第8話:格上の洗礼
「じゃ、入るよ」
「うんっ、カメラ回ってまーす!」
今日の舞台は、中級者向けダンジョン《ディセント・フォレスト》。
推奨レベル32、状態異常を多用する敵と、地形トラップが待ち構える危険地帯。
まどかといろは、現在のレベルはそれぞれ28と27。明らかな格上ダンジョンだ。
入り口前で簡単なストレッチと武器確認を済ませ、転送陣を抜ける。
──空気が違う。
薄暗い森の中。まばらに差し込む光と、湿った土の匂い。
背の高い樹々に囲まれた道は狭く、迷路のような構造になっている。
「え、何ここ……雰囲気だけでこわいんだけど」
「事前の調査じゃ、ここ、最初から敵出るからね。気を抜かないで」
「りょーかい、いつでも叫べる準備できてるよ!」
「そうじゃない……」
苦笑まじりに返しながら、まどかはナイフを抜いて構える。
その瞬間──茂みがざわりと揺れた。
「来るよ!」
現れたのは、木の根のような触手を生やした獣型モンスター。
《ウッドスプリンター》。一見獣系だが、樹属性を含んだ変異種。
「たしか、あれは……火属性が弱点!」
いろはが詠唱を始める隣で、まどかは前へ出る。
「二連歩!」
まどかの足元が一閃、残像を残しながら前方に跳ぶ。
敵の目の前へすべり込むと同時に、手元のナイフが閃いた。
しかし──
「っ……硬い!?」
思ったよりダメージが通らない。スキルは当たっているが、手応えが鈍い。
その直後、横合いから突き出された蔦がまどかの足元を薙ぐ。
「うわっ──!」
体勢を崩す。敵のレベルが高いせいか、わずかなミスが命取りになりかける。
「陽焔斬っ!!」
火属性の光刃がいろはの杖から飛び出し、敵の背を焼く。
炎を浴びてのけぞるモンスター。その隙にまどかが立て直し、ナイフを深く突き刺す。
「いける!」
渾身の連撃。いろはの炎も続く。2分ほどの激闘の末、ようやく敵は崩れ落ちた。
【コメント欄】
▶ 初戦闘からこの緊張感……
▶ ウッドスプリンター硬すぎじゃね!?
▶ いろはの動きもだんだん良くなってる。
「……っぶな……思ったより全然強いじゃん」
「まどにゃんかっこよすぎて叫ぶ暇なかった……!」
息を整えながら、まどかは慎重に辺りを見回す。
ただのザコ敵、とは言えない手応えだった。
「前もって情報は調べてた。弱点も構成も。でも──それでもギリギリだった」
モンスターのレベルは30前後。
推奨32という数字が、ただの目安じゃないことを、身をもって思い知る。
「……これは本当に“挑戦”だね」
「うん。でも、やっぱワクワクするね!」
いろはの目が、きらきらと輝いていた。
「慎重に行こう。次の敵はもっと厄介な可能性もある。こっから先は、気を引き締めて」
「はいっ、まどにゃん隊長!」
軽く手を挙げて応えるその様子に、まどかは小さく笑った。
格上のダンジョン。
初見のフィールド。
それでも──二人なら、きっと進める。
心の奥に、そう確信するような何かがあった。
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二連歩
直線軌道で素早く2ステップ移動するスキル。
発動後、次のスキルの発動モーションが短縮される特性があり、奇襲や回避からの連携攻撃に優れる。
陽焔斬
いろはの火属性魔力を二連の光刃として放つ中距離攻撃スキル。
演出による視覚効果が高く、配信映えのするフィニッシュ技としても重宝される。
その分威力は若干控えめ。