になったと思うと、感慨深いねぇ」


「どいつもこいつも……」


 シエルの歯ぎしりが聞こえる。

 ここは何も言わないでおこう。命が惜しい。


「そうだ。シンジ! 明日の武闘大会、初戦の相手はヌーイだから頑張りなよ!」


 そうか、三日も寝ていたから武闘大会は明日なのか。

 初戦が閃光のヌーイって、運が無さすぎる。


 いきなり相手が優勝候補筆頭と聞いて、気分が少し沈む。


「ミフア! いきなりヌーイなんて無理よ! シンジを潰す気!?」


「決まったことは仕方ないだろ。それともあれかい? 愛しの彼が心配……とか?」


「ぶっ飛ばす!」


 そんな挑発に乗ったらミフアさんの思うつぼだよ。

 ミフアさんにからかわれるシエルにため息。


「シエル。どの道、優勝を目指すんだ。どこで誰と当たっても一緒だろ?」


「弱いあんたが勝てるとでも?」


「ヒドイな。王都ではあれほど『優勝する!』って鼻息荒かったのに」


「あんたこそ、王都の時は『優勝なんて無理だよ……』とか言ってたのに、随分な自信ね」


 自信なんて今もない。

 ただ僕は、ここまで来てしまったから腹を括っただけだ。

 優勝はできればしたい。難しいことは分かっているけど。


「じゃあ。頑張りなよ。あたしはシンジを応援するからね♪」


 ミフアさんを笑顔で言うと、部屋の扉まで移動し、「あとは二人でごゆっくり~」と言い残して部屋から出て行った。

 まるで、嵐のような人だな。


「シンジ! ミフアの言ってたことなんて、気にしないで!」


「分かってるよ」


 気にしてつついたら、今の機嫌の悪い彼女ならホントにキレるかもしれない。

 それだけは避けたいと思う。


「そうだ。大会が終わったら遊びに行く約束してたし、ラムザでブラブラしようか」


「お、覚えたんだ……」


 小声でシエルが呟く。

 僕が彼女との約束を忘れるわけがない。


「もちろん。無事だったらだけどね」


「ホント。たまには怪我なく帰って来なさいよ」


 シエルが腕を組んで、呆れ気味に言う。

 確かにと自分でもそう思う。

 セイナにぶっ飛ばされ、魔物討伐では足を負傷し、ベルソスさんにもぶっ飛ばされた。


 だけど、その度にシエルが治してくれて、いつも怒られる。

 ここまでが一つのセットなのかもしれない。


「怪我がないことは保証できないけど、絶対に帰って来るよ」


「約束……だからね」


「うん。約束だ」


 笑顔で答えたのに、シエルにはプイッと顔を逸らされる。

 そんな態度を取られて、苦笑い。

 いつになったら、シエルは僕のことを認めてくれるのだろうか。

 出来るだけ早くがいいな。ふと頭にそう過った。









 この時、僕はずっとシエルと一緒だと思っていた。

 武闘大会で優勝できなくても、シエルに小言を言われながら、街に繰り出すと勝手に想像していた。

 この世界でシエルが傍に居ないなんて、イメージできなかった。

 

 だけど、この日を境に僕らの運命は少しずつ狂い始める。


 僕とシエルがお互いに武器を向け合うなんて、殺しあうことになるなんて……この時の僕には分からなかったんだ。


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