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6.李瑛と馬佩

好きな登場人物の名前をもじってます。

四国演義の登場人物とかいう王蝶は王允の養女貂蝉と似た様なもんです。

黄籍は項羽の名、項籍から。つくづく適当。

李瑛、伯勇はゴロがいいからです。


美女達が円陣を組んでいる。

公主は自分の面紗を深く被り直しながらその集団を見ていた。

そしてその傍らには冷めた表情の春月が。

「…相変わらずモテてらっしゃいますね。李瑛様。

そして虎の威を借る狐が一匹…。」

美女達…その中の一人が李瑛を自身の胸に抱きこんだ。

当人は顔を真っ赤にして固まっている。

その傍らで、ニヤニヤ笑いながら伯勇は他の女の子にちょっかいをかけているが、

全く相手にされていない。

「…切ってやろうかしら?」

春月の物騒な呟きに、何をとは聞けない公主だった。



「麗月さんか…綺麗な名前だな。

ギャサ高原には行ったことがないから話を聞かせて欲しいな。」

公主を春月から紹介された李瑛はニッコリ笑う。

笑うと柔和な印象が加わったが、公主はそれでも警戒した。

「…。」

何も答えない公主に李瑛は戸惑った顔をした。

どうしよう、とその顔には書いてある。

「李兄…お前と同じで、その子はとってもウブなんだよ。

可哀想だからあまり、口説くんじゃあない。」

伯勇はフフッと笑うと、公主と李瑛を引きはがした。


__え?この人、察してくれた?


公主は危うく、伯勇をいい人認定しそうになったが…、

ガシッと手を掴まれる。

「俺は君の自然体を引き出すけどね。」

「いい加減になさいませ。寧ろ貴方が口説いているんじゃありません?」

「…春月ちゃん、嫉妬?俺は嬉しいよ。」

春月が額を押さえた。

「…そんなはず、ないでしょう。私、他の子呼んできますわ。

今日は誰が宜しいですか?李瑛様?」

「…ええ、と…秋琴に桂蘭に芙蓉に香媛に…」

彼女に答えたのは伯勇だった。

彼は指を折りながら色々考えている。

「あ、後…月蘭もいいな…。」

「伯勇様に聞いているんじゃありませんわ!」

「まぁね。でも女の子に関しては、俺の意見は李瑛の意見だ。」

「…分りました。呼んで参ります。」

春月は伯勇に背を向けて、部屋を出ようとする。

薄絹で出来た上着を翻がえしながら。

その後ろ姿の優雅さに公主は一瞬見とれた

…があることに気づいた。


__春月さんが行ってしまったら私、一人になってしまう!


見ず知らずの男二人に挟まれるのはごめんだった。

「…ま、待ってください。春月さん。私も行きます。」

公主は春月の後に続くことにした。

すると背後で声が上がった。

「春月ちゃん!麗月ちゃんの簪、それ俺があげたやつじゃないか!」

振り返って見てみると伯勇が身を乗り出して、こちらをガン見している。

彼は公主の後ろ髪に差された簪に気づいたらしかった。

春月が振り返りもせずに言う。

「…鶴の夫婦…でしたわね。

長寿を願うおめでたい品で、形も色も良かったので、彼女に差し上げましたの。」

「春月ちゃんだって分かっているんだろ?

それは夫が妻に送る物なんだよ!互いの長寿を祈って。」

見ると彼はうっすら涙すら浮かべている。


__あ…やっぱり、返した方がいいんじゃないかしら?


簪を引き抜き、春月に差し出す。

すると春月はその手を押しとどめた。

「私が花代として貰った物ですのに。

それに何時から私は伯勇様の妻になったのです?」

「………。」

伯勇が答えないのを見ると、春月はスタスタ歩き出してしまう。

「ま、待ってください!春月さん…。」

公主も小走りで、彼女の後を追う。


美女達が去った後、伯勇と李瑛は何も言わずチビチビと酒をすすめていた。

伯勇は彼らしくもなく、神妙に黙り込んでいる。

そんな彼をチラチラ気の毒そうに李瑛は見やった。

「…なんだよ。何か言いたいことでもあんのか?」

半ばヤケクソ気味に伯勇は李瑛に訪ねた。

「いや…ご愁傷様です。」

李瑛の口元には少々の笑いが刻まれている。

伯勇は友人を軽く睨みつけた。

「…お前だって公主様にフラれたんだぞ?分かっているのか?」

「あ…ま、まぁ。」

「それにしても、春月ちゃんは何であんなにつれないんだ?」

情けなさそうなその声は少し湿っぽい物だった。

「お前の言うように公主様にフラれた俺に聞かないで欲しいものだが…。

だが色々要因はあるな。」

「それは…一体…。」

李瑛は言いずらそうに言う。

「…お前のチャラさ…そして重苦しい贈り物かな?」

「さ、さすが状元…的確……じゃないよ。

僕のどこがいけないんだ!」

はぁぁ、と溜息をつきながら伯勇は壁に凭れかかろうとしたが…、

「い…いってぇ!」

彼の後ろには優雅な屏風絵があった。

屏風と共に彼は後ろに倒れ込んでしまったのだった。

「ブフッ…。」

噴き出した李瑛を今度こそ本気で睨みつける伯勇だった。


そんなこんなで伯勇は腐っていたのだが、彼の興味はすぐに移った。

妓楼中の美女を引き連れ春月と公主が戻ってきたからだ。

それは春月なりの「配慮」だった。

これだけ呼べば公主のことを伯勇や李瑛が構う暇もない。

また同時に春月が如何に伯勇に興味がないかを示してもいた。

「しゅ、春月ちゃん…こりゃまた大所帯ですね…。」

「若様達の『人徳』ですわ…主に李瑛様ですが。」

「そりゃ、ありがたい。李兄は頼りになる。

なんせ一声かけただけで李兄がいると妓楼の半分の妓女がやって来るんだからな。」

伯勇は鷹揚に応じた。

そして、冒頭に戻る。


「…秋琴ちゃーん。俺と囲碁でもしようよ。」

他の妓女にもちょっかいを出しながら、伯勇は別の妓女に声を掛けた。

「いやですわ。今は李瑛様とお話中ですから。」

ねぇ、と秋琴と呼ばれた美女は自身が腕に抱きこんだ李瑛に同意を求める。

「あ…いや、君が望むなら伯勇と囲碁を…。」

顔を真っ赤に染めながら李瑛が答える。

なんせ、彼の顔の側には彼女の豊かに実った胸があるのだ。

なんだか真っ白くて、無駄にいい臭いがしそうな胸だと公主は思う。

李瑛が少し羨ましいと思うのは決して公主が変態だからではない。

それ位その妓女の胸は美しかった。

本人も自身の長所を良く分かっているのか、胸周りがピッチリした服を着ていた。

「李瑛様…このまま語り明かしません?私お聞きしたいことやお話ししたいことが沢山あるのですわ…朝まで。」

彼女は婀娜っぽい視線を李瑛に送る。そのしなも非常に艶やかだ。


公主と春月は集団から離れたところで彼らの様子を眺めていた。

「…伯勇様はあの子の胸狙いね。

囲碁なんか言っちゃって、どうせ碁石なんて見ないんだわ。」

春月が少し寂しそうに言う。

先ほどから彼女の視線は伯勇に注がれているような気がする。

「…もしかして…春月さんは伯勇様のことが好きなのですか?」

ギョッとしたように春月は公主を見た。

春月は何を思ったか、語気を若干強めて反駁しはじめた。

「いえ…何を言うの!そうじゃないわ!

ただ彼は少し調子がいいので気に入らないのよ!」

「…そうですか。」

「それに私はあの方の家が大嫌いなのです。ありえません。」

「春月さんがそういうのなら…。」

春月という初めて出来た友人を苦手な男という存在に取られずに済むならば、

それに越したことはないと公主は思う。

だが彼女は自分でも気づかぬうちに伯勇に好意を抱いているのではないか、と

公主はなんとなく感じたのだった。

「…春月さんの本心なら、それでいいんです。」

「…どうしてそんなに嬉しそうなの?」


その時近くからドスドスという複数の人間が近づいて来る音がした…。


__ビリリッ!


天井から釣り下がっている薄絹の帳を破りながら彼らは入ってきた。

酷く酔っ払っているらしく千鳥足でフラついている。

「あ、あら…馬家の若様じゃないの…。」

「相変わらず、酒癖が悪い…。」

他の妓女がコソコソと囁き合う。

「…調度品だと思って舐めないでいただきたいものです。

幾らすると思っていらっしゃるのかしら。」

呆れたように春月も呟く。

公主と春月の視線の先には楼の門前で出会った目つきが鋭い公子とその取り巻きがいた。

「…宦官野郎め…。」

座った目でその公子は前方を睨んでいる。

「貴様また来たのか…俺のことを舐めているんだな!

濁流貴族のくせに…生意気な!」

そういえば…と公主は思いだす。

門前でも彼が言っていた人間…宦官野郎。

それは誰だろうか、という公主の疑問はすぐに解決された。


ざわめく妓女達を横目に彼は李瑛に掴みかかり、自分の目線まで持ち上げた。

「またてめぇか…。」

あまりの剣幕に小さく悲鳴をあげながら女達はその場を離れる。

「薄汚い玉なし宦官野郎。

国を蝕む蠹虫めが。さっさと消えろ!」

そういうと彼は李瑛の頬を殴りつけた。

ガツン、という鈍い音と供に李瑛は体勢を崩す。

「一体何をするんだ!馬佩!」

伯勇が倒れ込んだ李瑛を庇うように間に入る。

「やぁ、幼馴染殿。経学を奉じ、常に国を憂うべき我々の筆頭でありながら、

国を傾ける薄汚いゴミ虫と一緒に行動する恥知らずな奴が俺に言いたいことでも?」

馬佩と呼ばれたその男は、彼の足取りと同じようにヨロヨロした調子で伯勇に絡みだす。

「李兄は尊敬すべき人だ。お前こそ泥酔してみっともない。消えろよ。」

伯勇は溜息をつくと、冷然と蔑むような表情をした。

「そういうところが気に入らないんだよ!てめぇは。

桑先生のところにいる時、俺達の仲間だったくせによ。こんな奴に肩入れしやがって。」

くだらねぇ、と伯勇まで殴りつけ、

側にあった食事や酒がのっている台を蹴っ飛ばした。

妓女の鮮やかな裳裾に酒や食材が飛び散っていく。

「…これ、私の大事な裙ですのに。」

「わ、私の髪が・・。」

「若様、御酒をお召すぎですわ。」

「…馬佩殿…少しやりすぎでは?」

妓女達が恨みの視線を向け、

彼の後ろから戸惑ったように中年の気弱そうな男が声を掛けるが、

「五月蠅い!」

と一蹴し、再び李瑛に掴みかかる。

「許して欲しければなぁ、裸踊りの一つでもしてみたらどうだ?ゴミ虫。」

李瑛は彼をジッと見つめる。

そして…、

「…お前はそうすれば満足するのか。」

そう言うと静かに服を脱ぎだした。


公主と春月は呆然と上着を脱いでいく李瑛を見詰めていた。

彼の白い引き締まった胸板がのぞきはじめた。

他の妓女も唖然としている。

公主は何故この男が静かに屈辱を受け入れるのか分からなかった。

気付いた時には駆け寄って彼の服を脱ぐ手を止めていた。

「やめて!」

「麗月さん…大丈夫、なんともありませんよ。」

毅然とした表情で李瑛は再び服を脱ごうとする。

「どうしてこんなことするの?」

馬佩はニヤリと笑った。その笑みは人を喰うような笑いで公主は背筋が寒くなった。

「西域から来たとかいう妓女だったな…言葉が不自由だった筈だが良く話せている。

フフフ…面白い、李瑛じゃなくお前が裸になってみるか?」

「…な。」

「いい加減になさいませ。妓女達を集めてこの部屋に連れて来たのは私なのですから、

私が責任を取ります。李瑛様や麗月さんに当たらないで下さいませんか、若様。」

「春月…俺の誘いを断って、伯勇やこいつの相手をしていたのか…。

それに秋琴お前も!」

「伯勇様達のお相手は…物のついでですわ。

それにしても秋琴さんには声を掛けなかったのですが…。」

春月が秋琴を軽く睨むと、秋琴はニンマリと笑った。

「…だって李瑛様がお越しになるんですもの。お会いしたくて。

それにしても…そんなに私が恋しかったのですか?若様。

貴方様が眠っている間、少し外しただけじゃあ、ありませんか。」

彼女はその場の緊迫感など何処吹く風、微笑みながら余裕の構えである。


「プフッ。」

公主は思わず笑ってしまった。彼女は得心した。

つまり、この男…馬佩は自分の所に来ていた妓女を根こそぎ取られてしまったから

怒鳴り込んできたのだろう、と。

それもどういう訳か酷く嫌っている李瑛に。


__確かに色男だものね。李瑛は…。


何とも間抜けな話だと面白く思っていると、

「今、貴様笑ったのか?」

その男がギラついた目で彼女を射抜いている。

「……。」

少し不味かったかな…と焦りだした公主に男が迫ってくる。

春月の制止を振り切ってその男は彼女の目前までやってくる。

その男の威圧感は酷く不快だった。

その怒気は彼女が毛嫌いする男に良く似通っていた。

かつて彼女に迫ったその男もまた、

女を屈服させようとする暴風のような意志を持っていた。


その男にそっくりなその男を呆然と公主は見つめる。

何時の間にか乱暴に彼女の肩は掴まれていた。そして彼は哄笑した。

「…裸踊りは許してやろうではないか。

その代り、痘痕だらけだとかいうその面見せて貰おうか。」

復讐心で嗜虐的に光る眼と合った瞬間、公主の中で目の前の男は馬佩ではなくなり、

別の男にすり替わっていた。


__黄籍…。


その瞬間自分の体が一瞬浮遊したと、公主は思った。

誰かに抱えられる感触と共に彼女は目を閉じた。




「辟召」は漢代では三公レベルの人間に許されていた…らしいです。

宦官で辟召てのはあるんでしょうかね??(多分ない)でもこの小説は何でもアリ。

蠹…確か…木を内側から食いつぶす虫。転じて、国を内側から崩壊させる奸臣を差すらしい。←悪口にはもってこい。

駄作をお読みくださりありがとうございます。

更新不定期ですみません。


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