表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

両思い切符

作者: 月白 柊

田舎道を通る二両編成のワンマン電車。

沈みかけの夕日に照らされ白く染まった車内、揺られているのは僕たち二人だけ。

「まだかなぁ。」

今日何回目の台詞だ。

静かで、退屈な時間が好きな僕と違い、彼女にはこの車内が4時間目の国語のように思えるのだろう。それも雨の日の古典。


「駅に着いたら、アイス食べる?」

「え!食べる!大好き!」

散歩に行けるとわかった犬のような顔をして喜ぶから、思わず笑ってしまった。

通行人に怪訝な顔をされてしまったが気にはしない。

駅の外のセブンティーンの自販機で購入したアイスを

食べてご機嫌なのか、一時間以上揺られた退屈な車内での鬱憤は消え去ったらしい。にしても値上がりしすぎだこの自販機は。


そうして僕たちの目的である墓参りを終えた頃には、こんな田舎に街灯がある事に感謝を覚える程暗くなっていた。

帰りの切符を買うと彼女は、

「これ!両思い切符じゃん!」と言った。

切符に書かれた四桁の数字の真ん中の数が、二人の両思い度を表すらしい。

「60%は私の分の愛だよ。」

「じゃあ僕は21%しか愛してないことになる。」

そう返すと彼女は僕の肩を叩きながら笑いだした。

何が面白いのかは分からないが、楽しげに笑う彼女が好きだった。口角を少し上げて微笑むことが僕の最大の愛情表現なので、彼女に愛情を表現しておいた。


僕のことを知らない通行人に、僕は奇人だと思われているのだろう。

誰もいない空間に優しく語りかけ、微笑む奇人だと。

忘れられない人、忘れなくてもいいんじゃないかと思うんです。

ずっと、自分の中であの頃みたいに過ごしてくれたらと。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
アイスや両思い切符などの学生らしいエピソード、最後の儚さ、感動しました。「忘れられない人、忘れなくてもいいんじゃないかと思うんです。」その通りだと思います。僕にはずっと引きずってる人がいるんですが、僕…
面白かったです! ちゃんとオチもあって、儚さが残るラストとあとがきが切ないのに、なんだか背中を押してくれているような気持ちになりました。自作も楽しみにしてます!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ