第16話 ギルドの者たち
ギルド本部がある街『ラムザ』。別名を『商業都市』とも言われるこの街には、近くの鉱山で良質な鉱石が採れる地域があり、さらにエルフの里も近くにあると言うことで、様々な品や亜人たちが街にはいる。
魔物領より北に位置する場所は、東のストレニア王国、西の帝国に挟まれた場所で、古くから中立地帯として戦火に巻き込まれることが多かったとか。
しかし、ギルドの設立や昔からの商業都市としての機能のおかげで、王都・帝都に並ぶ大都市として、この世界では認知されている。
そんな大都市で開催される武闘大会。
開催前の街には人が溢れ、活気に満ちている。
大通りを行きかう人を見て、勝手にそう思った。
「凄い人だね」
「武闘大会開催前はこんなもんだと思うわ」
灰色のフードをかぶったシエルは手に持った地図を見る。
しばらく睨めっこして、眉間にしわを寄せた。
どうやら、シエルは地図が分からないらしい。
さっきから「僕が見ようか?」と言っても、「あたしができる!」と返され、聞く耳を持ってくれない。
横に居るセイナも紺色の外套とフードを被り、僕の黒の外套も合わせると、フードを被った怪しい三人組が立ち往生しているようにしか見えない。
ラムザへの派遣は何故か、僕とシエル、それにセイナの三人だけとなった。
王女様に対して、護衛が少なすぎないかと思ったけど、シエルの父にして国王であるイェノム様に「お前たち二人なら十分だろう」と言われれば仕方がない。
ちゃんと護衛できるのか不安だけど、自分の役割をしっかりとこなそう。
それにラムザに居る間は、ギルド本部の人が面倒を見てくれるらしく、その辺の連絡は伝わっているそうだ。
そのため、まずはギルド本部に出向いて、『鬼人』と呼ばれるギルド最高責任者に挨拶に行く予定である。
「ねぇ、セイナ。鬼人って怖い?」
「纏う空気は常人のそれを逸脱している。私も初めて会った時は、思わずその気に圧倒された」
怖いなぁっと心で呟く。
でも、唯一生存が確認されている英雄にして、伝説の住人である鬼人。
使用する魔装具も世界に三つしかないSランクの魔装具。
因みに僕の使う魔装具は、魔素を刀身に纏わすことで様々な性能を引き上げることができるようになった。
前の魔物討伐任務で進化した魔装具は、推定Cランクぐらいだそうだ。
僕の報告を聞いたネセリンさんがそう教えてくれた。
Sランクの魔装具になると、どんな能力を有しているのか、想像するだけでも恐ろしい。
ため息をした僕をシエルがキッと睨む。
どうやら、僕が道に迷っているこの状況に呆れた事と勘違いしたらしい。
彼女が口に出さなくても、考えが分かるなんて僕も成長したなと、一人で勝手にそう思う。
「なんか文句あるの?」
「いいや。でも、いつでも変わるから言ってね」
「バカにして……絶対にたどり着いてやるっ」
シエルは再び地図と睨めっこ。
意地を張って頑張る彼女を見て、口元が緩む。
そんな僕を見た、セイナの視線が怖いから口元を手で隠す。
怒られるのは勘弁したい。
結局、ギルド本部に辿り着いたのは、日が沈みかけた夕方だった。
高い塀で囲まれた地帯に木で造られた三つの建物。
一番左には、二階建ての寮のような印象だ。
その建物の前では置かれたテーブルに、冒険者らしき装備をした人とたちが飲み食いしている。
どうやら寝泊まりする冒険者用に建てられ物のようだ。
そして、真ん中にある一階建てで横に長い建物は、冒険者たちの出入りが激しい。
手に紙を持った冒険者が出て来ること、何が入っているのか想像出来ない、大きな袋持った人たちが入ることから、この建物が依頼を受ける建物らしい。
そして、一番右の三階建ての建物には誰も出入りしていない。
なんの目的で建てられたものだろうか?
「さて。鬼人に挨拶に行きましょう」
セイナがそう言って、僕とシエルを先導し、一番右の誰も出入りしていない建物へと向かう。
「セイナ。この建物は何?」
「ギルド職員用の建物だ。鬼人は最上階に居る」
なるほど、だから人の出入りが少なかったのか。
呑気にそんなことを思い、建物に入ると、受付の綺麗なお姉さんが笑顔で迎えてくれた。
「どのようなご用件でしょうか?」
「最高責任者であるベルソス様にお会いしたい。先方は通してある」
セイナの言葉を聞いた受付のお姉さんが手元の紙を見て、表情を曇らせる。
嫌な予感がする。
「そのような約束は本日の予定には入っていません。ギルドマスターは多忙な身の為、事前に約束ある方でないと、お会いできない規則になっております」
なんか予定と違うぞ。
考えられる可能性は色々あるけど、まさか到着が遅れたから……
「な、なによっ、あたしのせいだって言いたいの!?」
チラッとシエルの方を見ると、見事に一瞬過った思考を当てられた。
言い寄る彼女に「そんなことないよ」と言って、肩を竦める。
そんな僕を蒼い瞳でジッと見つめるシエル。
その視線を見つめ返すと、プイッと顔を横に逸らされた。
「見ときなさい……」
小さく呟いたシエルが、フードをとって受付に近づく。
フワリ舞う蒼い髪、真っ直ぐ前を見る蒼い瞳に、受付のお姉さんの顔色が変わる。
「ストレニア王国の王女。シエルが来ていると伝えて、挨拶をしたいから謁見を望むと」
「お、王国の姫様!? しょ、少々お待ちください!」
慌てて裏へと消えたお姉さんの後ろ姿に、少しだけ同情。
シエルに威圧された時の焦り具合は、半端じゃない。
「どう? あたしが言えばこんなもんよ」
僕とセイナの方を振り向き、胸を張るシエル。
そんな彼女に思わずため息。
要望を通すにしても、少しやり過ぎだと思う。
「シエル。きつく言いすぎだよ。あの人が可哀そう」
「想像していた反応と違う……」
何故か肩を落とすシエル。
彼女は僕に何を見せたかったのだろうか?
凄い自分を見せたいのなら、もう十分だ。
彼女の凄さはよく理解している。
セイナは落ち込んだシエルに、色々言って慰めている。
小さい頃から付き合いのセイナからしたら、何時ものことなのだろう。
その様子は何処か手慣れている。
「あんたが伝えそこなったのが原因だろ! 謝りに行くよ!」
奥から女性の声。
かなり怒っているのは理解できるけど、怒られているのは誰だろう。
「へ、へい!」
聞き覚えのある声。
あの人も怒られることあるんだと、呑気な事を考えていると、奥からロスブルクさんと一人の女性が出てきた。
「この馬鹿が連絡し忘れていてね。受付が知らなかったのはこっちの不手際だよ。遠路はるばる来てもらって、申し訳ないね」
「別に気にしてない。それより、久しぶりね。ミフアさん」
シエルは女性にそう言って、話かけた。
ショートカットのオレンジ色の髪。赤いヘソだしのタンクトップとショートパンツから伸びる、スラッとした白い脚。
大人の色香を纏うミフアと言う女性に、思わず目を奪われた。
「あんた、ますます姉に似てきたね。性格は似つかずだけど」
「うるさい。それくらい自覚してる。それより、人妻になったのに露出高くない?」
「そうですぜ姫様! もっと言ってやってください! 夫であるオイラの意見は聞いてくれないんです!」
「あんたは静かにしてな! この服装が動きやすいんだからいいだろ!」
ミフアさんに一喝されたロスブルクさんが、巨体を小さくする。
どうやら、ロスブルクさんが結婚したギルドマスターの娘と言うのは、ミフアさんのことらしい。
そして、鬼嫁ともとれる強気な態度は、どこから来ているのか……想像しただけで恐ろしい。
「セイナも久しぶりだね。あんたが来てくれると、パパも喜ぶよ」
「恐縮です。父やベルソス様の領域にはまだまだ到達しておりませんが、そう言って頂けると光栄です」
「『爆炎のガノ』と違って、あんたは相変わらずマジメだねー」
ミフアさんはそう言って、セイナの肩をバシバシと叩いた。
そして、「さて……」と呟いて、僕の方に視線を向ける。
「シエル。この子が新しく召喚した異界人かい?」
「ええ。シンジって言うの。まだまだ弱いけどね」
「ふーん……シンジねぇ」
ミフアさんの視線が僕の身体に纏わりつく。
さっきのやり取りから、この人はセイナの父である前騎士団総隊長との面識があり、シエルの姉である蒼い女神のことも知っている。
ならば、黒の勇者のことも知っていると、勝手に結論付けた。
「はじめして」
「こちらこそよろしく。ロスから話は聞いていたよ。『レイト』と同じ、黒髪黒目の少年が現れたって」
「レイト?」
「あんたには、黒の勇者と言った方が分かりやすいかい? 『レイト』……10年前の大戦を終わらせた英雄の名前さ。奴は本当に強かった。あんたは……どうだろうね?」
クスッと浮かべた妖艶な笑み。
大人の女性が放つ挑発的な視線に、思わず心臓が高鳴る。
綺麗な人だ……それが素直な感想だった。
そして、初めて聞いた黒の勇者の名前。
レイト……彼はそうゆう名前なのか。
いつか会ってみたい。
シエルの願いでもある『お姉さんとの再会』を達成すれば、彼とも会えるのだろうか?
それとも、本当に二人は死んでしまったのだろうか?
生きているとしたら、何故二人は表の舞台に出てこないのか。
二人は死んだ……それが一番有力な説だと頭では分かっていても、いまいちピンとこない。
なんでかな……
シエルをからかうミフアさんを見ながら、ふとそんな事を思った。




