2.世紀の年齢差夫婦と悪友
官制については適当設定…。
気の毒な李瑛さんを出してみる。
「何、公、公主が…失踪しただとぉ…!!!」
公主の結婚相手を見つけたという安堵感と高揚感から昨日は柄にもなく月の観察などをし、すっかりテンションが上がってしまった皇帝は、自身も月を訪ねて行ったのだった。
…彼の月とは最近入宮したばかりの李貴人(貴人=側室)である。若く美しい李貴人に最近の皇帝はすっかりメロメロだった。この李貴人、淑成公主とそう歳は変わらない…いや、むしろ下だったりする。淑成公主が父親を気持ち悪がる理由にそういうことも含まれていることを彼は知らない。
「公主もそなたのように色気というものを身につけねばならんの。そなたは全く公主より一つ下だというにどこからそんな色気が出ているやら…ここからか、ええ?罪な奴め」とのたまわりながら美しい貴人と組んず解れつ、楽しい夜を過ごされたようだ。
そんなこんなで心身ともに満ちたりた状態で迎えた朝。
皇帝は心地よい微睡から引きずり出されるのを感じた。
しどけなき美少女の焦ったような声音と共に体を激しく揺さぶられたのだ。
「…そなた、もう少しゆっくり起こさぬかぁぁぁぁ。」
しどけなき美女_もとい李貴人は緊張した顔をしていた。
「…どうした?そのように慌てて…もしや朕に抱かれたいのか?愛い奴め。確かにもうすぐ起きねばならぬからな。さっさと済ませようぞ…。」
李貴人は呆れたような溜息を吐き、ビシッと言い放った。
「冗談を言っている場合ではございませんわ。起きてくださいませ陛下。
公主様がいなくなってしまわれたのですよ!!」
「…公主がなんだって…?」
李貴人は上着を羽織って、牀のヘリに座った。
「…どうか気を確かにお持ちくださいませね。陛下がお目覚めになる前、泉麗殿(淑成公主が居住する殿閣)のものから使いがありまして…公主のお姿が見えないと…。」
皇帝は困惑顔で李貴人に訪ねる。
「…あれ…がおらぬとは…。それは…一体…朝の散歩に出かけたのではないか?」
「この厳冬に咲く花がそれほどございまして?」
「…この後宮の殿内にはおらぬと…?」
皇帝の顔が紙のように白くなった。
「…どうやら、いらっしゃらないようです。」
「…後宮から出たということは執政殿の方はどうなのだ?まさか公主は野蛮な男どもに囲まれてはいまいな。」
「…陛下、官服を着た野蛮な男たちならまだ良うございます…公主が一体外朝に何の用がありまして?…一応捜索させておりますが…多分公主は皇宮を抜け出たのですわ…。昨日、公主の結婚話について陛下は随分上機嫌に話されましたが…。」
「…多分それ、だ。…あの子の行動力というか衝動なめてた…。よほど結婚が嫌だったのだな…。」
李貴人は哀れな程落ち込んでいる皇帝の肩に手を置いた。
「…大丈夫ですわ。公主様は外に殆ど出たことのない方…。どうせすぐ根を上げて戻っていらっしゃいますわ。」
後宮に詰めている側室達は元々貴族の娘である。ゆえに里下がりなどする際は皇宮の外を多少なりとも歩いたりするものだった。(移動する際は輿に乗っているが)他にも皇帝が側室を巡幸に連れて行ったりで、多少外の世界に触れる機会もある。
ところが公主は小さい頃母親の療養先について行ったことがあるだけで、それ以外外出経験が無かった…というのも、その頃母親の麗銀容は皇帝の第二子を懐妊していたが、その療養先で不審死したのだった。
突然死…といわれているが暗殺の可能性が濃い…。
それ以来皇帝は公主を外に出したがらなくなった。
公主も特に外の世界に興味が無かった。この後宮での暮らしに満足していたのだ。
彼女は外への興味を全て本に向け、本に世界を見るようになった…。
「…公主を今すぐ探さねば…。公主が馬の骨に犯されたらどうしようか…。
いや殺されるかも…麗貴人のように…。」
そういってオイオイ泣き出してしまった。
「…大丈夫ですわ。…多分…ですけど…。必ず生きていらっしゃいます。」
「今思ったのだが、誘拐、駆け落ちという線はないか?」
皇帝は涙に濡れる目で李貴人に救いを求める。
「…誘拐は可能性がございますが、駆け落ちはありえません。公主様は男嫌いですから。
しかし、誘拐の可能性も低うございます。なにせ公主様には動機がありますわ。」
「…全て朕が悪かった。もう無理強いはせん…。早く探さないと…外の世界をほっつき歩くなど危なすぎる。公主は無事であろうか…。」
カクリと皇帝の首が垂れた。
__ショックのあまり気絶してしまったようだ。
「…陛下…陛下っ。」
結局陛下の尻拭いは李貴人が行い、外朝に公主がいないことが分かると捜索は皇宮の外に切り替わった。
「…。」
その青年は登殿し、あまりに騒がしいのでどうしたのか人々に聞いて回った。
そして、呆然とした。
真新しい青い官服を着こなしたすっきりとした美しさを持つ青年は一人佇む。
男らしいが繊細なその美貌は彼の匂うような知性を表しているかのよう。
そんな青年の肩をポンッと叩いて笑ったのはこれまた青い官服を纏った腕白そうな青年だった。真冬だというのに日焼けている…いや、これは彼の肌の元々の色なのだろう。
「…公主がいなくなったらしいなぁ…お気の毒に。」
わざとらしく同情してみせる褐色の肌の青年を美しい青年は切れ長な目で睨む。
「やめてくれ。ふざける気分ではない。」
ニヤニヤと褐色の肌の少年は美しい青年の脇腹を突っついた。
「…あーあ。おかしい。妹の李貴人様に渡りをつけてそれとなく皇帝に自分をアピールしていたのに。お目当ての公主がどっかいっちゃうとか…。」
「…黙れ。」
スタスタと歩き去ろうとする青年の後を笑いながら彼はついて行く。
「…お前は軟膏か?」
「そのとーり、面白いネタは離さないんだよ、俺は。」
「…。」
褐色の肌の青年はカラカラ笑った。
「ところでお前、公主様に会ったことがあるの?李瑛?」
そう、この青年こそが李瑛なのであった。
「…ないが…。」
「…どうして会ったことがない公主様が失踪した位で落ち込んでるんだ?」
「お前わざと聞いているだろう?公主様のお噂はお前も聞いたことがあるだろうに。『この世のものとは思えないような美しさ』とか『母親と瓜二つ』とか…あの方の母上は神山の巫女もとい仙女といわれている。」
「…噂は噂でしかないだろうに。おまえは『公主教』の狂信者だ…。目の前にいる春月ちゃんのような女の子の方が俺は好きだね。まぁ、落ち込んじゃって…。大丈夫だ、お前に抱かれたい女なんて少なくとも三人はいる。」
彼なりの励まし方であったらしい。
「…人の心の瘡蓋を引っぺがすような言動だったが、一応なぐさめてくれているわけだ。」
「そだよ。」
李瑛ははぁぁと息をついた。
「少なくとも三人…ね。」
そして…ん?と訝しげな顔をした。
「…なんでそこ具体的なんだ?伯勇?三人って…。」
ケラケラ笑いながら褐色の肌の青年…伯勇は指を三本立てた。
「秋琴だろ?」
指を一本折る。
「桂蘭だろ?」
また指を一本折る。
「最後のこれは芙蓉」
最期の指を折る。
「…まぁ、まだまだいるかもしれないな。妓女は皆お前がとっちまう。
…ってことで今日も妓楼へ行きませんか?李兄?」
「…結局お前は妓楼に行きたいだけなんだな。」
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