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旅立つ者には祝福を  作者:
本編
18/36

第17話 立ちはだかるは最強の男

 

 ミフアさんとロスブルクさんに挨拶を終えた僕たち三人は、ギルド最高責任者、別名『ギルドマスター』と呼ばれる男の待つ部屋の前で立ちすくんでいた。

 ギルドマスターの娘であるミフアさんには、「パパは楽しみにしてたから大丈夫」と言われ、部屋の場所だけ教えて、仕事に戻ってしまった。


 こっちには王女のシエルがいるとはいえ、向こうはギルドの最高責任者だ。

 万が一粗相があった場合、色々と国際問題的な何かならないかと不安になる。


「この中に鬼人が……」


 シエルがボソッと呟く。

 いつのなら勢いよく扉を開けるシエルも、さすがに緊張しているらしい。

 セイナもさっきから深呼吸を繰り返し、情緒不安定だ。


 そんな彼女たちの姿を見て、僕の手が小刻みに震える。

 落ち着け、普通にしていれば何も問題ない……はず。


「シエル。緊張するね」


「は、はぁ? ヘタレのあんたと一緒にしないでっ。こ、このあたしが緊張するわけがないでしょう?」


 ちなみにシエルは鬼人と呼ばれるギルドマスターと会うのは始めてらしい。

 ギルドの役員で会うのは、王都へとよく訪れるミフアだけで、こうして自らギルドに訪れるのは初めてとのこと。

 セイナは武闘大会に出場したことがあり、父がライバル関係だったこともあって、何度か絡まれ事があるとか。


「シ、シエル様、落ち着いて、く、下さいっ」


 二人とも落ち着けと、格好良く言いたいが、当然ながら僕にもそんな余裕はない。


「ええい! 腹を括りなさい! 行くわよ!」


 意を決したシエルがドアを二回ノックした。

 中から「入れ」と深みのある低い声。


「「「失礼します」」」


 三人の声が見事にハモった。

 シエルを先頭に僕、セイナと続いて部屋へと入る。


「よく来たな」


 まるで学校の校長室だなと、部屋の雰囲気を察した瞬間、視線は机につく男に奪われた。

 坊主頭で左目には縦に切り傷があり、纏う雰囲気はまるで戦場帰りの傭兵のようにピリピリしている。

 この人が……四英雄の一人にして、鬼人のベルソス。


 ギロッとこちらを睨む姿に、呼吸が浅くなる。

 本能が危険だと警告と鳴らす。

 何故か、目の前の男は僕たちに向けて、殺気を振りまいていた。

 前に立つシエルは肩を上下に動かしている、彼女もベルソスが振りまくプレッシャーに押し潰されそうだ。


 やるしかないっ


 腰から刀を抜き、シエルの腕を掴んで強引に引っ張る。

 彼女の前に立ち、刀を正面に構えた。

 乱れた息を整えるために、深呼吸を繰り返し、ジッと『鬼人』を見つめる。


「ほう。オレに剣を向けるのか?」


「目の前に殺気を振りまく人が居れば当然でしょう」


 刀を握った右手に力を入れる。

 後ろで、シエルとセイナが「やめろ」と言っているけど、僕の全神経、五感は目の前に男に注がれていて、反応する余裕はない。


「貴様が新しい勇者か……腕を見せてもらうには丁度いいかもな……」


 ベルソスがゆらりと立ち上がる。


「ベルソス様! 我々はそんなつもりはありません!」


「俺個人が勇者の腕を見たいと言っているだけだ。そっちに落ち度はないから安心しろ」


 セイナの言葉にそう言い返し、鬼人の視線が僕の身体を貫く。

 心臓の音が耳に響いて、うるさく感じるほど鼓動が早い。

 雰囲気に飲まれたと言えばそれまでだけど、そう言いたくなるほど今の僕は男の一挙一動にくぎ付けだ。


「シンジ、剣を納めなさい! 戦えば無事で済むわけが……」


 シエルが言い切るよりも早く、ベルソスが動いた。

 来る。そう予感した時には、すでに彼は僕の懐に潜りこみ、胸倉を掴んでいた。

 丸太のように太い腕に掴まれ、窓の方へと投げられる。

 背中から窓ガラスを割ると、そのまま地面へと落下していく。


 いきなりかよっ


 ギルドマスターの手荒な歓迎に心の中で舌打ち。

 そして、下を見る。


 三階から落とされたとあって、高さはかなりのものだ。

 地面に直撃すれば、無事ではすまない。


 腰につけたポーチから札を一枚手に取り、地面に向かって投げた。


「守り羽!」


 以前の魔物討伐任務の時、地下に落下した時と同じ要領で障壁を地面の上に張り、その上に魔力で強化した足で着地する。

 ミシミシと障壁が音を立てるが、前回よりも高さがマシなこともあって、衝撃をすべて吸収してくれた。


「変わった魔法を使うんだな」


 頭上から声。

 見上げると、鬼人のベルソスが僕の割った窓から飛び降りてきた。

 ドシンと音を立てて、着地した彼の右手には大槌が握られている。

 どうやら、あれがSランクの魔装具らしい。


「ただの手品ですよ」


「貴様の固有魔法か?」


「使えたら嬉しいんですけどね」


 刀を正面に構え、ベルソスと対峙する。

 なんでこんな事になったのか、一瞬そんな考えが過ったけれど、考える事をすぐにやめる。

 相手の魔装具に魔力が注がれていったからだ。


 この人は本気で僕の腕を試す気らしい。

 相手の殺気にあてられて、武器を勢いで取り出してしまったとはいえ、これはいい機会かもしれない。

 相手は間違いなく、最強クラスの男できっと『黒の勇者』も同レベルだろう。

 今の僕がどれくらいの場所に居るのか、『勇者』からの距離を測るには絶好の機会だと勝手に考えた。


「その右腕のブレスレットはなんだ?」


 ベルソスの問いに、右腕に視線を向ける。

 金色に装飾されたブレスレット、この世界に来て初めてもらった魔具にして、僕の体術系の魔法を支える要。

 これが無かったら、僕は間違いなくもっと早く死んでいた。


「魔法を使いやすくする魔具ですよ。あなたには関係ないでしょうけど」


「魔法補助の魔具……まぁいい……行くぞ!」


 ベルソスが右手に持った大槌で地面を強く叩く。

 叩かれた付近の地面が隆起して、まるで生き物のように伸びて来る。

 目に魔力を集めて、動体視力を強化、足に魔力を溜めて地面を蹴った。


「いいスピードだ!」


 嬉しそうな声をあげたベルソスが大槌を振って、隆起した地面を僕へと向ける。

 左右から僕を押し潰そうと迫る土の塊を、ジャンプして避けた。

 

 空中では身動きを取れない僕の四方を土の塊が囲む。

 このままじゃ、押し潰されて終わる。

 死ぬことだけは避けるために、ポーチから数枚札を取り出し四方に投げる。


「守り羽、密集硬化形態!」


 札同士の障壁が繋がり、僕の周りを球となって囲い込む。

 四方から迫った土の塊が障壁にぶつかり、バチバチと音を立てた。

 何とか防ぐことが出来たけど、やはりベルソスが操作している土の物量は凄まじく、このままでは押し切られてしまう。


「させるか!」


 魔装具の刀に魔力を流すと、刀身が蒼白く輝きを発揮する。

 僕の周りを囲む土にも、当然ながら魔力が込められている。

 その魔力を吸い上げ、刀身に纏わせるのが、僕の魔装具の能力だ。

 Sランクの魔装具を使って、込められた魔力量は凄まじい、刀身の輝きを見てそう思った。


 魔力を奪われた土の塊は、普通の土へと変り果て地面へと落ちる。

 これで僕の周りを囲んでいた土は無くなった。

 障壁を展開したまま地面に着地し、ベルソスと再び向かい合う。


「貴様何をした?」


「手品だよ! 縛り羽!」


 障壁となって発動していた札たちが、一斉にベルソスの方へと飛んでいく。

 それ見た彼は横にローリングして回避した。身動きを抑えることには失敗した、だけど、今の彼は一瞬だけ僕から視線を外した状態である。


 ここで、キメる!


 魔装具の刀に魔力を纏わせたことで、飛躍的に上昇した身体能力。

 それを全力で発揮し、滾る力を足に乗せて地面を蹴る。

 一歩でベルソスとの距離を詰めて、刀を振り降ろす。


 彼はようやく僕に気が付いたが、魔装具による防御は間に合わない。

 回避した直後で体勢も崩れており、再び回避することは難しいだろう。

 

 もらった!


 そう思った直後、僕の振り降ろした刀は彼の左手に止められた。

 バ、バカな!? 切れ味が数段増した今の状態を素手で止められるはずが……


「甘いな、小僧……この程度でオレに一太刀浴びせようなんてな!」


 ベルソスが右手に持った大槌が僕を襲う。

 あまりの速さに回避も防御も間に合わず、大槌は僕の腹部にめり込んだ。


「ぐふ!」


 メキメキと骨が折れる音、逆流した血が口から溢れ、吹き飛ばされる。

 長い浮遊感の後、地面に叩きつけられ何度も転がる。そして追い討ちをかけるように、ギルドの建物の壁にぶつかった。

 朦朧とする意識の中で、必死に目を開けるとベルソスがゆっくりとこちらに近づいてくる。


 来るぞ……迎撃しないと……殺される……


 必死に立ち上がろうとするが、ダメージを負いすぎた身体に動くパーツが一つもない。

 たった一撃で沈められたことに驚愕。最強の男の一撃はこれほど重いのかと。


「センスは悪くねぇ。だけど、勇者と呼ぶにはまだ早いな」


 僕を見下ろすベルソスの一言。

 勇者とはなんて遠くて、気高い称号なのだろうか、一人で勝手にそんなことを思い、僕の意識は途絶えた。


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