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第一話 生きる資格

『徳量計 − The Karma Gauge −』




かつて人間は、死後の世界を信じることで「徳」を守ってきた。

だが、それはあくまで宗教的な教えであり、誰も“実在”を証明した者はいなかった。


――それが、変わったのは2025年7月1日。


その日、空に浮かぶ“声なき神託”が全世界に伝えられた。



「この世界は、再構築された」

「全人類の“徳”は、正確に数値化され、天の記録に刻まれる」

「+100を越えた者だけが天国へと昇れる」

「0以下は地獄へ堕ちる」

「既に、お前たちのスコアは測定済みだ」

「世界は、お前たちの“本質”に等しく裁きを与える」


その日から、人類は自らの“魂の価値”と向き合うことを強制された。



【現在の徳スコア:−17】


「……は?」


俺――**志織しおり**は、16歳。

ごく普通の高校生……だったはずだった。


学校から帰る途中、ふと頭の中に“数字”が浮かんだ。

それは視界の隅に、まるで血のように染みついて離れない。


−17。


それが俺の「魂の重さ」らしい。

ただし、これは“自分自身しか見えない”。


他人にはその人自身の数値が表示されていて、誰にも嘘はつけない。


この世界ではもう、演技も言い訳も、意味を持たない。



教室の静寂


「なぁ、オレ今日で+9だったんだわ。お前らは?」


「うちの親、+42らしいよ。超マジメ系だったからなー」


そんな会話が教室を飛び交う。

けれど、何かがおかしい。


本当は、ほとんどの人間が“マイナス”なのに、誰もそれを言おうとしない。


システムは“本人のスコアだけが見える”設計。

誰かのスコアを知りたければ、「その人自身に聞く」しかない。


だが、言えるわけがない。


99%の人間がマイナス。

“地獄行き”が確定している中で、誰が自分のスコアを正直に口にできる?


「志織、お前は?」


隣の席の市川が、軽く声をかけてきた。

いつもみたいに笑ってる。だけど、俺は知ってる。


市川が、昨日、陰で誰かを殴っていたことを。

そして、今日、何食わぬ顔で優しい言葉をかけていたことを。


「……見てない」


俺は短く答えた。



家にて


夕飯の席で、父が言った。


「会社の部下がスコア−88だったそうだ。昨日首にしたよ。地獄行きなんて奴と一緒に働けない」


母はそれに頷いた。


「でもあなたは大丈夫でしょ? 何点だったの?」


父は笑った。


「+12ってとこかな。まぁ、人並みにはね」


俺は無言だった。


この家族も、嘘をついている。


本当は、父も母も、マイナスを下回っていると思う。

けれど、それを口にすれば、もう家族は崩壊する。


「志織は? 見たんでしょ、自分のスコア」


「……見てない」


そう答えるしかなかった。



深夜、志織の部屋


ベッドに寝転がり、天井を見つめながら、俺は思った。


「なんで俺、−17なんだろうな……」


脳内に直接届くこのシステムは、「行動」「言葉」「感情」「思考」すべてを計測している。


・電車で席を譲らなかったかも

・泣いていた友人に声をかけなかったかも

・母の愚痴に無関心だったかも

・無意味な暴力をしたかも

・誰かの事を悪く言ったかも

そんな色んな理由の数々が思い当たる。このどれかが当てはまってるかもしれない。


……思い出すたびに、胸が締め付けられる。


でも、言わせてほしい。


“俺よりも醜い心を持っている奴”が、世の中には山ほどいる。


なのに、そいつらは「+」を装って笑ってる。

そういう連中に限って、いい顔して、表面上の善人を演じている。


でも、この“神のプログラム”は見抜いてる。

だから、実は世界の9割が地獄行きなんだ。


──だけど、じゃあ俺はどうすればいい?


ここからどうやって「+100」なんて数字を目指せというんだ。

救いが見えない。


そして、もうひとつ――


死んでも、逃げ場はない。



公園にて


翌日、学校をサボって公園でぼーっとしていた。

誰もいないベンチに座って、ひとりで考える。


そのとき、老人がひとり、隣に腰かけてきた。

ボロボロの服、痩せた体。まるでホームレスだ。


「お前さんも、数字に疲れた口か」


そう呟いた老人は、目を細めてこちらを見た。


「今、−17だろ?」


「え?」


俺は思わず声を上げた。

誰にも見えないはずの数字。どうしてこの人は……


「見えるんだよ。ワシには」


「おじさん……スコアは?」


「−998だ」


思わず立ち上がりそうになる。

だが、老人はまるでそれを誇るように、微笑んだ。


「ワシは全部やった。奪った、殺した、裏切った。人としての価値なんて、とうにない」


「……じゃあ、なんで……生きてるんですか」


「まだ、終わってないからだ」


老人の目が、まっすぐ俺を貫いた。


「ワシらが生きる意味はただひとつ。この数値が変わる瞬間を、選べる」


「選べる……?」


「地獄に堕ちるか、天国を目指すか。それは、今からの“生き方”次第なんだよ」


俺は黙った。


たった今、地獄の入り口にいる。

でも、そこから上を見上げている。

それだけで、まだ終わってないのかもしれない。


「おじさん、その体から見るに、何も食べてないでしょ?パンあげる。」


「ふん、まぁもらっておこう。」

怒りたそうな顔。しょうがないという顔。


これが当たり前になっていくのか


数字が動く


夜、自室でひとり目を閉じたとき――


頭の中に、数字が浮かんだ。


“徳スコア:−16”


たった1ポイント。

けれど、その変化が、何よりも重かった。

後書き

誰かが作ったこの徳プログラム。

この徳が可視化されることによってマイナスだった人には自殺した人もいたはず。

そして、主人公の無意味な暴力これは本当に暴力だったのか?


人は徳が可視化されるとどうなるのか?

これは作者の私が想像で描く人間の本性です。

徳が可視化されることによって、

人はこっから頑張ろうと思う人もいるけれど、

ものすごくマイナスの人であったら、もう無理だ死にたいと思う人も出ると思います。

でも、天国というものがあると分かったと同時に

地獄があるって分かった。このまま死んでしまったら地獄にいくことになってしまう。地獄がどんなものか分からないけれど、抽象的に悪い人が行く場所。ならさ、死にたくないじゃん。

そんな事を読者の皆様に問いかける。そんな作品です。


短編。長編。になるか分かりませんが、暖かく見守ってください!

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― 新着の感想 ―
自分にだけ徳のポイントが見えるシステム、すごく斬新で夢中で読み進めてしまいました。 応援しています!
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