【BL】甘美な復讐はどこまでも甘い。
ああ、あの子がいい。
両親にも嫌われ、学校でも苛められてる。
あの子なら、沢山魔力を生み出せるだろう。
私の世界、インフラートは魔法のある世界だ。
日本ではファンタジーを呼ばれる世界。
国民の誰もが魔法が使え、高貴な血を持つ者は魔力が高い。
けれども、私の仕える王には魔力はない。
王は他者から魔力を吸収することで、魔法を行使する。
最初はインフラートの貧しい国民や、罪を犯した貴族から魔力を得ていた王だが、異世界、日本から少女が迷い込んだことで、一変する。
少女は美しいが、とても弱い心の持ち主で、体中に傷跡が絶えなかった。
それを癒し、十分な食事を与えると少女から魔力が生み出された。
王家専属の魔術師によると、少女が幸せを感じると放出される魔力が高まるとか。
他者から魔力を吸収し続け、己の着飾ることには余念がない王はとても美しかった。
少女は王を一目見て、惚れてしまったらしい。
少女の恋心を利用して、王は少女から魔力を吸収した。
日本とインフラートの時間の流れは異なり、日本に属していた少女の時の流れはインフラートの民よりも早かった。
少女は成長し、老いた。
力を吸収し続けた王は、少女が老い、魔力を失うと捨てた。
少女は貧しい小屋で死んだ。
たった一人の子どもを残して。
それが私だ。
私は王の子でありながら、王子ではなかった。
首輪をはめられ、王に服従させられた。
私は王の血を引き、この地で生まれ育ったため、体の時間軸はインフラートに帰属する。
少女ーー私の母を捨て、王はまた国民を犠牲にし始めた。
私が十歳の時、今度は少年が日本から現れた。
王は、私の母にしたように少年を特別扱いし、幸福を感じさせ、魔力を奪い続けた。
日本人の血を半分持つ私は、外見が母そっくりだった。
そのため、少年と同じように黒い髪に黒い瞳を持っていた。
少年は私を見ると安堵したようで、私は彼の世話係になった。
情が湧かないわけがない。
少年は成長していき、あっという間に私の歳を追い越した。
大人になった彼と私は王に隠れて日本へ帰る道を探した。
彼が七十歳、私が十七歳になった時、私たちは日本へ繋がる道を見つけた。
戻ろうとした矢先、王の追撃に会い、彼は死んだ。
私の首輪は監視用でもあり、すべてを見られていたのだ。
私と彼の関係は恋人同士のようでもあり、その関係すらも王にばれていて、王の側近に嬲られた。
しかし私は殺されなかった。
代わりに使命を言い渡された。
日本に行って、定期的にかわいそうな子供を浚ってくるように。
首輪には魔法がかけられ、逆らえば酷い痛みを伴う。
愛する彼を殺されたのに、私は彼の後を追わず、王に服従した。
およそ十年ごとに可哀そうな少女や少年をインフラートに送った。
日本に来て、四十年、私は自分の綺麗な外見を使って金を稼ぎ、日本で暮らした。私がどんな生活をしているか、王たちに伝わっている。
それでも構わなかった。
私は日本で自由を得たのだから。
いつもの通り、補充の命令が伝わってきて、哀れな子供を探した。
仕事先で多くのシングルマザーに会う。
慣れてくると王は見栄えがいい子供を送るように伝えてきた。
心の中が嗤いながら、私は見栄えのいい女を探し、その子供に目を付けた。
母親に痛めつけられ、同居している母親の恋人にも嬲られる
学校でも虐められ、可哀そうな子供。
私の笑顔はとても優しいらしい。
子供に声をかけ、安心させ、インフラートに送る。
「君は選ばれた子供だ。異世界に行って世界を救ってくれ」
初めは信じない子供も、私が小さな魔法を使うと驚き、信じた。
そうして、美しい服を着せ、インフラートに送る。
王の外見は天使のような美しい男だ。
魔力をたっぷり得ており、老いを知らない。
少女や少年は魅了され、王の声に踊らされる。
幸福感を与え、魔力を奪う。
私は指令を受け、四人目の哀れな子に目星をつけ、近づいた。
「私の名前は四葉よしお。君の名は?」
「僕は、望だよ。よしお」
その子は私をまっすぐ見て、名前を名乗った。
その顔、その瞳、彼は私の愛した人と同じ顔をしていた。
「生まれ変わりって信じる?」
望は笑う。
「僕はずっと生まれ変わるのを待っていた。そしてやっと生まれ変わり、君に出会った」
「うそ、嘘だ」
生まれ変わり、この世界で読まれているファンタジー小説に沢山出てくる設定だ。
「本当だよ。僕は君のことなら何でも知ってる。また一緒に遊ぼうか」
私は彼が怖かった。
会えて嬉しいというよりも恐怖を覚えた。
「あの時、君は僕を売ったね。その首輪から全部情報を王に送っていたんだろう。今もそう?」
「あの臆病者たちは、日本に来るのが怖いのだろう。君はあの魔力なしと日本人の間の子だ。君の魔力も少ないから、使える魔法も目くらましのもののだようだ。僕が小さい時、よく見せてくれたね。子供だましにはちょうどいい」
望は私の頬をゆっくりと撫でる。
「僕はね、この時を待っていたんだ。赤子の時から僕は記憶があった。そしていつか君に会えることを願った。日本への道を見つけた王はきっと、哀れな子を探しに来ると思ったよ。あの国ものは弱虫だ。だから、自分ではなく、君を送ると思っていた。予想が全部当たって嬉しいよ」
望が笑い、後ろを振り返ると、数人の男たちが現れた。全員黒服をまとい、恰幅がよかった。
「神様は僕の復讐を歓迎している。だから今度は裕福な家の子に生まれ変わった」
「ゆ、ゆうふく?」
「あの女、上手い仕事してよね。礼はたっぷりするつもりなんだ。こうして君を僕の所へ連れてきたわけだから」
それから、私の自由はなくなった。
ずっと望の部屋に閉じ込めらた。
私の年齢軸は、インフラートだから、彼よりゆっくり歳をとる。
だから、彼の年齢が私を超すのはあっという間だった。
年齢が重ねる度に彼の遊びは変わる。
彼は愛おしそうに私に触れ、キスをする。
それはどんな時も変わらない。
「……私が死んだら、君は解放する。それは遺言にも残すつもりだ」
首輪はどうやったのか、望の優秀なスタッフによって外された。彼は試すように部屋に鍵をかけなくなった。
いつでも外に出れる。
だけど、私は彼の部屋から出なかった。
与えられる彼からの愛は、私を満たした。
復讐といいながら、彼は一度も私を殴ったり、嬲ったりしたことはなかった。
「……僕は、もう死ぬだろう。最後だから、僕は告白することにする。僕は君を愛していた。裏切られたことは悔しかったし、憎かった。けれども君と再会したら、すべての憎しみが消えてしまった。ただ愛しい、その気持ちだけがそこにあった。君は自由だ。二度目の人生も僕に付き合ってくれて、ありがとう。もう三度目はない。満足だ」
弱った体をベッドに横たえて、彼はぽつり、ぽつりを話す。
その度に私の目から溢れるのは涙だった。
「望。私も連れて行ってくれ。今度こそ」
あの時、私ができなかったこと。
あの時は自分がとても大事だった。
でも今は、彼がとても大切で、一緒に逝きたいと願う。
「よしお?だめだ。それは」
「私も一緒に逝きたい。先に行って待ってる」
私は毒薬を入手していた。
確実に、でも静かに死ねる薬だ。
「一緒に飲もう。君が僕に口から飲ませてくれるかい」
なんてことを言うのだろうか。
最後の、最後のキス。
私からしたことがない。
キス。
私は毒薬を口に含み、望に口づけする。
ゆっくりと体が動かなくなり、死んでしまう薬。
残りの毒薬を私も飲んで、望の側に横になる。
すっかり痩せて小さくなった彼。
最初の人生と同じように小さい。
「幸せだ」
「私も」
私たちはお互いを抱きしめ合い、そのまま眠った。
(終)