回収列車
黒い列車から伸びた手は、人間のものじゃなかった。
白い。
細長い。
関節が多すぎる。
しかも一本や二本じゃない。
扉の奥から、何百という腕が這い出してくる。
ミナが悲鳴を上げる。
「うわぁぁぁっ!!」
手はホームを叩きながら進む。
ガガガガッ!!
床に爪痕が走る。
逃げ遅れた顔なし人影が掴まれ、そのまま列車の中へ引きずり込まれていった。
声はない。
だが。
引き込まれた瞬間、その存在だけが“薄く消える”。
リシアが震える。
「何あれ……!」
少年レインは静かに言った。
「未保存存在の回収」
「消えかけたものを、“処理”してる」
ミナが怒鳴る。
「その説明で安心できるわけないでしょ!!」
男は即座に走り出す。
「こっちだ!!」
全員がホームを駆ける。
背後では無数の手が追ってくる。
速い。
這うというより、“空間ごと滑ってくる”。
セリアが低く呟く。
「空間接続型……」
その瞬間。
一つの手がリシアの足首を掴む。
リシアが悲鳴を上げた。
「きゃっ!!」
ミナが振り向く。
「リシア!!」
掴まれた部分から、“色”が抜けていく。
足だけが白黒になっていく。
リシアの顔が青ざめる。
「感覚……ない……!」
男が叫ぶ。
「触られるな!!存在情報を持ってかれる!!」
次の瞬間。
黒い線が走った。
ズバァッ!!
レインの終律剣。
掴んでいた腕が、“途中から消える”。
切断ではない。
存在ごと抜け落ちる。
リシアが解放される。
だが。
レインの輪郭がまた揺れた。
ゼノスが即座に警告する。
『終律使用による自己欠損率上昇』
『現在のレインは安定していません』
レインは舌打ちする。
「分かってる」
少年レインが、それを見て静かに呟く。
「やっぱり危ない使い方してる」
レインが睨む。
「知ってるのか」
少年は小さく頷いた。
「昔の僕も、そうだったから」
静寂。
ミナが固まる。
「……昔の?」
だがその時。
ホーム全体が揺れる。
ゴゴゴ……。
黒い列車が、“こちらを認識した”。
車体側面に、新しい文字が浮かぶ。
【高優先回収対象確認】
【終律反応検出】
男が顔を引きつらせる。
「最悪だ!!」
大量の腕が、一斉にレインへ伸びる。
まるで飢えた生物みたいに。
ミナが叫ぶ。
「レイン!!」
その瞬間。
帰還者が前へ出る。
無表情のまま、黒い列車を見た。
そして小さく呟く。
「……まだ残ってたんだ」
次の瞬間。
帰還者の首元の黒い痕が、赤く発光する。
空間が軋む。
男が目を見開く。
「おい待て、お前――」
帰還者が片手を上げる。
すると。
ホームの景色そのものが、“反転した”。




