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旅立つ者には祝福を  作者:
本編
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第9話 実戦


 不慣れな乗馬。一応、シエルに言われて練習はしていたけど、実際に走ると想像以上に尻周りの筋肉にダメージがあった。

 三番隊と共に馬を走らせ、背の低い草の生えた平原を抜けて、切り立った岩肌の並ぶ地帯へと入る。

 しばらく進むと小さな村が視界に入った。


 村に入り馬から降りた隊員たちの動きが激しくなる。

 


「医療魔法を使える者は怪我人の手当て! 残り者は物資の配給を始めろ!」


 セイナの指示が隊員たちに飛ぶ。

 僕は物資の補給を手伝うべきなんだろうが、こうゆう状況は初めてなので動き方が分からない。

 どうするべきか、周りの様子を伺っていると、肩を叩かれる。


「シンジ。ついて来い」


 振り返ると隊員たちに指示を出し終えたセイナ。

 早歩きで歩き始めた彼女の後を急いでついて行く。


「どこに行くんだい?」


「現場の視察だ。今は部下が見張っている」


 そう言ってたどり着いて場所から見下ろす先には、大きく開いた穴。

 木製で造られた足場が円形の穴の端に沿って作られている所から察するに、これが今回問題になっている採掘場のようだ。


「状況は?」


 セイナが見張っていた兵に聞いた。


「今は驚くほど静かです。村人の賢明な抵抗のおかげかと」


 確か、最初に魔物が出てきた時、戦ったのは採掘場で働いていた人たちだと言っていた。

 突然魔物が湧いて出てきて、近くに戦える者がいない緊急時とは言え、彼らは戦いに関しては素人で、怪我人が多数出た。

 もう、村には魔物を跳ね返すだけの力は残っていないだろう。

 それほどまでに、村人たちは抵抗した。


 だけど……それを魔物が感じて今は大人しくしているとしたら。


「セイナ。もしかして今回の魔物は知能が高いのかな?」


「可能性はある。採掘場の中に罠が仕掛けられている可能性も否めない。かと言って、ここで見ていても、村に被害が増すばかりだ」


 セイナが鋭い眼光で採掘場を見つめて言う。

 魔物の関する本の中に、魔物の中には同個体でも一部知能の高い魔物が紛れていることがあると書いてあった。

 特にゴブリンやオークと言った繁殖力の高い魔物の中に、そう言った知能の高い個体が紛れていると、集団で統率された動きで襲ってくる。

 

 もしかすると、魔素の密度増加の影響を受けて、凶暴になっただけではなく知能まで高くなったのかもしれない。

 しかし、だからと言って無視をするわけにもいかない。

 セイナが言うように、今すぐに鎮圧しないことには村の被害を止められない。


「セイナ隊長。村人の手当て、完了しました」


 隊員の一人がセイナに報告した。

 それを聞いた彼女は隊員をすぐさま招集し、僕たちは採掘場へと降りていくことになった。

 胃がキリキリして締め付けられるほどの緊張。


 初めての実戦でやっぱり僕には不安しかない。

 腰につけたケースに入った『札』と刀型の魔装具をしっかりと使いこなせるのか。

 また死にかけて足を引っ張ることにならないことを祈るばかりだ。


「ヒドイ顔ね。吐かないでよ」


 隣に居る蒼いローブを身に纏うシエルに喝を入れられる。

 今、僕たちが居るのは、山の壁に空けられた採掘場の入り口前である。

 全員で巨大な円形の穴の底まで降りた後、そこから隊を二つに分けて、隊の大部分は採掘場の穴の奥へと入って行った。


 まず、セイナの率いる本隊が採掘場内の魔物をあぶり出し、入り口に待機している魔術師・遠距離攻撃が可能な隊員の集中砲火で殲滅。

 これが今回の作戦らしい。そして、僕は入り口で待機する部隊の護衛として、数人の隊員と共に入り口で待機することになった。


 実戦にまだ不慣れな僕に対する配慮のようだ。

 そのくせ、緊張で吐きそうと言う情けない現状にシエルはご立腹らしい。


「シエルは緊張しないの?」


「王族のあたしがするわけないでしょ」


「さようですか……」


 その自信を少し分けて欲しい。

 そんな事を思っていると、足元の地面が振動し始める。

 採掘場の入り口から魔物が出て来るのだろうか。

 シエルたち十人ほどの魔術師が杖を握り、数人の隊員が弓を構える。

 

 一応、遠距離攻撃部隊の護衛の名目として居る、隊員たちも各自武器を取る。

 僕も純白の刀を手に取り、長く伸びた入り口の奥へと目を凝らす。

 足元の振動は次第に大きくなるが、魔物の姿は一向に見えない。

 

 魔物は何処に?


 そう思った瞬間。地面を突き破り、隊の真ん中に出てきたのは丸太のように太い腕。

 褐色の肌を持つその腕は、弓を構える隊員を掴んで投げた。

 一瞬の悲鳴の後、身体が当たった土の壁にベットリと赤いペンキが塗られる。


 全員がその腕を凝視した。

 魔物の腕? だとしてもどうしてこんな場所から?

 全員がそんな思いが過ったせいか、一瞬対応が遅れる。

 その隙に地面を突き破り、魔物が全身の姿を現した。


 褐色の肌を持つ三メートル程の体躯。丸太のように太い手足と額に付いた一本の角。

 本で読んだ魔物の中で該当するその姿は一角鬼(オーガ)

 目に映ったモノすべて破壊する気性の荒さから、姿を発見されれば真っ先に討伐される魔物だ。


「魔術師は距離を取って!」


 シエルの声。そうだ、近距離に脆い魔術師がオーガの手に届く距離に居ることが、すでに危機的状態なんだ。

 採掘場内の魔物をまだ討伐していない今の状況で、魔術師を失うわけにはいかない。


 腰につけた縦長のケースから札を手に取る。

 黄色い札に魔力を流すと、青い文字で術式が浮かび、発動する魔法を呟く。


「縛り羽」


 そのまま札を投げると、どうゆう原理なのか、札が何枚にも分かれてオーガを囲んだ。

 魔力を流し、発動する魔法の名前が引き金となって、様々な効果を発揮する『札』の魔具。

 今回発動したのは、動きを封じる魔法らしく、オーガは身体が重くなったのか両手をついて、なんとか身体を支えている。


 効果が出てよかった。


 初めて使った魔法が上手くいってホッと一息。

 身動きが取れないオーガを見て、魔術師たちが距離を開けて、僕を含めた近距離戦に強い護衛部隊が前に出る。

 初めて使う札の効果かがどれくらいのか分からない。いつ動き出すのか不明であるため、警戒は解かないが、それよりも早く魔術師たちが魔法を発動させる。

 オーガの足元に緋色の魔法陣が出現し、飛び出してきた木の根がオーガの身体を貫いた。

 身体の節々を貫かれたオーガは、まだ辛うじて息がある。それも虫の息同前で。


「シンジ! 今のうちに首を切って!」


 シエルの声で反射的にオーガに向かってジャンプする。

 右手に握る刀を相手の首に向かって、真っ直ぐに振り下ろす。

 当たった刀は抵抗なく首を切り落とし、地面に首が転がりオーガの動きが止まった。


 ホッと一息をついたのも束の間。

 次の魔物がまた地面を突き破って出てきた。

 1メートルくらいの小柄な人型の身体に、緑色の肌。手には棍棒や剣といった得物。

 頭には小さな角が2つ。異世界ファンタジーではメジャーなゴブリンだ。


 数は30匹程で、僕たちの数も30人くらいだから、一人一匹の計算になる。

 しかし、ゴブリンたちは何故か魔術師たちの近くから湧いてできたせいで、対応が遅れた。

 剣で刺される魔術師。弓で迎撃しようにも接近を許した隊員に振り下ろされる棍棒。

 血を流した隊員たちが地面に倒れると、ゴブリンたちがそれを囲って武器を無慈悲に振り下ろす。


 悲鳴と共に、人が潰れるグロテスクな音。

 クソ……これ以上は……!


 シエルに目を向けると、彼女の眼前にもゴブリンが迫っていた。

 虚を突かれたシエルの体勢は崩れており、このままではゴブリンが手に持つ短剣が振り下ろされる。

 札を手に取ると、再び魔力を流し、魔法を発動させる。


「守り羽!」


 シエルとゴブリンの間に向かって投げた札は、見えない壁となってシエルの前に障壁を展開した。

 ゴブリンの短剣を弾き、一瞬出来た間。その間にゴブリンに近づき首を切り落とす。

 首が地面に転がり、胴体が力なく地面に倒れた。


「シエル。大丈夫!?」


「も、もちろんよ!」


 彼女の無事を確認し、周りを見渡す。

 ゴブリンたちと乱戦状態で、何処から加勢に行くのか考える。

 魔法で一掃できれば楽なんだけど、大規模な魔法は味方を巻き込みかねない。


「シンジ。あたしを抱えて上に飛んで!」


 シエルの唐突な提案。色々と疑問に思ったけど、ここか実戦経験が豊富な彼女の意見を聞こうと思った。

 刀を鞘に納め、彼女を背負って、思いっきり地面を蹴る。

 眼下には乱戦状態の戦い場が広がり、ゴブリンたちがどの位置にいるのかよく分かる。


「これなら……!」


 シエルがそう呟き、魔法を発動させる。

 僕たちの周りに片手で掴めるくらいの黒い球体が浮かび、下に飛んでいく。

 そして、黒い球体から無数の枝が飛び出したと思うと、それらは正確にゴブリンたちの頭を貫いた。

 絶命したゴブリンたちは地面にゆっくりと倒れる。僕がシエル背負って地面に着地する頃には、戦闘は完全に終わっていた。


「凄いね」


「まぁ、闇属性はピンポイントで攻撃できるから便利ね」


 今のが『黒の勇者』の固有魔法をベースに開発された闇属性の魔法らしい。

 確かに、乱戦状態で味方を巻き込まない魔法は、かなり便利だと思う。

 ただその分、あれほど精密な魔法の操作には、どれくらいのセンスがいるのか考えると改めてシエルが凄いなと思った。


「それより早く降ろして。治療はじめないと」


 シエルがそう言って、僕の背中から強引に降りようとしたその時だった。

 僕たちの足場の地面がなんの前触れもなく崩れた。


「なっ」


「え?」


 気が付いた時にはすでに身体は宙に浮いており、どうすることも出来ない。

 そうして足場を失った僕とシエルは、そのまま下へと落下した。


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