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第92話:強者の化学反応


 「ねえ、いろは見た!? 昨日のルナとリーフのコラボ配信!」


 朝ログインしてすぐ、まどかの第一声はそれだった。


 「当然! っていうか、びっくりだよね~。2人ともずっとソロばっかりだったのに!」


 「トップ勢って、なんか“ソロこそ至高”みたいな空気あったもんね……」


 「あるある。もしくは企業系でがっつり組んでるチームとかさ」


 「でもあれはもう別ゲーって感じだし……って、そんなことも言ってられないか」


 「うん。だってまさか、予想以上に意気投合して“国家建設”まで行くなんて……」


 


 『国家建設』──World Link Archive最大級のコンテンツのひとつ。


 単なるギルドやクランとは異なる、正真正銘の“国”を作るシステムである。


 プレイヤーたちは膨大なコインと少なからぬダイヤを投資して土地を購入し、拠点となる城や都市を築く。


 拡張や国営施設の整備、NPCやプレイヤーの受け入れなど、国としての維持・発展が求められる。


 現在、正式に建国された国家は以下の3つ:


 「トリガーレイン」:プロゲーマーチーム主体。統率と戦術に特化。


 「ドリームネット」:大手Vtuber事務所主導。メディア連携と文化力に強み。


 「ブラック・ギャング」:人気配信者連合。企画力と広報に長ける。


 どれも10人以上の有力プレイヤーが協力し、計画的に立ち上げられた強大な国家である。


──だが。


 昨日、まさかの事態が起こった。


 ルナとリーフ。どちらも完全ソロスタイルを貫いてきたトップ配信者。


 この2人がまさかのコラボを発表し、それだけで界隈は大騒ぎだったというのに──

 その配信の最後、2人だけで“国家”を建ててしまったのだ。


 


 事の始まりは、一本のコラボ配信だった。


 最初はぎこちなさもありながら、2人で未踏破の“推奨レベル不明”ダンジョンに挑戦。


 入り口の雑魚ですらLV70超え、内部の敵はLV75~80台。攻略どころか帰還すら困難と噂されていた場所だ。


 ──だが、彼女たちにはそれを覆す力があった。


 ルナの役職は“ダブルブレイカー”。二本の剣で敵を切り刻む、爆発力特化の職業。


 どんな硬い敵でも、強引に装甲ごと削り取る高火力がウリだが、その分被弾には弱い。


 対するリーフは、精霊術士。

 複数の属性精霊を状況に応じて召喚し、攻撃・回復・バフ・デバフを自在に操るオールラウンダーだ。


 片方だけでは限界があるダンジョンも──2人が組めば、まるで無敵のユニットのように進んでいく。


 「ルナ、次、炎の群れ来るよ! 火精霊切って風に切り替える!」


 「オッケー、そっちは任せた。私、前押すね!」


 連携は急速に洗練されていき、2人は10階層の最深部へと到達する。


 そして──


 待ち受けていたボスモンスターは、LV81の堕ちた女神 《ジュブラ=ニクス》。


 神話級とされるその存在は、最大級の召喚魔法で眷属を呼び出しつつ、広範囲魔法で攻めてくる超攻撃型ボスだった。


 だが、2人はそれすらも突破する。


 リーフが眷属を足止めし、ルナが本体へ斬り込む。


 ヒールと回避、支援と突破──その流れるような立ち回りに、視聴者のコメント欄は絶叫に包まれた。


 ──そして、勝利。


 ジュブラ=ニクスのドロップアイテムは当然豪華だったが、そこに混ざっていた“あるアイテム”がすべてを変える。


 

【繁栄の証】

 効果:国家運営全般にプラス補正。災害・暴動・資金難などのマイナスイベント発生率を低下させる。

 説明:この証を国王が持つ限り、国の繁栄は約束されるだろう。


 

 その瞬間、配信は一気に緊張と興奮に包まれた。


 「──これ、国家運営系のレジェンドアイテム……だよね?」


 「たぶん……あの3国でも、こんなの持ってないはずだよ」


 画面の向こうで、リーフが口元に指を当て、そっと言う。


 「ねえ、ルナ。私たちで国……作っちゃう?」


 「……ふふ。いいよ、やろう」


 その会話が冗談ではないと気づいた瞬間、配信コメントは一斉に爆発した。


▶ ええええええ!?

▶ マジで!? ガチで建てるの!?

▶ 2人で国家って前例ないぞ!?

▶ どうなるのこのゲーム……


 ──そして、約30分後。


 膨大な資金が投入され、新エリア 《月鏡台地》 に、

 新国家 《グラストムーン》 が建国された。


 ソロを貫いていた2人の、初めての共同作業。


 それは、ゲームのルールすら塗り替える、“革命”だった。


 

 「──すごい、よね……」


 画面の前で、まどかがぼんやりとつぶやく。


 「うん。これはもう、時代が動いたな……! って感じ」


 いろはが、静かに呟き返す。


 彼女たちの配信は、ただの戦闘ではない。

 

 関係性も、物語も、プレイヤーの価値観さえも動かしていく。


 そして──まどかの胸の奥が、ざわりと震える。


 いつか……もしかしたら、私たちも)


 まだ小さな光だけど、届かない距離じゃない。


 自分の“推し”が、動いた。

 なら──自分も、また、走り出さなきゃ。

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