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臆と病に純と粋  作者: 在るり
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第三話



 私の隣の席に机を置いた秋山さんは、いつもの明るい笑顔を貼り付けてにこにこしとている。


「秋山さんはそこの席、なの?」

「うん!隣だからよろしくね!」


 蓮理と席を変わってほしくなる気持ちを抑えて、出来るだけ明るめの声を出す。


「よろしくお願いします」


 すると、秋山さんはまだ話し足りないようで、口角が上がりきっている口を開いて、何か言おうとしたそのとき、後ろから蓮理の声が聞こえた。


「瀬名、秋山さんと話してるの初めて見た」


 蓮理が机を運び終えたようで、驚いた顔をして私と秋山さんを交互に見ながら、正直に思ったことを呟いた。


「別に、隣になったから挨拶しただけ」


 私が答えると、秋山さんから一瞬不満そうな視線が送られてきた気がするけど、ほとんど事実だと思う。隣の席じゃなかったら声を掛けられることもなかっただろうし、図書館で話したのも社交辞令みたいなものだろう。


 それにしても隣の席だなんて、今回は運が良かったと思っていたけれど、秋山さんという大きな代償が必要らしい。


そんなことを考えていると、秋山さんがふと思い付いたように手を合わせて言った。


「そーだ!その二人仲良いならこの席変わろっか?」

「えっいいの?」


 つい反射で言ってしまったけど、秋山さんに失礼だったかなと言った後に後悔する。

 けれど秋山さんは何も気にしてないようで、いーよいーよ!と机を移動しようとする。


「いや、このままでいいよ!」


 蓮理が首を横に振って、秋山さんの手を止めさせた。そして続けて蓮理が言った。


「瀬名に他の子とも仲良くなってほしいし」

「別に友達は数じゃないでしょ」


 蓮理の台詞に私は呆れた声が出る。蓮理がいれば十分寂しくないし、困る事もない。蓮理が学校を休んでも私は一人で平気なタイプだ。それは蓮理も分かっているはずだった。

 蓮理が私を心配してくれているのは分かる。それでも今口を開いたら蓮理に不満をぶつけてしまいそうで黙っていると、先に秋山さんが口を開いた。


「よし!じゃあ私滝沢さんと仲良くなるね!隣人として改めてよろしく!」


 そう言って手を差し出してくる。


 とことん良い人だと思う。

 いつもポジティブ。

 穢れを知らなさそう。

 嘘が苦手そう。


 秋山さんと関わった人は皆そう言っているし、私も関わりは少ないものの、当てはまると思っている。でも、実際にそんな聖人のような人がいるのだろうか。いるのだとしたら不平等だ。私だって性格良く生まれたかった。

 クラスの中心人物ってだけで関わりたくないのに、こんな僻みを持って接すると、自分がより醜く思えてしまうから秋山さんとは仲良くなりたくない。


 でも、それを言う勇気もあるはずがなくて、秋山さんの手を取って握手を交わした。

 その光景を見ながら蓮理が腕を組んでにこにこしている。


 はぁ…。


 新しい席で周りに気づかれないようにため息をついて、先生が話し終えるまで、私は後ろから蓮理を睨み続けた。


 放課後、学級委員の合図で騒がしかった教室が一体となって学園祭の準備に取り掛かり始めた。


今日は図書委員の仕事がないので、私もクラスの準備を手伝わなければいけない。私が担当している小道具係の皆がもう一箇所に集まっていたので、そこへ向かうと、どうやら買い出しの話をしているようだった。


「うーん、テープは2個かな。あ、透明のやつね」

「あと赤のペンキも無くなりそうだから要るかも」


 皆が買うものを提案し合って、一人が買うものリストをメモしている。


「おっけー!こんな感じでいいかな」

「あとは買いに行く人なんだけどー、行きたい人いる?」


 途端にしーんとなって、空気読みの時間が始まる。でもきっと数秒後には誰かしらが声をあげる。それでもこの空気が苦手で、待つことができない私はすぐに手を挙げて立候補した。


「あの、私いきます」

「ほんと?滝沢さんありがとー!」

「これメモだから、よろしくね!」


 渡されたメモを見ると、重いものもなく、量も少なかったので一人でも大丈夫そうだと安心する。財布にお金が入っているのを確認して、教室を出ようとドアを開けると、反対側にいた秋山さんと鉢合わせになった。


「わっ滝沢さん!ごめんボーッとしてた」

「私のほうこそ気づかなくてごめん」

「ううん、もしかしてまた図書委員の仕事?」

「いや、今日は買い物で」

「そーなんだ」


 それじゃ、と言って横を通り過ぎようとすると、秋山さんから腕を掴まれた。


「あのさ、私手伝おっか?」

「量そんなにないし大丈夫」

「そっかぁ。うーん、実を言うと相談があって…」


 相談?そんなの秋山さんは星の数ほど友達いるだろうに。


「私に?」

「そう!滝沢さんにしかできない相談なの!」

「……わかった」


 そう言われるとさすがに断わりづらい。


 一人で気分転換の散歩をするはずが、何故か秋山さんの相談に乗るという憂鬱な時間になって、買い物リストが書かれたメモの端を潰してストレスを発散していると、横から笑い声が聞こえた。顔を上げて横を見ると、悩み事なんて一切なさそうな笑顔がこっちを向いていた。


「…なに?」

「いや、思ったよりも子供っぽいんだなって」

「秋山さんに言われたくないんだけど」

「えー、まあ確かに子供っぽいとは言われるけどさ。てか、そーゆーことじゃなくて、滝沢さんって大人っぽいから子供っぽいところもあるんだって思ったの」


 少しドキッとした。

 大人っぽい。それは、バイトの時の姿限定で、当てはまる言葉だと思っていたから。


「ほら、滝沢さんって背が少し高めじゃん?それに、意外と意見はっきり言ったりするし、成績優秀だしー、なんか完璧ってかんじ?」

「…そんな風に思ってたんだ」

「周りも皆そう思ってるから、高嶺の花で話しかけられないんだよ」


 この話が本当なのかは分からないけれど、もしそう思われていたとしたら、見当違いが過ぎる。私はそんな完璧な人間じゃない。成績はどうか分からないけれど、性格や容姿でいったら秋山さんの方が断然完璧だと思う。


「で、相談ってなんなの?」

「あ、そうそう相談ね!そーだったそーだった」

「そうだったって…忘れるほどの内容なの?」

「んー?いやいやそんなことないけどね、あはは」

「?」


 なんだか様子がおかしい。よく見たら、ずっと手をもじもじ弄っているし、涼しくなってきたこの時期に少しだけど汗で前髪が湿っている。

 それほど言いにくいことなんだろうか?


「あーとね、あのー、その……」


 狼狽している秋山さんをじっと見ていると、だんだん歩幅が合わなくなって、遂に秋山さんは立ち止まったので私も少し進んだ先で立ち止まる。

 ずっと足元を見ていた秋山さんの顔が上がって目が合った。その顔は赤らんでいて、初めて見る秋山さんの姿だった。



「わたし、好きな人がいるの」





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