両思い切符
田舎道を通る二両編成のワンマン電車。
沈みかけの夕日に照らされ白く染まった車内、揺られているのは僕たち二人だけ。
「まだかなぁ。」
今日何回目の台詞だ。
静かで、退屈な時間が好きな僕と違い、彼女にはこの車内が4時間目の国語のように思えるのだろう。それも雨の日の古典。
「駅に着いたら、アイス食べる?」
「え!食べる!大好き!」
散歩に行けるとわかった犬のような顔をして喜ぶから、思わず笑ってしまった。
通行人に怪訝な顔をされてしまったが気にはしない。
駅の外のセブンティーンの自販機で購入したアイスを
食べてご機嫌なのか、一時間以上揺られた退屈な車内での鬱憤は消え去ったらしい。にしても値上がりしすぎだこの自販機は。
そうして僕たちの目的である墓参りを終えた頃には、こんな田舎に街灯がある事に感謝を覚える程暗くなっていた。
帰りの切符を買うと彼女は、
「これ!両思い切符じゃん!」と言った。
切符に書かれた四桁の数字の真ん中の数が、二人の両思い度を表すらしい。
「60%は私の分の愛だよ。」
「じゃあ僕は21%しか愛してないことになる。」
そう返すと彼女は僕の肩を叩きながら笑いだした。
何が面白いのかは分からないが、楽しげに笑う彼女が好きだった。口角を少し上げて微笑むことが僕の最大の愛情表現なので、彼女に愛情を表現しておいた。
僕のことを知らない通行人に、僕は奇人だと思われているのだろう。
誰もいない空間に優しく語りかけ、微笑む奇人だと。
忘れられない人、忘れなくてもいいんじゃないかと思うんです。
ずっと、自分の中であの頃みたいに過ごしてくれたらと。