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旅立つ者には祝福を  作者:
本編
13/36

第12話 前途多難


 ぼんやりと意識が灯る。ゆっくりと目を開けると、男の目の前には一人の少女が無防備な寝顔を晒していた。

 男は身体を起こし、少女にデコピンを当てる。


「いたっ」


 少女が反応を示し、赤い瞳がこちらを見つめる。


「ロリフィ。俺の所に潜り込むなって、何度言えば分かるんだ?」


 今年で17となるロリフィは、腰まで伸びた赤い髪を揺らして、身体を起こした。

 不満そうに頬を膨らませる仕草にグッとくるが、今はそれどころではない。

 彼女はかなりスタイルがいい。引き締まった腰、男を惑わす胸の張り。


  顔もこの村では一番と言われる美少女に、ほぼ毎日ベッドに潜りこまれれば理性を保てるのか不安である。

 だから、何度も「入るな」と言っているが、彼女はむしろ手を出してくれないことに不満らしい。


「アタシは諦めない! レイト君が振り向くその日までアタックあるのみ!」


 抱き着いてくるロリフィをベッドから出ることで華麗に回避。

 

「アホなこと言ってないで、朝飯作りに行くぞ」


「アタシたちも子供つくろうよ!」


「こらこら、見切り発車しすぎだ」


 朝から元気なロリフィをなだめて、レイトは肩まで伸びた黒髪を、紐を使って一つに纏める。

 10年前から愛用している黒の外套を身に纏い、まだ肌寒い朝の空気が支配する外へと向かった。

 ネニヴァス南部にある広大な森林地帯、通称『鬼火の森』の奥地に架けられた橋のさらに奥にある、『呪われた一族』の小さな村。


 その村にかつて『黒の勇者』と呼ばれたレイトは10年前から住んでいる。

 第二次人魔戦争の折、鬼火の森に住み着いた魔物を当時隊長だったネセリンたちと共に、討伐して以来、この一族はレイトに対し友好的である。


 特にロリフィは一緒に魔物を討伐に付き添ったこともあって、村でも特別懐いている。

 呪われた一族は外部の者から差別的な扱いを受けることが多いため、自分たちを助けるレイトのことを最初は不思議に思った。

 しかし、害のない人間だと分かり、レイトが突然やって来た10年前の『あの日』も快く迎えてくれた。


 そしてレイトは、村に害を与える魔物の討伐を中心に、物資が乏しい村の食糧調達など様々な面で村に貢献している。

 あくまでも住まわせてもらっている身なので、働かないといけないと思っていた。


「今日こそはいけると思ったのにー」


 灰色の外套を身に纏ったロリフィが口を尖らせる。


「10歳離れたオッサンよりも、もっと若い奴にしとけ」


 そう言って、ロリフィの言葉を軽く流し、レイトは作業を開始する。


 村の中央に位置する広場。その場所でいつも二人は村人の朝食を準備している。

 鬼火の森の中で死んだ商人から回収した煉瓦で造った、かまどの上に鉄製の大きな鍋を置く。


「レイト君。見た目は変わらないから大丈夫だよ!」


 レイトの見た目は、何故か10年前に召喚されてからあまり変わっていない。

 今年で27歳となるのに、見た目は完全に17歳の少年そのままだった。

 どうやら魔力が高い人間は年を取るスピードが極端に遅いらしい。


「はいはい、ありがとうな。ほら、鍋に水入れてくれ」


 相手にされないことにご不満のロリフィが魔法を発動させ、掌から大量の水が湧き出て鍋の中が急速に満たされていく。

 呪われた一族の先祖は優秀な魔術師の一族なので、この村の人間は潜在的に魔術系の魔法を使うことに長けている。


 そして中には、『特殊な魔法』が使える者も居た。

 その者はより濃く先祖の血を受け継いでいる者として、一部では噂されており、外部の者から狙われやすのも事実である。

 ロリフィの両親、祖父母、そして彼女自身もそれに当てはまり、彼女の親族は外部の者に誘拐され帰らぬ人となった。


 外部の人間に対し、友好的なロリフィの家系は村の外に興味があるらしい。

 10年前にレイトとロリフィが出会ったのも、鬼火の森に存在する『最古のエルフの里』の中にある独房だった。


(懐かしいな)


 レイトは眠たそうに眼をこする少女を見てそう思った。

 水を鍋に張り終えると、村でとれた野菜、狩で取れた魔物や獣の肉を、手際よく形を整えて入れていく。


「ロリフィ。火点けてくれ」


「はーい」


 ロリフィが魔法で、集めた枝木に火を点け、鍋に張られた水を沸騰させた。

 そして以前、鬼火の森で死んだ商人から回収した味噌らしき物体を入れる。


(ホント、なんで調味料なんて持ってたんだろうな)


 レイトの素朴な疑問。その商人は何故か大量の調味料を保有しており、何処から来たのか分からなかった。

 もしかすると、レイトも行ったことの無い帝国から来たのかもしれない。

 毎日違う味が食べられると、村の子供たちからは好評だ。


(そろそろかな)


 出来上がる頃には、味噌のいい香りにつられて村の人たちがぞろぞろと広場に集まって来た。

 いつも通り、適当にあいさつを済ませ、みんなの手には木の器が握られている。


「レイトお兄ちゃん! もうできる!?」


 村に住むまだ幼い少年。彼の目も髪も『呪われた一族』特有の赤色だった。


「もちろん。容器出して」


「はい!」


 渡された容器に大きめの蓮華を使い、朝食である味噌汁もどきを入れる。


「ほい。しっかり食えよ」


「うん! ありがとう!」


 容器を受け取り、満面の笑みを浮かべた少年は母の元へと戻って行った。

 これが合図となり、村の人たちが一斉に並び始める。

 配るのはレイトたちの役目なので、ロリフィと二人でひたすら容器に朝食を入れていった。
















 朝食後の後片付けもレイトたちの仕事だ。

 洗い物は近くの川で行うので、二人は鍋を持って移動する。

 もちろん持つのはレイトの役目で、ロリフィは殆ど付き添いの形に近い。


「それにしてもさ。レイト君」


「ん?」


 青い半透明の水が流れる川で鍋を洗うレイト。その姿を川辺で腰を下ろし、見守るロリフィは楽しそうに笑みを浮かべる。


「すっかり村に馴染んだよね」


「まぁ、みんな外者の俺のこと、良くしてくれるからな。おかげで馴染むのも早かった」


「そりゃ、アタシたちはレイト君に助けられてるし。恩人なんだから当たり前だよ」


「恩人ねぇ。いまいちピンとこない」


「戦争を終わらせた英雄が、こんな所に居るって知ったら……みんなどんな反応するかな?」


「きっと怒られる」


 そんな気がする。少なくともあの『泣き虫王女様』は怒るだろう。

 かつて、自分を召喚した『蒼い女神』の妹にして、王族の血を引く王女。

 10年前は魔法が出来なくて、よく泣いていた彼女も今は17歳だ。


 姉によく似て、美人になっていることだろう。

 数か月前に感じた魔力の揺れは、きっと彼女が異界人を召喚したからだと本能的に理解していた。

 根拠はない。だけど、そう信じて疑っていない。


 会いに行かなければならない。

 新しく召喚された異界人が、シエルによって殺される前に……


「レイト君?」


「なんでもない。洗い物も終わったし帰るぞ」


 不安そうな赤い瞳で見つめる彼女は怒るだろうか?

 10年も一緒に居れば、きっとロリフィは気づいている。

 自分が村を出て行くかもしれないことに。


(どっちにしても、怒られるな)


 そう思って口元が緩むが手で隠す。

 村から出て行くと知ったらロリフィは怒るだろう。

 それに、シエルもきっと怒らせることになる。

 いや、下手をすれば憎まれるかもしれない。


 あの子の姉である『アリッサ』をこの手で殺したと知れば……

 それでも新しい異界人には会いに行かないといけない、アリッサとした『最後の約束』を果たすためにも。


「前途多難だな」


 思わずそう呟いた。






















「疲れた……」


 王都の自室に戻り、すぐさまベッドに前のめりで飛び込んだ。

 魔物の討伐任務は無事に達成された。どうやら、僕の魔装具が魔素を吸収したせいで、魔素の濃度上昇は止まったらしい。

 シエルを背負って三番隊に合流すると、セイナに怒られる始末。

 そして何があったのか、今の今まで報告書を書いていた。


 そこは違う。そうじゃないと、セイナの厳しい指導の下ようやく報告書を完成させ、部屋へとたどり着いた。

 シエルもするはずなのに、いつの間にか何処かへ姿を消しており、少しだけずるいと思ってしまう。

 あのじゃじゃ馬王女様に僕は振り回されっぱなしだ。


 シエルに反撃するのは今度にするとして、今は寝よう。

 眠気と疲れに身を任せて目を閉じた。慣れないことをした身体は、あっという間に眠気に飲み込まれた。








「起きなさい。変態」


 目を開けると澄んだ蒼い瞳が向けられていた。

 部屋の明かりを点けっぱなしだったことに今気が付いたけど、シエルはこんな夜中になんの用だろうか?

 本音としては疲れたから眠らせて欲しい。


「あ、あんた……明日は暇でしょ?」


 眠気のせいでぼやけた視界。そのせいで確かかどうか自信はないけど、心なしか顔が赤いように見える。


「うん……そうだね」


 半分寝ているので、ちゃんと声に出ているか心配だ。


「暇なあんたと……あ、遊びに行ってしてあげるわ!」


 もう寝かせてくれと心から叫びたくなった。


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