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旅立つ者には祝福を  作者:
本編
16/36

第15話 それぞれの旅立ち


「さてっと……」


 レイトは黒の外套を身に纏い、『呪われた一族』の村の入り口に立っていた。

 外套を身に纏っていても、明け方の空気は身体に寒さとなり突き刺さる。

 異世界に来たばかりで、勇者として覚醒したばかりの頃。


 当時、騎士団総隊長だった『爆炎のガノ』に貰った外套。

 数々の戦いを共に潜り抜け来た品に、今は愛着すらある。

 セイナの父親にして、知り合いも居ないこの世界で味方になってくれたガノ・ヨラザル。

 

 困ったときはいつも助けてくれた彼を自分は死なせてしまった。

 後悔しても、彼は戻っては来ない。


「悔やんでいても仕方ない……か」


 レイトは村を出て、新たに異界人が召喚されたのかを調べに出るつもりだ。

 王都に行くべきか、情報の多く集まり、ギルドの本部がある『ラムザ』を目指すべきか。

 魔物領から南にある鬼火の森(ここ)からラムザは、魔物領を挟んで反対にある。

 距離的には魔物領から見て東にある、王都を経由して行った方がロスは少なそうだ。


 しかし、王都に行けばシエルやセイナに会うことになるかもしれない。


「どんな顔してあいつらに会えばいいのか」


 どんな理由があれ、彼女たちの大切な人を奪った原因は自分にある。

 許してもらえないことは分かっている。かと言って、アリッサとの『約束』を果たすまでは死ぬわけにいかない。

 そして、そのためには異界人が来たのかどうか、詳しく調べる必要があった。


(ロリフィには悪いけど、巻き込むわけにはいかないし。黙って行かせてもらおう)


 これは王国と自分の問題である。すでにこの世界ではみ出し者となった呪われた一族(彼女)は巻き込めない。

 自分を慕ってくれる彼女に少しだけ罪悪感。


(ごめんなロリフィ)


 そう思い一歩踏み出した時だった。


「どこに行く気かな? レイト君」


 振り返るといつもと同じ赤い髪と瞳。

 違うのは灰色の外套を身に着けていること。


「気づいたのか」


「10年も一緒に居れば何考えているか大体わかるよ」


 ニッと笑ったロリフィに肩をすくめる。

 中途半端な誤魔化しは通用しそうにない。

 そして、彼女が決めたことは絶対に譲らない頑固者であることを、レイトも10年の月日から理解していた。


「危ない旅だぞ」


「レイト君が居ればどこでも行くっ」


 一応の確認も意味が無かった。


「分かった。でも、道中は俺の指示には従ってもらうからな」


「うん!」


 満面の笑み。いつも村長の言うことに反抗している彼女が、自分の言うことを聞いてくれるのか。

 不安しかないが、もしかすると王国とギルドを敵に回すかもしれない旅だ。

 危険を出来るだけ回避するためにも、ロリフィには単独行動は控えてもらう必要があった。


「じゃあ、行くか」


 まだ見ぬ異界人を求めて。最後の役目を果たすべく、レイトはロリフィと共に王都を目指し出発した。















 ギルド本部のある街『ラムザ』で開催される『武闘大会』には多くの挑戦者が集まる。

 ギルドの母体は傭兵集団であるため、魔物狩りに関してはプロだ。

 しかし、運営していくと戦闘技術を持っていない者も仕事を求めて集まって来る。


 そういった者たちを魔物狩りに出さないよう、ランク別に管理し依頼の受注を差別化してきた。

 公平性を保つために、当初は最低ランクからのスタートだったが、今度は戦闘技術を持っている者から不満が出始めた。


 そこで、街にコロシアムを造り、そこで武闘大会を開催。

 成績優秀者には高いランクからの冒険者スタートと言う、ボーナスを与えることにした。

 今では腕自慢が多く集まる、一大イベントになりつつある。


「じゃあ。オイラたちのボスには参加するって伝えとくぜー」


 ロスブルクさんはそう言い残し、ギルド本部のある街ラムザへと帰還した。

 彼が僕の参加を確信した理由。もちろん、僕は参加するなど一言も言っていない。


「シンジ。これで優勝して、あんたの力を見せつけるのよ!」


 隣に居る王女様は鼻息荒く、右拳を固く握る。

 依然言っていた『手っ取り早く力を示す方法』、それが具体的に見つかり、興奮を抑えることが出来ないようだ。


 優勝って……腕自慢が集まる大会で優勝できる自信など当然僕には無い。

 不安に駆られた僕は、応接室から出ると騎士団の訓練場を目指し歩き始めた。

 セイナに「約束はいいのか?」と聞かれたけど、何の話か分からない。


 今は不安を拭う為にも、訓練に打ち込む方が大切だと思った。

 そんなことを思い、城の廊下の角を曲がった瞬間に違和感に気がつく。

 違和感と言うよりも、この感じは威圧感と言うべきか。


 僕とシエル、そしてセイナの三人の目の前に現れたのは初老の男。

 長く伸びた白鬚に開いているかどうか分からないほどの細い目。

 纏う雰囲気は、歴戦の猛者と言うべきか、ピンと張りつめていた。


「サラドル総隊長。ご苦労様です」


 セイナが男に会釈する。

 サラドル総隊長と呼ばれた男がこちらを向き、白い髭を手で遊ぶ。

 そして、鋭い視線が僕の身体を貫き突き刺さる。

 

 この悪寒は何だ?


 初めて感じる背筋の寒さに、額から汗がにじみ出る。

 そんな僕の様子を見て、サラドル総隊長はニッと口端を吊り上げた。


「そう警戒せんでおくれ。新しい勇者よ」


 気が付くとさっきまで感じて悪寒が収まっていた。

 冷静さを取り戻した頭が思考を取り戻す。

 総隊長と言うことは、この人が一番隊隊長、『剣聖のサラドル』と呼ばれる現騎士団最強の男。


「初めまして、シンジ・アラキです」


「シンジか……いい名前じゃな。それにしても、姉のアリッサ様と同様に異界人を召喚したのは、さすが姉妹と言ったところですな」


「あたしなんて、姉様と比べたら全然よ」


「またまた御冗談を。シエル様の才能は誰もが認めておりますよ」


「総隊長。我々は訓練場に行かねばならないので、この辺で失礼します」


「ふむ。セイナ。そろそろ開催される武闘大会にはお前を派遣しようと思っている。騎士団隊長として、存分に力を振るうがよい」


「承知しました。全力を尽くします」


 シエルとセイナが会釈、それに続いて会釈すると、サラドル総隊長は髭を遊びながら、廊下の奥へと歩いて行った。

なんだがよく分からないうちに、騎士団最強の男との対面は終わってしまった。

 凄い迫力だったなと振り返り、大事なことを思い出す。


「セイナも武闘大会に参加するの?」


「騎士団からは毎年、誰かが参加している。隊長になる前は二回ほど参加した」


「優勝できた?」


「最初はな。しかし、二回目は無理だった」


 セイナでも優勝できないって、どんな化け物が出て来るんだよ……


「さすがのセイナも『閃光のヌーイ』相手じゃ、キツイか」


「あの男は今年こそ倒して見せます」


 シエルの言葉にセイナが力強く答えた。

 閃光のヌーイ。そう呼ばれる人はセイナより強いらしい。

 まだ自分が一度も勝ったこと無いセイナより強い男。それだけで、僕にとっては十分すぎる化け物だった。


「その閃光のヌーイって人は強いの?」


 シエルが顎に細い指を当て、「そうね」と呟く。


「ギルドでも貴重なAランク冒険者で、最もSランクに近い魔装具を使う男……そして、10年前。第二次人魔戦争を終結させた当時5人いた隊長の一人。強さだけなら当時も、セイナの父親である『爆炎のガノ』・『剣聖のサラドル』に次ぐ、三番目と言われていたわ」


 想像以上の怪物だった。

 そんな人が武闘大会に参加するのか……優勝なんて到底無理なような気がする。


「シエル……棄権したらダメかな?」


「何弱気なこと言っているの!? ヌーイも倒して、優勝をもらう! それしか考えていないわ! あ、でもセイナに負けるのは許すわ」


 その自信と思考を僕に少しでも分けてくれ。


「安心しろシンジ。ラムザに行けば、稼働している唯一のSランク魔装具を扱う最強の男。英雄のである『鬼人』と会えるぞ」


 セイナの言葉に頭を抱える。

 もう何が持って安心なのかさっぱり分からない。

 この世界は化け物だらけで天井知らずだ。

 そんな人たちでも止められなかった魔物の侵攻を終わらせた黒の勇者。


 ホント、化け物だな。


 会ったこともない異界人に対して、勝手にそう思った。

 





 その後、不安を塗りつぶすために訪れた訓練場で、セイナにボコボコにされ、僕の不安はより増してしまった。

 そして、ロスブルクさんの訪問から一週間後、僕たちはラムザに向かって王都を出発した。


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