第88話:氷はいずれ
「……うわ、でかっ」
まどかのつぶやきと同時に、巨大な白影が咆哮をあげた。
通常の2倍以上はありそうなシロクマ。
氷の床をズシンズシンと踏み鳴らしながら、こちらへと突進してくる。
「油断するとマジでやられるやつじゃん! 二連歩!」
すれ違いざまに懐へ滑り込み、ナイフを滑らせて肩を裂く。
同時に、背後から飛ぶ魔導珠。
「リコレクト・ボム!」
爆音と共に、シロクマが体をブルリと震わせる。
「効いてない……ってことはないけど、タフだなぁ」
「大きい割に結構早いし、出し惜しみはしてられないね」
▶ マジで死ぬレベルの敵出てきた
▶ これ普通にだいぶレベル格上じゃない?
▶ 本気で倒しにかかってるな
何度かの交戦の後、シロクマは大きな被害なく倒しきるが……
「まだいるよ! ……あれ、でかくない?」
広間の奥から現れたのは、シロクマよりさらに巨大な──
ペンギン。明らかにボス級のサイズだがボスではない。
でかいくせに複数で群れており、歩くたびに地面が揺れる。
そして空からは、なぜかプカプカと飛んでいるトビウオの群れ。
「トビウオってそういう飛び方じゃないでしょ!?」
倒しても倒しても次から次へと新しい敵が襲ってくる。
「ちょ、こっちも対応しきれない!」
「ぶさかわ、下がってて!! ……って、聞いてないなあの子!」
しばらくの激戦を制したあと、一息つく。
かなり際どい場面もあったが、目に見える敵はすべて倒した。
だが──
「……階段、ないね」
「うん……マップ的には、もう一周してるはずなんだけど……」
行けるところは探しつくした。
隠し通路やギミックも疑ってみたが、どれもそれっぽい手応えはない。
──何かを見逃している?
次の階層への道筋を考えていると、奥の方から低く響く音が聞こえた。
「……っ、なに、今の音」
グラッ。大きく揺れた床に、2人がバランスを崩す。
「地震!? ……じゃなくて──」
「足場の氷が──崩れてる!?」
マップの端から、氷の床が音を立てて崩れ落ちていく。
ヒビが走り、粉々になった氷板が水面に飲まれていく。
「まどにゃん、こっち!!」
いろはが残っていた足場に飛び乗り、まどかも後に続く。
ヒヤリ、としたが、間一髪で崩壊を免れた。
しばらくして──
2人の立つ氷床のまわりはすでに“海”と化していた。
青く澄んだ水面の下を、大きな影が横切る。
「……今の、サメだよね。え、いや……あれ……クジラ?」
「え? まって、あれクジラサイズのメダカじゃない?」
水中でうごめく巨大な魚影たち。
もはや氷のフィールドではない。足場はほとんど残されておらず、
このままでは身動きがとれない。
▶ この追い詰められた感じ……!
▶ サメ…… どこからともなくあの音楽が聞こえてくる!
▶ なんかぶさかわが真顔なのジワる
まどかが、ふぅ、と大きく息を吐いた。
「どうしたもんかな、これ……」
──謎のダンジョン主の“おもてなし”は、まだ終わらない。




