第80話:職人たちの手へ、素材と未来
「ただいまー!」
街の陽光がまぶしい午後、まどかといろは、そしてぶさかわの2人と1匹は鍛冶屋へと戻ってきた。
扉を開けると、ミナトとサラが顔を上げて迎えてくれる。
「おかえり。配信、最後まで見てたよ」
「まさかあんな巨大ドラゴンが出てくるとは……想像以上だったね」
「ふふ、楽しかったよー!」
まどかが軽く笑いながら、インベントリから素材を取り出す。
「──はい。これが、今回の戦利品」
テーブルの上に置かれていく牙、爪、そして赤黒く光る心臓。
ミスリルの欠片に、高級鉱石のかけら。エリクサーの瓶と、宝石の詰まった小袋。
「……これは……っ!」
ミナトの目が輝いた。いや、本当に光っていた。
「すごい、すごいよこれ……! 実物を前にすると、テンション上がりすぎて手が震える……!」
「強化の話だけどさ、これだけの素材があるなら……正直、今の武器をいじるより、一から作った方が良いモノができると思う」
「……それは、つまり──」
「新武器、作ろう?」
まどかといろはが顔を見合わせる。
そのあと、2人とも同時に頷いた。
「もちろん、お願いするよ」
「うちの新しい主力、ミナト印でお願いね!」
話し合いの中で、素材とアイデアが組み合わさっていく。
アイデアが固まるとミナトはさっそく工房に篭り作業に取り掛かる。
その間サラと戦利品の買い取りや備品の購入など30分ほど相談した後、作業を終えたミナトが工房から出てくる。
「なかなかいい出来に出来たと思う、どうかな?」
そう言うと新しい装備を3人の前に並べていく。
● まどか用:深紅の龍心核
鉱脈竜の心臓をベースに、ブレイザークローを素材として合わせた新ナイフ
高密度・高硬度の芯材により耐久と貫通力が格段に上昇
見た目は既存のナイフに近いが、結晶が微かに脈打つような装飾
● いろは用:リコレクト・オーブ
ミスリルを中心に構成した「魔導珠」
魔法の威力を底上げする詠唱強化装置
魔力で浮遊させ、物理攻撃の補助にも使える“投擲補助武具”
通常の杖と違い、両手を塞がないのも利点
「素材がかなりあったから、防具の方も調整して一段階上の性能に上げられると思う」
「ほんと、いつも頼りにしてるよ」
「うわーこれが、魔導珠……! ふわっと浮かぶんだね……!」
「試しに魔力込めてみて」
「うん── 《浮遊》 ……」
珠がふわりと手を離れ、いろはの肩の高さでゆっくりと回転を始める。
中心に淡い魔法陣が浮かび、微かにチリチリと音を立てる。
「やだ、これかわいい……!」
「攻撃も防御も支援もいけるって話だったよね? 使いこなせたらめちゃくちゃ便利じゃない?」
「ナイフも魔道珠も今までよりクセはあると思うから、動きながら慣れてくれるといいよ」
「じゃあ……せっかくだし」
まどかがにやりと笑う。
「肩慣らしに、どこか狩りに行こっか? ミナトたちも一緒に」
「えっ、いいの?」
「たまには前線も歩いておかないと、職人の説得力も落ちるからね」
「私もミナトもレベルは30だけど、職人だから戦闘はあんまり慣れてないわよ?」
「大丈夫、私達2人でフォローするから、たまには体を動かそう!」
「こっちとしては溜まってるクエストも消化できるから助かるけど、いいのかな?」
「いいのいいの! たまには一緒に遊ぼう!」
まどいろの強引な誘いに、2人もせっかくならと承諾をする。
支度を整えた4人と1匹は、フィールドへと移動する。
選んだのは、市街から少し離れた【エルスリス旧道】と呼ばれる中レベル帯の狩場。
適度に敵が出現し、回復所も近いため、30前後のプレイヤーたちがよく利用している場所だ。
まどいろにとっては軽く遊ぶにはちょうどいい。
ぶさかわもご機嫌に鳴きながら、草むらを跳ね回っていた。




