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第97話:月の竜宮城


 「さてさて、最近は護衛とか、城下町のお散歩ばっかりだったからね──」


 ログイン直後、まどかは軽く伸びをしてから、カメラに向かって笑顔を向けた。


 「今回は、数日ぶりのダンジョン攻略に行きたいと思います!」


 配信を開始すると、画面には久しぶりに“ダンジョン用”の装備に身を包んだまどかといろはの姿が映る。


▶ 「戦闘きたー!」

▶ 「護衛ツアーお疲れ様!」

▶ 「ガチ装備もカッコ良かわいい!!」


 「本日向かうのは──こちら! グラストムーン近郊に新しく出現した“月の竜宮城”!」


 グラストムーンが建国された直後から出現が確認された新規ダンジョン。

 

 レベル帯は推奨46、丁度今のまどいろにちょい難で最適な難易度だ。

 

 地形は重力が軽く、ダンジョン全体が“浮遊感”に満ちているという噂だった。


 「一応言っておくけど、国民以外は入れないから注意してね。建国直後の特殊管理エリアって感じらしいよ!」


 「入場には制限もあるから、私たちも2時間しか探索できないけど……その中で、できるだけ奥まで行ってみよう!」


 このダンジョンは誰でも好きに入れるオープン形式ではなく、パーティごとに独立したダンジョンが生成されるインスタントダンジョン形式らしい。

 

 サーバー負荷の都合で1度に同時作成出来るダンジョンの数は5つまで。

 

 現在希望者が込み合うことを予想して1組2時間までの制限を付けて解放中である。

 2時間で5PT、24時間、つまり1日フル稼働でも60組しか挑戦できない計算となる。

 

 まどいろも入国してすぐに申請をだし、本日ようやく順番が回ってきた所である。

 

 内部の攻略情報はまだほとんど出回っておらず、攻略配信としてはかなり注目されていた。


▶「最新部みたい!」

▶「配信で奥までいった組はまだないよね?」

▶「これが初突破あるか!?」


 「さぁ、時間だよ。入るね、いろは!」


 「うん、準備オッケー!」


 2人が転送装置の中央に立つと、周囲の光が波紋のように広がり、体がふわりと持ち上がった。次の瞬間、視界が淡く反転し──


 ──月の竜宮城、第一階層。


 「……っ、うわ、なんだこれ……!?」


 着地と同時に、まどかは違和感に眉をひそめた。

 空間はやや暗く、蒼白い光が天井から差し込んでいる。

 

 足元は淡く光る岩石と、浮遊するクラゲのような植物に覆われ、重力が明らかに軽い。


 「なんか……歩いてる感じがしない……」


 「重力、じゃなくて……空気の感触まで違う気がする……」


 まどかが足で地面を蹴ると、ぴょん、と簡単に3メートル近く飛び上がった。


 「これは……逆に動きづらい……!」


 「地に足がつかない感じってこういうことなんだ……」


 スキル《二連歩》を使おうとしても、地面に“踏み込み”の手応えがない。空中で加速はできるが、着地のタイミングが読めずに着地後の動きがぎこちなくなってしまう。


 「ちょっとだけ、慣れよう。すぐ奥行かないで、体の使い方を確認しながら動こう」


 いろはの提案にまどかも頷き、ダンジョンの入り口付近で軽くスキルの動作確認を行う。

 ただ走り回ったり、ぴょんぴょんと跳ねて見たり。

 

 それはそれでコメントの評判がよかったりして、まどかもいろはも苦笑いをする。

  

 10分ほど慣らしたところで、ようやく体が“軽さ”に馴染んできた。


 「よし、じゃあ進もう。ここからが本番だよ!」


 通路を抜けた先には、吹き抜けのような広い空間があった。

 空中には、2メートル以上ある深海魚のようなモンスターたちが、優雅に浮遊しながら泳いでいる。


 「……これが、噂の“空を泳ぐ魚”か……」


 「攻撃、どうやって当てるんだろ……地面に降りてきたりする?」


 とその時、まどかが膝を軽く曲げて、天井へ向かって飛び上がった。

 ふわりと浮く体が加速し、魚の頭上まで余裕で届いた。


 「……行ける!」


 重力が軽い分、跳躍で十分に“空を制する”ことができた。

 まどかはそのまま魚の背に乗り、短剣を構える。


 「《スカーレットライン》!」


 一閃、赤い軌跡が魚の背を切り裂く。

 

 モンスターが振り落とそうと体をねじるが、まどかは重力を逆手に取り、あえて浮かびながら反対側へ回り込み、再びスキルを放つ。


 「いろは、援護頼む!」


 「《フォース・サークル》! 周囲に魔法球展開!」


 いろはの魔導珠が飛び交い、魚の動きを封じる。まどかがもう一度跳びかかり、3撃目を叩き込んだところで、魚は低くうねって地面に墜落した。


 「──討伐完了!」


 「やったね! ハイタッチっ!」


 空中で軽く手を合わせる2人。

 この異空間のような場所での戦闘は、最初こそ違和感が強かったが、適応さえしてしまえば、他のダンジョンにはない爽快感があった。


▶「空中バトル?新鮮だ!」

▶「相変わらず綺麗な連携!」

▶「次のモンスターも楽しみ!」


 「よし、この調子でどんどん進もう! このダンジョンの“最深部”、私たちが最初に見せるんだ!」


 「うん、絶対いけるよ、まどにゃん!」


 “月の竜宮城”──

 

 空と海が反転したような幻想的な空間で、まどかといろはの冒険が、静かに、そして確かに加速を始めていた。

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