第89話:鳴かないぶさかわ
「──っ、また来た!」
バッシャアァッ!!
水面から跳ね上がった巨大なサメが、空中を舞うようにして2人の横をすり抜けていく。
「ちょ、なにこのジャンプ力! サメってこんな跳ねるもんなの!?」
「直撃くらったらたら即リスポーンでしょコレ……!」
気づけば、足場の氷もさらに狭くなっていた。
あたりは完全に“海”──もはや進める場所すらない。
▶ 足場を崩してのサメラッシュ!
▶ これ詰みじゃない?
▶ サメ多すぎwww
まどかが、小さく息を吐く。
「……いや、絶対詰みの構成じゃない。ここまでの流れを見ても、無茶はしても理不尽な設計はされてなかった」
「でも、このままだと……」
「時間の問題だよね。実際、じわじわ距離も詰められてきてるし……」
ふたりが立つ足元に、ふたたび水しぶきが舞う。
またもサメが、真横を掠めていく。
まどかは反射的にナイフを構えようとして──ふと、気づいた。
「……ぶさかわ、さっきから全然鳴いてない」
「え?」
「いつもなら、敵が近づいたら鳴くのに。こんなに近づかれても無反応……」
「ってことは……もしかして?」
「──こいつら、“敵じゃない”んだ」
いろはが息を呑む。
「じゃあ……さっきから跳ねてるこれは攻撃じゃない、ってこと……?」
「そういうことだよ、そして── 」
まどかが叫び、次に飛び上がってきたサメの背に向かって──跳んだ。
空中で、サメの大きな背ビレに手をかける。
まどかの体が宙に持ち上がるように引き寄せられた。
「やっぱりダメージ判定ない! 乗れるよ、いろは」
まどかはサメに飛び乗り、いろはに向けて片手を伸ばす。
「ひゃっ……う、うんっ!」
まどかの手を取ったいろはも、もつれるように海へ──
冷たい水に体が飲み込まれる。
視界はぐらぐらと揺れ、呼吸ゲージがゆっくりと減り始めていく。
「──まどか、どこ……っ!」
「だいじょうぶ、もう少し……!」
しがみついていたサメが、ぐんっと加速した。
そのまま海中を滑るように泳ぎ、前方に見えたのは──
空気が存在する、ドーム状の空間。
「──出るよ!」
「えええっ、どこに!?」
直後──
サメが水面を突き破るようにして、ドームの中へジャンプ。
「今だ!」
まどかはタイミングを見計らって手を離す。
不格好に回転しながらも、どうにか着地。
サメはそのままの勢いでドームを突き抜け再び海の中へ。
いろはも転がるように着地して、2人でほうっと息をついた。
▶ もし敵判定だったら衝突ダメージで死んでたぞw
▶ ぶさかわがここでも有能すぎる
▶ このドーム、でかい水泡みたいなもんか?
2人が立っていたのは、透明なドームに包まれた水中の空洞だった。
壁にはサンゴや海藻のような装飾、足元にはひんやりとした石のタイル。
「……これは、第五階層?」
「っぽいね。やっと、たどり着いた……!」
そして、奥には緩やかに下る通路。
「いくよ、まどにゃん!」
「うん。──いよいよ、最下層だね」




